「どうして、ナチュラルってだけで、
 コーディネーターってことだけで、争いになるんだろうね。
 僕の両親はナチュラルだから、僕には、わからないんだ。」

君たちも、そうでしょ?と聞かれても、
イザークとニコルはそっぽを向くことしかできなかった。

だけが、彼と向き合っていた。

「僕の家族は、もともと月にいて。
 本当はプラントに避難する予定だったんだけど、
 やっぱりプラントに行くのは怖いって、母さんが。
 月にいた頃のコーディネーターの友達や、両親の知り合いは、
 すごく優しい人たちばかりだったけど・・・。
 ちょうど戦争が本格的に始まっちゃって、それで、オーブに来たんだ。」

「ここ・・・は、
 ナチュラルでも、コーディネーターでも、OKだもんね。」

「君も思う? 早く、こんな戦争が終わればいいって。
 オーブでは、とても平和だけど、でも、僕は苦しいんだ。」

「終わればいいと思うよ! こんな戦争! 早く!!」

声を荒げたに、そこにいた誰もが驚いた。
初めて会った彼はもちろん、イザークも、ニコルも。

今、この場にいる4人の中で、
本当に戦争を体験していたのは、だけだったから。


は、身をもって知っていた。
戦いに出る瞬間の、あの空気を。

出撃して、還らなかった仲間がいたことを。

還らなかった仲間の名を、
泣きながら声に出した、あの苦しさを。

「・・・そうだよね。
 僕たち、戦いが嫌で、ここに来てるんだもんね。」

言葉を選びながら言ってくれた彼に、
は涙を見せてはいけない、と顔をそむけた。

「トール! ミリアリア!」
タイミング良く彼の友達が通りかかり、
彼は2人の名を呼ぶと、手元に広げていたものを片付けた。

「君たちに会えてよかった。こんな話をしたの、初めてなんだ。
 本土からこっちに来たら、また会おうね。」

じゃあ、とその場を後にした彼を、
3人は姿が見えなくなるまで見送っていた。



「ラッキーでしたね。
 調べること、彼のおかげで全部終わっちゃいましたよ。」

非常口が2カ所、ドッグに通じている。
でも、学生はドッグの方向への立ち入りは禁止されている。
それだけで十分だ。被害は少ないだろう。

3人はうなずき合った。
「要は、自分たちが失敗しなきゃいいんだろうが。
 ありえん話だがな!」
、帰りましょう。・・・大丈夫ですか?」
「くだらん。オーブなんて甘ったるい国にいる奴の言葉など聞くな!
 ・・・気にしなければいい!」

「イザーク・・・それ、もしかしてなぐさめてくれてたりするの?」
が聞いても、イザークはフンっとそっぽを向いてしまうだけだった。

けれど、今はそれをありがたく思えた。
そんな事を考えながら、戦争はできないから。

「ニコル、イザーク、帰ろう?
 そして・・・終わらせよう、早く。・・・・こんな戦争。」

は今度は泣かなかった。
ただ強く、意思の強いその黒い瞳で、まっすぐ前を見ていた。



「そういえば・・・。」
潜入活動から戻ったヴェサリウスの中で、
ニコルが忘れていた、と言った。

「彼の名前、聞くの忘れちゃいましたね。」
「あ! ヤダねー、せっかくの恩人の名前も聞かないで・・・。
 こういうのって、恩知らず?」
「ニコル、、名前なんぞ聞く任務ではなかっただろうが。」
「イザーク、それ、ちょっと違うんじゃない?」
足早に隊長室に向かい、報告を済ませ、3人はまたいつもの艦内待機に戻った。



「気になるね。最後に隊長が言ったこと。」
「“キャンパスで、学生のコーディネーターと接触はしたか?” って、
 僕たちの行動を見ていたんでしょうか?」
「有望だったらスカウトするつもりなんだろう?
 まあ、3人だけの内偵活動で、誰とも話さなかったがな!」
目をつりあげて、イザークが言った。

そう、3人はクルーゼ隊長にウソをついていた。

カレッジで出会ったゼミの学生、
コーディネーターの彼のことを、一切話さなかったのである。

彼の言ったことを確認して報告するのだから、
ウソの報告、とはならないだろうし。

何よりが、彼のことを話すのはやめよう、と言ったのだ。
戦争を否定するコーディネーターの話なんて、
クルーゼ隊長の機嫌を悪くするに決まっている、と。

「最悪、国家反逆罪で彼が捕まっちゃったら、後味悪いじゃない?」
と2人に言ったの顔は、
もとの明るい、おちゃめな顔をしていたけれど。

「戦争を否定しただけで罪に問われることなんてないだろうが!
 軍人ならまだしも、あいつはオーブの民間人だぞ! バカ、か、貴様は。」
今までおさえていた分、イザークはまとめてかんしゃくを起こしていた。




数日後。
ヘリオポリスは混乱した。

ザフトレッドのルーキーたちは、
そろってガンダムの奪取に出撃していた。

ひとつの機体の奪取はかなわなかったが、
4つの機体を地球軍から奪い取った。

作戦には参加せず、
ミゲルとラスティのエマージェンシーを受けて、
はモビルスーツのザクに乗り、ヘリオポリスに侵入した。

2人を無事に保護すると、はそのまま、ヴェサリウスへ帰途した。
振り返ったの目には、奪取に失敗した最後の一機があった。

炎につつまれる大地で、こちらを見ている。

「終わらせるわ。・・・立場は違っても、彼の願いと同じよ。」





知らなかった。

誰も。

奪取された4機のガンダム。

残された1機のガンダム。

最後のガンダムのコックピットには、“キラ・ヤマト”。

最高の、コーディネーター。

あの日。
、イザーク、ニコルの3人と、
言葉を交わした、“彼”だという事も。






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