〔 母なる大地へ 〕





トリコロールに色づいた機体が、暗黒の宇宙に飛躍していくのを見た。
そう、そこに還ったの・・・・キラ。
「泣いてたじゃない・・・貴方。どうして戦場に還ったの?」
メネラオスのシャトルに乗せられて、私は別れ別れになったキラを偲う。



カトウ教授のゼミで知り合って、付き合うようになって。
でも、キラがコーディネーターだということは、初めから知ってた。
ヘリオポリスがあんなことになって、キラはその能力ゆえに、モビルスーツに乗ることを余儀なくされた。
敵対するザフトに親友がいたと告白してくれたとき、キラは自分を失ったかのように悲しい目をしていた。
「でもね。がいるから、僕はアークエンジェルを護るよ。」
辛そうに言ってくれたキラを、私は抱きしめてあげることしかできなかった。
仲間のミリィや、トール、サイ、カズイまでも艦の仕事を手伝いたいと志願した。
「キラだけに、戦わせるわけにいかないよね。」
だから私も、軍服を着た。



「お前はこれ持って、シャトルでキラを待ってろよな。」
トールから渡されたのは、除隊許可証。
みんなは艦に残ると言った。
地球連合軍第八艦隊と合流し、自分たちは不問になり、ラミアス艦長の拘束は解かれた。
アークエンジェルに残る理由はなく、
他の民間人と共に、シャトルで地球へ降ろしてもらえることになっていたのに。

「なら私も。」
渡された二人分の除隊許可証を握りしめて、私はミリィの顔を見た。
はだーめ。」
まで残ったら、キラが降りられないじゃないか。だから、一緒に行ってやれ。」
サイが、ミリィの後を受けて私に言った。
こうして私は押し切られて、シャトルに乗せられた。
でも、いくら待っても、キラは現れなくて・・・・。


「お前、降りなくて良かったのか?」
サイが、格納庫にたたずむキラに声をかけた。
キラは、何かを決意したようにサイへほほ笑み返した。
「うん。僕がここで投げ出したって、戦争は終らないんだ。」
オーブへ帰れば、また一時は戦火を免れることはできるだろう。
けれど、自分たちが知った外の世界では、依然争いはなくならない。
戦うことで戦争が終らせられるのかは、わからない。
それでも、戦うことで何かを護れるのなら、自分は戦える。
「なら、も降ろさない方が良かったんじゃないのか?」
サイの言葉に、キラは今度は首をふった。
「いいんだ。が地球で待っててくれれば、僕はそれを護るから。」


激しい攻防戦が繰り広げられる中、私たちを乗せたシャトルがメネラオスから放出された。
私は戦況を確認しようと、窓に身をのりだした。
「ガンダム。・・・・・・キラ・・・・・・・。」
シャトルの真横に、キラの機体がいた。
アークエンジェルでは、手を伸ばせば触れることのできた機体。
キラに、コックピットに入れてもらったこともある。
でも今は、手を伸ばしても届かない。
あのコックピットに、キラがいるのに。
ガンダムが、私を見ている気がした。
私は、涙を流しながらも、にっこりと手を振った。

ここで離れても、また会えるよね?

「やめろおぉぉぉぉぉっ! それにはーーーーーっっ!!」
コックピットの中で、キラが絶叫した。
ストライクのバーニアをふかし、懸命にシャトルへ手を伸ばす。
敵機となったデュエルが、ビームライフルを構えている先にあるのは、メネラオスから放出されたシャトル。
争いに巻きこみたくなくて、護るために地球へ帰そうとした、愛しいが乗ったシャトル。

ーーーーーーッッ!!」

キラには見えていた。
これから自分の身に起きるであろうことも知らず、笑顔で手を振るの姿が。
流している涙は、しばしの別れであるはずだったのに・・・・。
キラの手の先で、シャトルはデュエルに撃ち落され、爆散した。
「・・・ぅああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
地球の重力に引かれて、ストライクは落ちていく。
コックピットの中で、キラも意識を手放した。



何が起きたのか、わからなかった。
ものすごい重力を感じたと思ったら、目の前は真っ白だった。
私は、どこへ還るの?
最期に見えたガンダム。
見えないはずのコックピットで、キラが泣いている気がした。

他人を憎む気持ちが争いを生むのなら、世界は、私たちのように愛し合えばいい。

ねえ?
――――キラ――――・・・・・。





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【あとがき】
 初キラ夢が悲恋死ネタって・・・。
 「宇宙に降る星」は、好きな回なので、それを使ったらこんなことに・・・。
 最期のちゃんの想いはライナが出した結論に近いかな?
 他人を愛することで、争いはなくなる。
 友人であり、知人であり、会ったことのない人たち。
 それこそ全世界の人が自分以外の他人を同じように愛せたら、
 戦争なんて馬鹿なことはおきないと思うんです。