〔 オレンジ 〕





「機体のカラーはオレンジで。」
それを決めたのはミゲルだった。

「嫌がらせかよ、ミゲル。」
その色の髪をもつハイネは、さすがに一言意見した。
「ちっがーう、ハイネ。一番目立つからだ。」
「賛成! ハイネの髪とまったく同じにしよう? その髪、すごくキレイだもん。」
両手を胸の前で組んで、目をキラキラさせる

。お前までソレ、本気で言ってる?」
「うん! めっちゃ本気です!」
の答えを聞いて、ハイネは「しょーがないか」と心を決めた。


コトの起こりは三人があげた戦闘の成果。
勲章までは届かなかったが、機体のオリジナルカラーを持つことを許された。
通常は個々でカラーを決めるのだろうが、三人は同じカラーを持とうと決めた。

「この先別々の隊に配属になっても、同じ色の機体が同じ戦場にいれば、すぐにわかるだろ?」
言い出したのは、ミゲルとの三期上の先輩、ハイネだった。
「俺はここで生きてるぜって、言葉にするよりいーじゃん?」
そう言ったハイネだったが、まさか自分の髪の色と同色になるとは思ってなかった。

数日後、ロールアウトされてきた三機のジン。
目立ちすぎるから危ないと、整備担当からは言われてしまったほど、ビビッドなオレンジ。



アラートが鳴る。
三人はそれぞれの機体に乗りこんだ。
外見はまったく同じに見える機体でも、載せられているOSは別のもの。
個々のクセや強みを、存分に引き出すように。

「ミゲル・アイマン。ジン、出るぜー。」
、行きまーす。」
「ハイネ・ヴェステンフルス。ジン、行くぜ。」
次々に飛び出していく、三機のオレンジのジン。
外見もさることながら、三人の戦闘は鮮やかなものだった。

戦闘が終了し、帰還を促す信号弾が打ち上げられた。
それを確認し、艦へ機体をよせていくのジンに通信が入る。
音声のみで、画像が出ない。
はコックピットの中でひとり、ため息をついた。
戦闘が終わったとたんにお遊びモードに入るのだ、この人たちは。

。帰投したら俺とティータイム。用意してくれよ?」
「・・・・・・・・・。」
は返事をしない。
「おい、返事は?」
は大きくワザとらしくため息をついてみせると、言い返す。

「だって、どっちだかわからないもん!」
「マジで? 俺だよ、俺。」
相手もワザとらしく驚いてみせて言う。
それでも名前を名乗らず、画像も表示させないのは毎度のこと。

「・・・・・・・・・・・ハイネ?」
おそるおそるが名前を口にすると、それまで故意に伏せられていた画像が映る。
オレンジの髪をした相手に、は心底ホッとした。
「お、当たりだ。やっぱり愛があるね。」

「戦闘が終わるたび毎回コレじゃ、私の気が安らがないよ!」
の反論なんてドコ吹く風。
ハイネは紅茶の銘柄を指定している。
そこへ、本日二度目、音声のみの通信が入る。

!帰投したら俺にコーヒー入れて?」
「いーかげんにして、ミゲル。」
名前をやや強めに呼ぶと、画像は金色の髪をした相手を映し出す。
「げっ、その言い方って。もしかしてハイネに先越された?」
「お前通信入れるの遅すぎなんだよ。ほーら、帰るぞ?」



とミゲルがアカデミーを卒業して入隊したとき、艦案内を担当してくれたのがハイネだった。
「ミゲル・アイマンに、か。俺はハイネ・ヴェステンフルス。お前たちの三期上。」
ハイネの第一声に、敬礼のままポカンとしているルーキー。
「何? イキナリ質問?」
挨拶もままならないで動きを止めてしまった二人に、笑いながら言うハイネ。
「あの、ヴェステンフルス先輩。」
「ハイネでいいよ、。ミゲルも。堅苦しいのはナシでいこうぜ? 俺たちは同じ、パイロットだろ?」
先輩の申し出と計らいに、本来同じように堅苦しさを嫌うミゲルが言った。

「ハイネ。・・・・俺と声、同じじゃないか?」

今度はハイネが驚いた。
ミゲルの口から、自分の声が発せられている。
「え・・えぇ?! 何だよミゲル、その声。」
「いや、俺だって生まれたときからこーだし。そりゃ、声変わりはしたけど。」

は試しに目を閉じてみた。
同じ人間が、一人で会話しているとしか思えない。
「すごいね! 声帯の遺伝子が同じなんだ、ミゲルとハイネ。」
ぱん!と両手を合わせてが言った。

「私、二人の声、好きだよ。」

の言葉に、同じ声を持つ男たち、ミゲルとハイネは顔を見合わせる。
「「 声、だけ? 」」
ハモればそれは、ステレオサウンド。


こんないきさつで、いつしか二人は同じ声であることを楽しみだした。
にしてみればそれは、まったくもってメーワクな話だ。
しかも紅茶入れろだ、コーヒー入れろだは、が当てられなかったときの罰ゲームだったはずだ。
今はどんなに同じ声でも、その口調からある程度は予想がつく。
当てられたんだから、それだって当然免除されていいはずなのに。

の思いはお構いなし。
帰投後のブレイクタイムは、ミゲルとハイネにとって至福の時だった。
二年後。
ミゲルが転属になるまで、の苦悩は終らない。



神様がいるのなら、教えておいてほしかった。
3人で過ごせるこの時間が、一番幸せだったこと。

、俺。わかる?」
―――― ミゲル ――――
。俺がわかる?」
―――― ハイネ ――――

同じ声。
大好きな声。
大好きな2人。


『機体のカラーはオレンジで。一番目立つからだ。』
『俺はここで生きてるって、言葉にするよりいーじゃん?』


ミゲルが逝った。
ハイネも逝った。
そして、本当に戦争が終った。
オレンジの機体は、もう、ない。


高台に立ち、天に花をかかげた。
ビビッドな、オレンジの花。
「見える? ミゲル、ハイネ。」
言葉にしなくても、2人ならわかるよね?


―――――――― 私はここで、生きてるよ ――――――――




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【あとがき】
 遅ればせながら西川クン10周年記念ってことで、ミゲル&ハイネ。
 こちらのちゃん、ミゲルと同期でも年下と思いながら書きました。
 機会があったらまた書きたいな、ミゲル&ハイネ。