〔 想いの強さ 〕





ボルテールの艦内をのんびりと歩いていると、隊長室の前で腕を組んで立っているディアッカと遭遇した。
壁によりかかって天井を仰いでいるその姿に、私はとても嫌な予感がした。
やがて足音に気づいたディアッカが私を見つけ、軽く手をあげた。

「よっ!。」
私は隊長室にチロリと目をやり、ディアッカに言葉を返した。
「ディアッカ。・・・・なんで廊下にいるの?」

今は緑を着てはいるけど、元は私と同じ赤服のディアッカ。
イザークが白服になって隊長になってからは、異例の緑で副官を務めている。
だからこの時間は、イザークの部屋で執務をこなしているはずなんだけど・・・。

ディアッカが外にいるってことは・・・・荒れてるな?

ことを察知した私は、いつもはめったに見せないような笑顔を浮かべてディアッカに近づいた。
「じゃーコレ、我らが隊長どのにお渡しくださいな♪」
私は笑顔でディアッカに書類を差し出した。

「・・・・・・やだね。」
ディアッカは私の差し出した書類を受け取らず、そのまま私の腕をつかむとくるり、と回転させた。
目の前には隊長室のドア。
やるな、ディアッカ。

「ちょうど用事があるなら、がなんとかしてくれよ。」
部屋の中からは、ドゴン、バゴン、と音が聞こえてくる。
やっぱり荒れてるよ。

私はディアッカを半目でニラみつけた。
当然ディアッカはしらんふりで上を見上げている。
・・・・くそう。


「たーいちょー?入りますよー?でぇす。」
媚びるような猫なで声をあげて、私はドアを開けた。
と、狙ったように顔面にむかってぶ厚い本が飛んでくる。

私は慣れたようにヒョッとよけて、右手で本を受けとめた。
案の定、部屋の中はぐちゃぐちゃだ。

「入ってくるならノックくらいしろ!」
八つ当たりともとれる言葉を吐き捨てて、イザークが私をニラみつけている。
私はあきれた面持ちで肩をすくめた。

「ノックしたって、気づかないでしょ。今のイザークは。」
「〜〜〜〜うるさいっ!」
私はイザークの元へ歩みよりながら、手近にある本を拾い上げる。

「で?今日の原因は?」
はい。と本を渡しながら、私はイザークに問いかけた。
イザークはばつが悪そうに本を受け取り、チッと舌打ちした。
こら。その態度はなんだ?

「――――アスランが、脱走した・・・・ッ」
「は?」

なんだか一度聞いたことのあるセリフだ。
確かあのときも私は、こんな風にマヌケな声をあげた。

「コックピットは見つからないらしいが、・・・撃墜されたという報告を受けた。」
「・・・・ふーん。」
イザークの言葉に対して、私は何の感情も示さずに相づちを打つ。

、きさまァ・・・っ!!」
そんな私の態度がお気に召さなかった隊長は、ばあん!と机をぶっ叩いた。
反動で机の上から、ひらひらと紙が舞い落ちる。
あーあ。コレも重要書類なのに・・・・。

「撃墜されたことの意味がわかってるか?!っ!」
私は舞い散った書類をかき集めながらため息をついた。
イザークのほうを見れば、今にも頭からマグマを噴き出しそうだ。

「知ってる。私、一応赤なんで。」
イザークの感情を逆なでするように答えると、机が再び大きな音をあげた。
たぶん『痛い痛い痛い』って言ってるよ、その机。


「・・・死んだんだぞ・・・っ?!アスランがっ・・・・」
苦しそうにイザークは声をあげて、グッと拳を握りしめた。

あいかわらずなその姿に、私は思わず笑みを漏らした。
こんなときばっかり友情に厚いんだから。この男は。

「ありえないよ。」
私は笑みを絶やさずに、イザークに言った。
「アスランが死んじゃうわけないじゃん?誰がアスランに勝てる?」

イザークが顔をあげた。
私は集めた書類をイザークへ手渡す。
「アカデミーでは歴代最強。ザフト入隊後も最前線でエース。そのアスラン・ザラが?誰が討てるの?」

ぐぐぐっと拳を握りしめたあと、イザークはふっと身体から力を抜いた。
。きさまは・・・・。もっと素直に言え。」
「それはお互い様でしょ?そんなに心配なら普段から仲良くしてればいいのに。」
「なにィっ?!」

声をあげるイザークだけど、その声色にさっきまでのトゲトゲしさはない。
きっと彼も信じた。
アスランが死んでないって。


「ところで。なんだか聞き捨てならない言葉だったな。・・・『アカデミー歴代最強』だと?」
「あ、気づいてた?」
物事の判別もつかない位にかんしゃく起こしてたから、記憶に残らないと思ってたんだけど・・・。
ちょっと甘かったか?

「死んでないとしてもだ!年下に負かされてるヤツが最強なものか!」
「ここにもいたね、年下に負けてる人。」
あはは、と笑いながら指をさすと、イザークがふん!と手を払い除けた。
墓穴を掘ったことを言ったのは自分なのに。

「うるさいっ!あんなヤツに今の俺が負けるものか!」
「はいはいはい。今じゃ無敵の白だもんね。イザークは。」
自分の力に自信たっぷりな目の前の男に、私はえいっとばかりに抱きついた。

「イザークのそんなところ、好きだよ。」
「・・・・ふんっ」

素直に答えてくれないのはあいかわらず。
それでもこうやって抱きしめ返してくれるイザークが好き。

「そんじゃ、そろそろ仕事しよーぜ?なぁ、イザーク。」
さらっと入ってきたディアッカに、ピキッと固まるイザーク。
らしくない様を見られたことに、かなり動揺しているのがわかった。
このくらい、場数踏んでるディアッカにとったら、なんてことないのに。

照れ隠しのようにその後わめき散らすイザークに、私たちは声をあげて笑った。



イザーク。
その気持ちの強さでは、アスランに勝ってること知ってる?

仲間を想う気持ちも、私を想う気持も。
イザークはアスランより強いと思うよ?

アスランの名誉のために、コレは絶対言わないけど・・・。
私はあの日、アスランじゃなくてイザークを選んだんだから。

イザークが好きだよ。
これからも、ずっと。





   END


【あとがき】
 何気にvsアスランでした。
 バナーを贈ってくださった、富介さまに捧げます!
 ライナにできる精一杯の愛をこめてっ!
 なのにイザークが甘い言葉一つはいてなくてゴメンナサイ。
 ドウゾ受け取ってください。富介さまのみ、お持ち帰りOKです。