雨の中、傘もささずにたたずんでいるキミを見つけた。
予告通りの雨に、道行く人で傘を手にしていない人はいない。
冬の雨は冷たく、吐く息も白い。
けれどキミは、その雨に濡れていた。
〔 終わらない、あなたへの・・・。 〕
「ハイネ君。」
声をかけてから、ハイネ君よりだいぶ背の低い私は、傘を少し持ち上げて顔を見せた。
「よっ、。」
変わらぬ口調。
私の反応を楽しむかのようない、いつもの声。
「よ、じゃないわよ。傘もささないで何してるのよ?」
私の言葉に、ハイネ君はニイッと笑う。
「キモチイイぜ?」
相変わらず意味不明。
でも、それだけの会話に、涙がにじんでくる。
ハイネ君は、寒さなんてひとつも感じさせずに言った。
雨に濡れたオレンジの前髪。
キレイなそれを片手でかき上げるしぐさに、胸が高鳴る。
「カゼひいちゃうよ、ハイネ君。」
「バカだからひかないな。」
心を誤魔化したような言葉も、ハイネ君のまなざしに勝てない。
ほてった顔を隠すように傘を下げるも、ハイネ君の手に押し戻される。
「何?」
視線がぶつかるのが怖くて、目をそらす。
お願い。
そんなに顔を近づけないで。
「俺を見ろよ。」
ハイネ君の声が、耳のそばで聞こえた。
それだけで、心音が早くなる。
身体を引き気味になりながらも、ハイネ君と目を合わせた。
心臓が、早鐘を打っている。
「好きだ。。」
私は小さな悲鳴をあげた。
言葉と同時に、冷えきったハイネ君の身体が、私にかぶさってきた。
まるで、氷のように冷たい身体。
「は、あったかいな。」
ハイネ君の冷たい指先が、私の髪を撫でる。
いとおしげに、何度も。何度も。
すがりついてしまいたい。
この冷たい身体を、暖めてあげたい。
――――昔と同じように。
でも。
私は震える両手で、ハイネ君の身体を押し戻した。
「もう、会いにこないで。」
足元に落ちた、私の傘。
雨に濡れた私の顔に、涙が伝う。
そうか。
だからハイネ君は、雨の日を選んだんだね。
雨にまぎれて、涙が見えないように。
「?」
ハイネ君の掌が、私の頬に触れた。
私はその手を、強く握り締めた。
その背中に、腕を回すことができなかった私の、今はこれが精一杯。
ハイネ君の声を、オレンジのキレイな髪を、優しい手を、忘れない。
これから先、どれだけの人と出逢っても、
私のすべてをかけて愛したのは、ハイネ君だけだから。
婚姻統制が布かれた日、私たちは別れた。
子供の産める確率のある人としか、結婚が許されないことが、プラントの新しいルール。
ハイネ君の子供を産めない私は、もうハイネ君と一緒にいられない。
だから。
「さようなら。ハイネ君。」
ごめんなさい。
わがままをひとつだけ許してくれるなら、いつまでも私を、愛していて。
思い出の中で。
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