[ ときめきはいつか恋になる。 ]










はば学までまっすぐに伸びる坂道は、下に広がるはばたき市内が一望できる。
入試のときは緊張していて目に入らなかったけれど、入学式の日にこの景色を見て感動した。
坂道がはば学の敷地に差しかかってくると、頭上に桜が咲き誇る。
満開をすこし過ぎだした桜は、ひらひらと音もなく降り始めている。
がてのひらを広げると、ちょうどその上にはなびらが乗った。

「おはよう。」
は花びらに声をかけた。


「おっす。」
戻ってきた声に、は驚いた。
声の主はちょうどいいタイミングで、の隣を通りかかった同級生。
オレンジのツンツン頭に、柔道着を肩から背中にしょっている。
同じクラスの不二山嵐だ。

「おはよう。・・びっくりしたー。」
がそう言うと、不二山は不思議そうに首をひねった。
その表情を見て、は説明をする。

「あのね、てのひらに桜が落ちてきたの。『おはよう』って、私、桜にあいさつしてたの。」
ほら、と、てのひらを広げて見せると、不二山はその桜の花びらをまじまじと見つめた。
「そっか。俺、お前がエスパーなんかと思った。俺の気配を感じてあいさつしてきたんかー?って。」
あまりにも真顔で不二山が言うものだから、はくすくす笑った。
「不二山くん、冗談なんだか本気なんだかわからない。」

がそう言って笑っていると、不二山もふっと笑みを漏らした。
「すっげー楽しそうに笑うヤツだな。えっと・・・、だっけか?」
「うん。。」
「よし、な。朝からいい笑顔見せてもらって元気でた。じゃ、俺朝練すっから、お先!」
不二山はの頭をぽん、と叩くと駆け出した。

はぽかんと不二山が先に駆けていく姿を見送った。
叩かれた、というよりは手を置かれた頭を自分で撫でてみる。
異性からこんな風に接されたのは初めてだ。

「朝からいい笑顔・・・って・・・・。」
の顔が、かあっと赤くなる。
そんな風に異性から面と向かって誉められることも初めてだった。

「不二山・・・嵐くん・・・。」
はまだ頭に手をあてながら、去って行った不二山の名前をつぶやいた。



これがはじまりの、「ときめき」。





   END


【あとがき】
  この日の放課後に、柔道部マネージャーに勧誘されます。
  嵐の天然に翻弄される日々も、ここからはじまります。(笑)