〔 色の理由 〕
「ハイネ、これは?」
「・・・・うーーん。」
「じゃあ、こっち?」
「うーん・・・・。」
は先ほどから気のない返事しか返してこないイトコを恨めしくニラんだ。
停戦記念に洋服を買ってくれると言ったのは、当の本人ハイネなのに。
「もういいよ!どうせ私は何を着ても似合わないって言うんでしょ?」
怒ったように服を押しつけて、は店を出た。
あわててハイネはその服を、悩殺笑顔と共に店員に返すと、のあとを追う。
「違うんだって。ここんトコずっとの軍服姿ばっか見てたから、いまいちピンとこないんだって。」
ナチュラルの核攻撃から始まった大戦は、確かに長く続いた。
ハイネと同じ赤の軍服を着るは、エリートといわれるクルーゼ隊に所属していた。
常に前線にいた彼女が、休暇を与えられることもなく。
イトコでありながら兄貴分のハイネとの会話も、大戦中は軍の通信を使うことがほとんどで。
ハイネの中でイメージとして浮かぶのは、どうしても軍服姿のだった。
ハイネの答えを聞いて、はさすがにその足をとめた。
が、軍服が似合う、と言われることは、誉められているのかいまいちわからない。
「な?俺も頭の中切りかえるから、ちょっと休もうぜ。」
言うが早いか、ハイネはの手をとって近場のカフェにむかった。
朝からとにかく振り回されていたのは、ハイネも同じなのだ。
「ハイネは、軍、除隊するの?」
先ほどとはうって変わった真面目な顔で、がハイネに聞いてきた。
ハイネはおや?という顔をしながらも答える。
「やめるかよ。まさか、このまま終戦すると思ってないだろうな?」
逆に聞き返されてはあわてた。
―――― 思っていないわけではなかった。
ジェネシスが撃たれ、連合が停戦に同意したとはいえ、人の心の闇が消えたわけではない。
実際停戦に反対するブルーコスモスのテロ行為は、大戦時と変わらない頻度で起きていた。
けれど人というものは、どこかで期待もしている。
これですべてが終ったのではないか・・・と。
「そういや、の隊長のクルーゼ、死んだんだってな。」
「・・・・・・うん。」
「で、転属だって?」
「・・・・・・・・うん・・・・・・・・。」
ハイネが転属と口にしたとたん、が一気に落ちこんでいくのがわかった。
「そりゃ、かつての同僚が上司なんてやりずらいよなぁ。ま、がんばれよ。」
この気の重さはそれだけじゃないんだよ。と、は思った。
これがアスランやディアッカなら、こんな重たい気持ちにはならなかっただろう。
死んでしまったけれどニコルでも、ここまで落ちこみはしなかったと思う。
恐ろしい任務をさせられそうで、本当にコワいけど。
同じくラスティは・・・・。隊長か。
ムリだな。
「なんでよりによってイザーク・・・。ひとりじゃムリだよ。」
「何人ならいいんだ?」
ボヤくに笑顔でかわすハイネ。
イザーク・ジュールという名は知っていても、そのひととなりは知らない。
かなりの俺様主義の暴れん坊将軍、がから聞くイザーク像。
「まあ、アスランもいないし。そんなに大変じゃないかもしれないな。」
短時間であっさり解決。
問題の種さえなければ、案外やりやすいかもしれない。
そう考えると休暇明けからの配属が、そんなに嫌じゃなくなった。
「そうだそうだ。仕事に変わりがあるわけじゃないし。」
目の前で落ちこんだと思ったら、浮上してくるまでにものの数分。
ホント、こいつは見てて飽きない。
ハイネはいつもと変わらぬ笑顔を浮かべて、を見ていた。
「さぁ、イザー・・・・・。」
「貴様ぁ!ここで何をしている?!」
『イザークと一緒にがんばるぞ。』と、は新しい隊長の名前を、最後まで言うことができなかった。
まさにその名の持ち主が、の前に立っていた。
いつものように、両目をぐーんとつりあげて。
そのとなりには、当然のようになだめ役のディアッカがいた。
「よ!。一斉に休暇になったんだから、どこで会ったっておかしくないよなぁ?」
のん気に笑ってとなりに席をとる。
「あ、そうそう。俺もジュール隊、配属になったからヨロシク。」
謹慎明けから配属だからー、と言って笑うディアッカ。
やった!一人増えた。
ディアッカがいれば平気。後片付けがひとりじゃなくなる!
がぜんやる気がでてきた。
「お?ウワサの評議会お坊ちゃまたちか。」
ハイネが楽しそうに声をかけた。
「ホーキンス隊、ハイネ・ヴェステンフルスだ。よろしく。」
「ジュール隊、イザーク・ジュールだ。」
「同じくディアッカ・エルスマン。・・・・・、デート?」
「ぬわにイイイィィィィ?!」
なぜかイザークのほうが奇声をあげた。
それだけでピンときたハイネは、しれっと答える。
「そうだよ。」
「ちがうよ!」
、一瞬遅れて否定。
ディアッカはハイネがニヤニヤしているのに気づいたが、
となりでうぬぬぬぬ・・・と唸るだけの男は気づいていないようだった。
「ちーがーうー!ハイネは私のイトコなの。同じ赤服だし、兄妹みたいなものなの!」
「そんなムキになって否定すんな?俺が不憫じゃん?」
よよよ・・・・と、泣きマネをしてハンカチで目頭を押さえたハイネが言う。
俺様主義の暴れん坊将軍は、どうやらが気になる年頃らしい。
ハイネは常日頃から、の相手選びは自分がしてやろうと思っていた。
基準は自分。
自分より劣る男に、は渡せない。
かわいいイトコが幸せになるのは、ハイネにとっても幸せなのだ。
どうやらココに、候補がひとり。
家柄に文句なし。
容姿に文句なし。
性格・・・・あえて触れず。
あとは男は出世だろ?
ハイネはひとり、ほくそ笑む。
「あー、そうそう。ジュール隊長、俺、今度フェイスになるんで、ヨロシク♪」
さわやかに告げるハイネと対照的に、どこにぶつけていいかわからない怒り心頭のイザーク。
「じゃっ、休暇明けから俺のカワイイ(イトコの)を頼むぜ。」
あおるだけあおって、の手をとり、店を出て行く。
「あー、・・・じゃあね、イザーク。ディアッカ。」
あとに残されたのは、真っ白い顔を真っ赤に上気させてうなるイザーク。
傍らでがっくりとうなだれるディアッカ。の二人。
「くっそおおぉぉっっ!フェイスだとお?!
おい、ディアッカ!俺は“白”着るぞ!!“白”だあぁぁぁっっ!!」
ディアッカの首根っこをつかみ、がっくんがっくんと揺さぶるイザーク。
「おまっ・・・・。“白”?!・・ムリだろ、それは。」
イザークの年で“白”を着るとなると、それはザフト最年少記録だ。
「ムリだとうっ?!そんなワケあるかーーーーーっ!!」
気合の雄叫びをあげて、暴れまくるイザークに店中の視線が集まっていた。
こうしてイザークは、ハイネの誘導によって、白服を着ることとなる。
もちろん、ザフト最年少の記録つきで。
すべてはへの愛ゆえに。
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【あとがき】
イザークより何枚も上手のハイネに、イザークが勝てる日は来るのでしょうか?
いや、来ない。
こうやっておちょくられてるイザークはカワイイな。
そして気づいた。ライナはハイネが好きらしい。
年上オーラむんむんのハイネ。