〔 せつなくて 〕





ハイネが笑いながら手をあげた。
大好きな想い人にだけみせる笑顔。

でも。
むけられているのは私じゃない。
私のとなりにいる、私の親友。
ハイネは私の、親友の彼。


彼と彼女と私。
出逢ったのは大学のキャンパス。
私たちは一緒に出逢ったのに、彼が選んだのは、私じゃなかった。

「あれ? 今日はひとり?」
出逢ったばかりの頃、食堂にひとりいた私に、ハイネが声をかけてきた。
私は、初めてのハイネと二人きりの時間に、胸を高鳴らせた。

「おごってやるよ。なにがいい?」
「アイスミルクティー。」
「りょーかい。」

向き合って座って、胸がドキドキとまらなかった。
たわいのない会話。
ハイネの笑顔。
すべて私に優しくふりそそいでいて、幸せだった。

「俺さ。」
だから、ハイネが切りだしたとき、心がどきんと揺れた。
けど・・・・・。

「俺さ。アイツのこと、好きなんだ。」

アイツ。
それは私の親友。

ホットミルクティーにしておけばよかった。
涙と一緒に飲みこむには、アイスは冷たすぎるから。


その日からしばらくして、私は二人から聞かされることになる。
想いが通じた、と。

「よかったね。」
笑うことしか、私にはできなかった。



私の想いは、どこにやればいいの?
切なくて、涙がとまらない。
想いが消えれば、この切なさも消える?
ハイネ。
あなたの笑顔を忘れたい。
思い出すたびに流す涙が、報われる日はこないから。




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【あとがき】
 振り向いてもらえない片想いって、どうして諦めさせてもくれないんだろう。
 発展しない恋ほど、辛いものってない。
 でも、それだって素敵な思い出に、いつかは変わる。