だから、
今日の訪問が初めてのデート、のようなものだった。

戦地でない場所で、と二人になるのも。

会話だけを聞けば、
戦艦の中で交わすものと変わりはなくても、
やっぱりそれとは違う何かがあった。



は、どう思ってるんだ?・・・俺を。」


あの時は言えなかった言葉が、
すんなりと口をついて出たのもそのせいだ。


「え?」
「あの時は、何だか上手くかわされた気がしている。
 ・・・今、こうして俺といるお前は、 俺のことをどう思っているんだ。」

イザークのプラチナブロンドの髪が、
さらり、と音をたてた。


「俺は、婚約はなしにしてかまわんと言った。
 だがお前は・・・。
 お前をしばるのは嫌だった。
 俺は、子が産まれやすい遺伝子を持つことだけを理由に、
 お前と婚約などしたくはない。」


「イザーク。」


「お前の気持ちを聞きたい。」


テラスを、優しい風が包んでいた。
暖かい、地球でいう“春の風”。


「イザークは、直情的よね。
 モビルスーツ乗りとして、それってすごく大切だと思うの。
 判断に迷っていたら、とても生き残れない。
 ・・・うらやましくも思うし、実は嫉妬もしてる。
 あたしももう少し、踏み込んでいけたらいいのに。」

おもむろに立ち上がり、イザークを庭に誘う。
イザークもそれにならった。

「イザークから、婚約はなかったことにしていいって言われて、
 実はちょっと悩んだ。
 ・・・あたしだって軍人だもの。
 戻らないことだって・・・ある。永遠に。」

「おい、・・・ッ」

「でもそこに、守るものがあれば、
 戻れる気がしたの。
 どこで、どんなことになっても。」


「俺がお前に守られる・・・だと?」
「そう。だってあたし、エースだもの。」

「俺のほうが強い!
 お前に守られてたまるか!
 好きになった女も守れないようで、“赤”など着ていられるものか!」

「え? 好き・・・?」
言葉を返す間も与えられず、はその小さな体をイザークに包まれていた。

が好きだ。
 だから、気持ちのないままの婚約など・・・、
 未来など決めたくなかった!」

「イザーク。」

、お前が決めろ。
 遺伝子のつながりでなく、俺はお前が好きだ。」

程なくして、の腕がイザークの背に回された。

それが答えだった。

「好きよ、イザーク。
 あたしのために婚約を反故してくれようとするあなたの優しさで、
 あたしも決めたの。」


イザークのアイスブルーの瞳と、
の漆黒の瞳が向かい合い、
優しく包まれた腕の中で、甘い口づけを交わした。







二日後。
二人は再び出撃のため、戦艦の中で再会した。

とりあえず出航の目的は戦場に出ることではなく、
行方のわからなくなった国民的アイドル、
ラクス・クラインを乗せた視察船の捜索、ということで少しは気も和らぐ。

・・・が、宇宙ではいつ、どこで戦いが起こるかわからない。

プラントを旅立つことは、
理由はどうであれ、戦場に出ることと変わりない気分だ。



それでもここに、守りたい存在がある。



言葉を交わし、心を交わした愛しい人。



約束が、守るためにあると言うイザークなら、
と交わしたあの約束も、きっと破られることはないだろう。




『 共に戦場を駆け
  共にプラントへ還る 』



あの日テラスに流れていた、
優しい時間を日常とするために―――――・・・。




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