「イザーク。今度出会えばアスランは敵だぞ。・・・撃てるかね?」
クルーゼ隊長は意地の悪い笑みを口元に浮かべ、イザークに聞いた。
イザークはめずらしくクルーゼ隊長の顔も見ずに、自分の拳を見つめていた。
「―――無論です。裏切り者など・・・ッ!」
一呼吸をおいて、それでもイザークはきっぱりと答えた。
[ 交差 ]
「イザーク!ちょっと待って!」
カンカンと艦の廊下にブーツの音を響かせて、がイザークを追いかける。
ミーティング終了後のイザークの退出は驚くほど早く、出遅れたが走らなければ追いつけないほどだった。
「何だ?用事なら早く話せ。」
怒ってます。
不機嫌です。
そんな感情をひとつも隠すことなく、イザークがに言った。
「本当、わかりやすいよね。イザークは。」
は思ったとおりのイザークの様子に、ほう、とため息をついた。
「早く話せと言ったんだ。何の用だ。」
イザークのいらいらは最高潮。
は仕方ないなと話を切り出した。
「聞きたいのは、さっきクルーゼ隊長に言ったこと。本当にアスランを撃てるの?」
「。俺があいつに負けると言いたいのか?!」
アカデミー総合成績2番を、イザークはこんなときまで引きずっていた。
「馬鹿にするな!」とすごい剣幕で怒鳴っているイザークに、は臆することなく意見した。
「違うよ。アスランは本当に敵なの?撃って終わりでそれでいいの?」
「それは・・・。」
罵声が止み、イザークがうつむく。
の問いに返せる答えが、彼の中にまだない。
隊長の手前ああ答えたものの、本当の所、アスランが目の前にいて引き金を引ける自信はない。
それでも、「撃てません」と答えることなどできない。
「アスランのことだもん。何か考えがあって・・・。」
言葉を続けることが、にはできなかった。
イザークの顔が見る見る迫り、後ずさりしたは背を壁についた。
イザークの両手がの顔のすぐ脇を通り、そのまま壁にダンッと打ちつけられる。
は驚いて声も出せず、ただ目の前にあるイザークの顔を見つめた。
「ならどうしたらいい?!どうすればヤツを理解できる?!」
「イザーク・・・。」
「ザフトに銃を向けるヤツに、は丸腰で立ち向かうのか?!」
イザークの剣幕に、は無言で首をふる。
イザークは整った顔にもどかしさと怒りを浮かべて、につめ寄る。
「じゃあどうする!敵だと認識された相手を、はどうやって助ける?!」
―――助ける。
思わずイザークがこぼした本音。
クルーゼ隊長の前では「撃つ」と断言したものの、これが彼の本音。
アスランを、助けたい。
「ごめん。・・・私にもわからない。」
イザークに責められた形のは、瞳にじわりと涙を浮かべた。
「ただ、アスランを・・・。仲間を、話も聞かずに討つことだけは、してほしくなくて・・・!」
まっすぐなイザークだから。
軍規に人一倍従順なイザークだから、が心配したこと。
アスランとイザークの、同士討ち。
かつての仲間が殺し合う。
そんなことだけは、してほしくない。
「・・・わかった。」
泣いて、両手で顔を覆ったに、イザークのしぶしぶと言った感の声が聞こえた。
「が、悲しむようなことはしない・・と、約束する。」
「ホントっ?よかったぁ!」
先ほどまでの涙はどこへやら、イザークの言葉を聞いてがぱあっと笑顔になった。
その笑顔にイザークの心臓がドクンと大きく揺さぶられ、いまさらながらとの距離の近さを認識する。
意識してしまったとたん、イザークは固まった。
この体勢をどうやって解除したらいいものか・・・。
「あー・・。その、悪かった。八つ当たりのようにを脅したな。」
自分でも顔が火照ったと認識するほどの赤い顔ではに目もあわせられず、イザークが不自然に視線をそらす。
が、そんなイザークの努力もむなしく、はわざわざ膝を折り、イザークの顔をのぞきこんだ。
「うん。私も、おせっかいゴメンネ?」
ぷしゅーっという音を立てて、イザークは撃沈した。
そんなイザークをよそに、はするりとイザークの腕を抜け出た。
「それじゃ私、機体チェックするから!」
またね、と気楽に手をふってはイザークの前から姿を消した。
その後30分間は、壁に両手をついてうなだれるイザークの姿が多数のクルーに目撃されてる。
END
【あとがき】
前半のシリアスはどこへやら・・・。
イザークよりも年下、赤服、同期なイメージの天然キラーヒロインでした。
タイトルは、いろんなものが「交差」してるなぁって感じで。
ちなみに彼女に撃沈された男は数知れず。
こうして翻弄されているうちに、たまらない恋心がイザークに芽生えたようです。