〔 戦いのおわりに。 〕





ヤキン・ドゥーエは放棄され、ジェネシスはその凶悪な力を止めた。
キズつき、チカラ尽きた者たちは、戦域に響くプラントのカナーバ議員の声を聞いた。
この宙域における、すべての戦闘行為の停止。
新たな平和への道のりへ進む、第一歩。

・・・・・それは、世界では、の話。
アークエンジェルの艦内では、
新しい戦いの火蓋が、切っておとされようとしていた。



「アースーラぁン!! 貴様ァ、逮捕、連行、脱走とは、一日でご苦労だったな!」
「イザーク?! どうしてお前がアークエンジェルに?」
「オレ様がお前なんぞのために心を痛めてやったというのに、
 何をのこのことあんな機体で!」


イザークのまったく無傷な姿にも驚いたアスランは、
首根っこをつかまれているにもかかわらず、苦しそうな顔ひとつしない。
そのことが、ますますイザークを苛立たせる。

「貴様ァ、よくもよくもに心配させたな! 
 おかげでがオレの事を考える時間が減ったんだぞ!」
「当たり前だろ、は俺が好きなんだから。」
「なぁにおう! ありえん! 何を根拠にそんなことを言っている!
 とり消せーーーー!!」


今ここにいる部外者が、元地球軍のミリアリアだけだったことに、
ディアッカは心の底から感謝した。

自分たちがいるこの艦、アークエンジェルは、
ザフト、果ては連合にまで狙われていた最強艦であり、
自分たちもまた、
昔は躍起になって落としにかかった、いわば命のやりとりをした艦だ。

そのクルーたちにこんな姿を見られたら、
ザフトレッドの名は永遠に恥に落ちる。
いや、地に落ちる。



シュンっと軽い音がして、ブリッジに新しく人が入ってきた。
「あれ? アスラン。」
キラはブリッジをぐるり、と見回すと、
「ここってザフト艦?」
と言って笑った。

「マリューさんたちは?」
「あぁ、おっさんがだいぶ大ケガしたからな。
 一緒に救護室なんじゃねーの?」
「おっさんじゃないって、また言われるわよ?」


ディアッカとも知った顔の、この栗色の髪の少年が、
コロニーメンデルで言われた地球軍所属のコーディネーターだったことが、
イザークには瞬時に理解できた。

「きっ・・・・さまァ・・ッ! ストライクぅぅぅううう!!!」
鬼のような形相で、キラに食ってかかるイザーク。
あちゃー・・・と頭をかかえたのがディアッカ。
ヤバイよ・・・と青い顔をしたのがミリアリア。
やめとけ、とイザークを止めようとした手を、自分可愛さにひっこめたのがアスラン。

一番嫌な立場に立たされているはずのキラだったが、
別にたいして驚きもせず、イザークに向き直って笑顔で言った。
「僕の名前はキラ・ヤマトだってば。ストライクなんて名前じゃないよ?」
腰に手を当てて、いかにも怒ってます!とアピール。
「だいたい今はフリーダムに乗ってるんだし! やーだやだ。」
あっけらかーんと言ってのけたキラに、今度はイザークが対応しきれなかった。



「アークエンジェルのブリッジにようこそー♪」
キラのホストクラブ入店のような言葉をうけて、
そろり、と中に入ってきたのは、
ザフトのパイロットスーツに身を包んだ、
ジュール隊所属、だった。

?! お前はエターナルへ行けと・・・ッ」
「ごめーん、イザーク。エターナルの格納庫、
 もういっぱいで入れないって言われちゃって、
 乗艦させてもらえなくってー。」

隊長、なはずのイザークを呼び捨てにし、
アスラン、ディアッカとも顔見しりのは、全員とアカデミーの同期生。

当初の配属先もクルーゼ隊であり、“赤”こそもぎ取れなかったが、
僅差で敗れて緑になった女性パイロット。
アスランたちの代は、ケタはずれに優秀だったことを考えれば、
そこいらの赤服とは勝負にならないレベルのエースパイロットなのだ。


入ってきたの手を、あっという間につかみとったアスランは、
近寄りすぎだぞ、というくらいの位置まで顔を寄せた。

! やっと会えて嬉しいよ。
 イザークから聞いたが、心配かけてしまっていたようですまない。
 俺はこのとおり元気だし、
 何よりを想う気持ちはあの頃のままだから、安心してくれ。」
自分のセリフに酔いながら告げたアスランに、容赦ない言葉がとんだ。

「何言ってるの? はえぎわアスラン。
 おでこが光ってまぶしいから、もうその手離してよね!」

ばしんっとアスランの手を叩き落してキラが言う。
普段の物腰穏やかな彼しか知らなかったディアッカは、
口をパクパクさせて驚いていた。

「ざまーみろ、アスラン!
 おい、フリーダムご苦労だったな。はオレの連れだ。」
あいかわらず、イザークの頭には機体の名称の方がインプットされていた。

「ちょっと! それも僕の機体だって。
 ・・・あぁ、そういえば“デュエル”はずっと“イザーク”に乗ってたんだっけ?」
「逆だぞ、おいっ ワザと間違えて言っただろう、貴様!」
「何だよー、先に仕掛けてきたのはそっちでしょ?」

「あーあーあー、もう! 何でもいいからさ。
 私は早くラクス様に会わないといけないの。」
このままじゃドロ沼だ、と察してが止めに入る。

「私のシグーはここに置かせてもらって、
 ここから連絡艇でエターナルに行きたいんだけどな。」
、シグーで来たのか? 
 停戦したといっても、どうやってアークエンジェルに入ったんだ?」

「あ〜あ、アスランってばそんなの考えるからライン後退しちゃうんだよ? 
 僕がフリーダムで外にいたのは何の為だったと思ってるの?
 のことを待っていたんじゃないか。」

「はい?」
「シグーがきたからすぐわかったよ? あ、が僕に会いにきたって。」
「・・・私のシグーは量産型よ・・・?」
「やだなーまで。わかるに決まってるじゃない。
 最初から僕たち、いつも一緒だったんだから!」



補足。
 → いつも一緒にいた、は間違いで、いつも戦っていました。
 → エターナルに入れなくてウロウロしていたシグーは、 
    の機体だけではありませんでした。
 → なのに、キラ・ヤマト君は迷いもせずにの機体の手を引いて、
    アークエンジェルに連れてきました。
 → さすがは人類の夢、最高のコーディネーターですね。



「あ・・・なんかオレ、打ったところがまた痛い・・・。」
「うそ、大丈夫? ディアッカ、心なしか顔が黒いよ?」
「キラ・・・・・。やっぱりオレ、救護室行くわ・・・。」
ディアッカに付き添って、ミリアリアも出て行ったところで、
キラがポツリと言った。
「救護室には、トールがいたっけなー。」

MIAに認定されるほど絶望的な状況から、トールは奇跡的に戻ってきていた。
しかしその間にミリアリアはディアッカと、
恋人、とはいかないまでも、良い仲になっていたのだが。
そーいう事は早くあいつらに言ってやれ!
怖くてとても口に出せないアスランだった。


「何か、まだ行けなそうだね、エターナル。」
「大丈夫だよ、。僕がラクスから聞いておいたから。」
「え・・・?」
「停戦から終戦は間違いないから、この先どうするかって、事でしょ?」
「あ、うん。そう・・・です。」
「とっても残念なんだけど、ラクスも僕もアスランも、オーブへ行くつもりなんだ。」
アスランも、と言われて、
まったくそんなことを考えていなかったアスランが一歩後退した。

「おい。俺はまだ何も!」
「だめだよ、アスラン。君に拒否権はないんだから。
 カガリもいきなり国家元首なんて大変だし、サポートしてあげたいって、ラクスが。
 僕も国家元首の弟として、いろいろ権力握っとかなきゃならないし。
 混乱だってまだあると思うから、いざってときには君に僕の盾になってもらわないとね!」
あはは、と笑い飛ばされては、アスランに反論できる度胸はない。

「そうか、ラクス様はオーブに・・・。
 それじゃ婚約者のアスランが一緒に行くのも当たり前だし。」

いや、出来ればパスさせてください、彼女の婚約者。
っていうか、あの扱いは婚約者じゃないだろ。
良くてハロと同レベル。
悪くてオカピ以下。

「キラとアスランも、やっと戦わなくて元通り仲良くできるんだもん。よかったね!」
満面の笑みで言われても、アスランは涙をこぼすしかなかった。

「安心しろ、アスラン。
 オレとはプラントへ2人で戻り、数ヵ月後には特別な招待状を送ってやる。」
「あ、いいなー。ジュール家のパーティーでしょ? イザーク、私も私も!」
「いいだろう、。だがお前は招待客などではない。主役だぞ。オレと。」

“結婚式の事言ってやがる、コイツ”
と思ったのはアスランとキラだけで、にいたっては相変わらず
“モビルスーツに乗って、何か出し物やれってこと?”
くらいにしか思われていなかった。



「それじゃ、僕が国家元首の弟として、ばっちり権力握ってみせるから待っててね。
 しばらく会えなくてツライけど、ちゃんと会いに行くから。」

、ラクスはもう俺にとって婚約者じゃないんだ。
 ・・・というか昔から体のいい召使状態で、俺はいつでも脱走できるようにしておく。
 だから、イザークなんかとは早まらないでくれ。」

「大丈夫よ、2人とも!
 私もプラントで一刻も早く講和条約が結ばれることを祈ってるわ。」
「さあどけ、負け犬ども。、帰投するぞ!」
「はい。」
部下としてはじかれるようにイザークに続いたを見て、
抑えられないほどの憤りを覚えた、キラとアスランだった。





C.E.72。
かつての悲劇の地、ユニウスセブンにおいて、
地球・プラント間合意の下、和平のための講和条約が締結された。
けれど、“G”に選ばれし戦士たちにおける、
地球・プラント間の、どーしようもないほどくだらない戦いは、
今、始まったばかりだった。





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