「会いにきたよ。ステラ。」
俺は、凍えきった手で湖面に触れた。
指先が、刺されたように痛かった。
それでも・・・。
「ステラ。そこは、あったかくて、優しい所だよな?」
俺も。
俺も、やっとそこと同じ場所に立てたよ。
〔 君という存在 〕
「シン?」
優しい声に振り向いた俺に、が花束を差し出した。
俺は笑顔でそれを受け取ると、湖の中にそっと手向けた。
重りをつけたその花束は、やがて深い湖の底に飲みこまれ、姿を消した。
それがまるで、あのときのステラの姿と重なって見えた。
「彼女だったの?」
が俺の隣にしゃがみこむ。
俺は、の顔を見られないまま、答えた。
「ちがう。・・・好き・・だったのかな・・・。それもよくわからないんだ。」
ただ守りたかった。
「でも、大切な人。だったんでしょ?」
の言葉に、今度こそ俺はうなずいた。
「ごめん。こんなことに付き合わせて。」
湖に触れてますます冷たく凍えた俺の手に、の柔らかな指が触れた。
「一緒に、連れてきてくれてありがとう。」
が笑った。
きっと俺は、驚いた顔をしていたんだと思う。
「シンはいつもどこかで強がっているけど、今日は痛みを私に分けてくれたんだよね?」
強がることで自分を守ってた俺。
家族を失って。
マユを守れなくて。
ステラを、守れなくて。
誰かを守ろうとすることで、自分も守ろうとしてた。
だけど・・・。
「ねぇ、シン。私は戦争の姿を何も知らない。けど、シンを見ていて思うよ。」
はそっと俺の頬に触れる。
「こんなこと、もう絶対、あっちゃいけないことだって。」
「―――・・・。」
「きっと、シンの中から戦いの記憶が消えることはないよね?でも、だからもう間違えないんだよね。」
俺は頬に触れているの手を包み、握りしめた。
そのまま頬にの手を当てて、のぬくもりを感じる。
それは何よりも、あたたかい。
「。」
「なに?」
「―――好きだ。」
俺は、に出会えて初めて、守られることを知った。
力なんてなくても、人は、想うことで誰かを守れるんだって。
は、俺の光。
何もかも失って、生きる道まで見失っていた俺の、ただひとつの光。
「私も、好きだよ。シン。」
重ねた唇は、誓いの証。
ステラ。
あったかくて優しい場所は、ちゃんとここにもあったよ。
ステラ。
俺はもう、見失ったりしないから。
君が、いつまでもそこで笑っていられるように。
俺もここで、笑っているから。
だから、おやすみ。
俺は、世界に守られて生きていくよ。
END