配属が受付嬢だって知ったとき、『そりゃないよ』が正直な感想だった。
同期のみんなが営業成績を伸ばしていく中で、私は今日も笑顔を振りまく。

「ザフト・ヴェサリウス社へようこそ。ご用件をお伺いいたします。」










〔 受付嬢 〕










夏。
政界もついに動き出した異常気象によるクールビズ。
28度に設定された室内は、それでも外よりだいぶ涼しい。
特に真夏日の今日は、訪れてくる人すべてが茹で上がっている気がした。


「今戻った。」
ところが今、昼の一番暑い時間に帰社してきたこの同期は、それをまったく感じさせなかった。

ノーネクタイが許されているのに、首元までネクタイを絞めて。
さすがにジャケットは羽織っていないものの、長袖のYシャツ。
それでいて汗ひとつかいていない。

「ジュール・・・。なんだかジュールだけ違う季節にいる気がするわー。」
「あ?なにをくだらんことを言っているんだ、は。」


彼は同期のイザーク・ジュール。
同期の中でもトップの営業成績を誇っている。

「ジュールが帰ってくると、外は暑くないのかと思っちゃうよね。」
誰に同意を求めるでなく言ったところに、またひとり帰社。



「あっちィ〜〜・・・。」
あからさまに胸元を開き、手でパタパタとあおぐ姿は、ますます場を暑苦しくした。

「ほらね。エルスマン見てるとホント、夏だもん。」
「はぁ?何の話だよ。・・っとコレ、差し入れ。」
「わぁ!ありがと。エルスマン大好き♪」

エルスマンから渡されたのはパック入りのコーヒー。
コーヒーは好きなんだけど、甘いコーヒー限定。
しかも缶コーヒーは、缶臭さが嫌。
というわがままな私の条件を満たしたもの。

残念ながら社内には売っていない。
だからたまーに同期のエルスマンが、気を利かせて買ってきてくれる。
当然彼のおごりで。


「この程度の差し入れで気持ちを売るのか、お前は。」
ジュールが不機嫌そうに言う。

「ひっでぇ、イザーク。これだってちりも積もれば・・だぜ?なぁ?」
「あ、ごめん。嬉しいことしてくれた人に大好きって言うのクセなんだ。」
さらっと返した私に、あからさまにエルスマンがいじけた。




「そろそろ昼か。、今日は一緒に・・・。」
ジュールが言いかけたとき、ものすごい速さで飛びこんできた男がいた。

「あぁ、よかったぁ〜!ちゃんいたー。」
「マッケンジーさん?」
「うわぁ感ゲキ。名前覚えてくれたんだね。」

キラキラと目を輝かせて言ってますけど、アナタ、昨日来たばっかりでしたよね?
しかも用件が終わってから30分以上も、ここで私に話しかけてましたよね?
・・・・・どう忘れろと?


「誰だキサマは?」
威圧感のある声でジュールが聞くも、彼にはなにもこたえないらしい。
相変わらずの笑顔で、自己紹介なんぞはじめた。

「同じザフト系列に勤めてるんだ。ザフト・ガモフ社のラスティ・マッケンジーくんです。よろしくー。」
にこにこと隙のない笑顔で、ジュールやエルスマンと握手している。
ヴェサリウスにはいないタイプだ。


「今日はちゃんをランチに誘いにきたんだ。」
「はい?」
「「こいつを?」」
私は自分を指差して、ジュールとエルスマンはハモリながら私を指差した。

「そう。昨日からオレ、一目惚れしましたー。」
さらり、と表情ひとつ変えずに彼は言い放つ。
言われなれないセリフに、意味を理解するまでゆうに5分。
って言うか、このシチュエーションで言うことか?!それ。

「えーと・・・。私、に?」
とりあえず、もう一回聞いてみた。
コレで実は「いいえ、ジュールくんにです」とか言われたら自爆する。

でもマッケンジーさんは、にこにこと答えてきた。
「そ、ちゃんに。うーん、正確には2回目で落ちたってトコかな。」
「は・・・あ・・・?」
「一目惚れのあとに、話をしてその笑顔にますます惚れたんだよ。」



そんな笑顔で、息するみたいに自然に告白されたのなんて初めてだった。
さすがにドキドキしてきた。
どこを見ていいかわからなくて目を泳がせると、メチャクチャ不機嫌な顔したジュールとエルスマン。
――――で、この状況をどうしろと?

「今すぐ返事くれーとは言わないからさ。とりあえず1ヶ月、ランチデートしてよ。」
「あー・・ハイ。そういうことならいいですよ。」

彼の誘い方は嫌じゃなかった。
好意を寄せてくれることは素直に嬉しかったから、私はふたつ返事でOKした。

「おい、本気か?!」
ジュールが血相変えて割り込んでくる。

「お試し期間ってことだろ?ジャマが入ってもいいんだよな?」
エルスマンがひょうひょうと言う。

「なに?キミたちもランチ来るの?」
かなりがっかり〜。と続けたマッケンジーさんに、私は疑いの目をむけた。
どこまで本気なんだろう、この人。


すでに時間はお昼休みに突入。
早く行かなきゃ、食べられなくなる!

「じゃあ、行きましょうか。」
言った私に、マッケンジーさんはまた笑った。
「いいね。そんな明るいトコも好きだな。」

4人で食べる奇妙なランチ。
そのあとで、マッケンジーさんがジュールとエルスマンに気づかれないように言った。
「ねぇ、明日からはラスティって呼んでよ。」
そしてそっと、私の手に触れた。


太陽のような彼の笑顔のまぶしさに、やられてしまう日がくる気がした。





   END


【あとがき】
 これからますます暑くなる日々。
 同期にザフトレッドがいてくれたら、たまらなく楽しそうですよね。