〔 夢は歌と 〕










「あれ?のしん、この曲は?」
「あー?」
井上からヘッドフォンを渡されて、俺は懐かしい曲に再会した。

次の新曲にメロディがあがって、思いつくままに歌詞をのっけたデモ。
それを井上に聞かせるために用意していたPC。
連続再生で次に流れた曲は、俺がもう何年も前に完成させていた曲だった。

「うわ、俺も久しぶりだよ。」
苦い思い出に笑っちまう。
このギターソロ、泣きながら弾いたっつー余計なことまで思い出した。

「・・・・いまじゃもう書けねぇなー、こんな詩。」
10代のハリー。
まさしくガラスだ。
今の俺はそれこそ音楽の世界でハリー様になったけど、この曲は10代のハリーにしか作れない。

アイツがいたから、作れた曲。
10代の俺が、恋をして、苦しんで、そんな想いが詰まった曲。


「この歌、まんまじゃん?」
井上がいやらしく笑って俺を見た。
見るなよ。
っつーか!その笑いはどっちかってーと俺の得意分野だろ?

「あのころは誰かに聴かせる気にもならなかったなぁ。」
「・・・これ、イケる。」
「は?」
「10代のハリーが作った曲でも、10代のハリーには歌えなかった。今なら歌えるだろ?」

とんでもないこと言い出しやがった、コイツ。
この曲を作ったときは、良くてデモテープ100本分。
今の俺たちがリリースしたら、そりゃ何万枚って数が出る。
それだけ人が聞くんだぜ?この歌を。
ハリー様のあまずっぱーい、青春ってやつを。

「あのなぁ、井上。俺は自分の思い出まで売らねぇっつーの!」
「違うよ。」
「なーにが違うんだよ?」

「残してやれよ。お前のために。」
「俺のため?」

「そ。夢のために捨ててきた、のしんの為に残してやれよ。」
そう言って井上は俺にヘッドフォンを投げてきた。
あぶねーっつーの!
「捨ててきたぁ?じゃあ今の俺はなんなんだよ。」
「今のお前はハリーだよ。」
そう言い残して井上は出て行った。

ほんとにお前、ばっかじゃねぇの?
あのころの俺もハリーだよ!

そう言い返してやりたかったけど、なんとなく井上の言いたいことがわかったから俺はそのまま黙ってた。
井上が投げてよこしたヘッドフォンをつける。

忘れてたわけじゃなくて、辛くて閉じこめていたってーほうが正しい。
俺はさっきまで井上が座っていた椅子に座って、マウスをクリックした。

そう。
はじまりはギター。
コレを俺は泣きながら弾いたんだ。
あの日。

はばたき市と、アイツに別れを告げた日に。
俺が。
ハリーが選んだのは、アイツよりも夢だった。



      震えてる背中 抱きしめないままに
      俺も背中をむけた それが最後

      ぜってー幸せにしてやる
      そう思ってた 本当は今だって

      目に浮かぶお前はいつも笑顔で
      俺だけに向けられるそれがうれしくて

      ごめんな
      それなのに俺は夢を選ぶ
      俺の歌 お前が一番好きだって言ってたのに


      きっと最初から 抱きしめてみたかった
      唇が触れたのは事故でも それが始まり

      ずっと俺の傍にいろよ
      そう言ってた 本当にマジだった

      続いていくと信じていた二人の未来
      終わりにしたのは俺で今ひとり別の未来に

      ごめんな
      俺ばっか好きなんじゃねぇかとか
      俺からは 卒業させねぇとか言ってたのに

      ごめんな
      最後にありがとうも言えなくて
      もらうものばっかだった 俺はお前から
      俺がお前にやれるのは こんな歌が最後



「夢は歌と、。」

今の俺。
何万人もの歓声。
俺に似合ったでっかいコンサート会場。




   『 ねぇ、ハリー。ハリーはもっと広いところで歌ってるのが似合うよ。 』
    
    代償は、たったひとりの拍手。
    小さな、小さな、駅前のカラオケボックス。





   END


【あとがき】 2010.10.6
 初ハリー♪ 夢(音楽)をつかんだ彼が、夢()を手放していた。っていう、こんな天邪鬼な夢。
 一緒に連れて行くこともできなくて、でも夢もあきらめられなくて。
 せめて歌で成功したのはよかったけど、ハリー自身はどっちがよかったんだろう。
 そんな感じで書いてみました。
 歌の歌詞は井上くんが言ってるとおりそのまんまでスイマセン・・・。
 きっとリリースされたらは灯台でこの歌を聴くと思います。
 そこにきっと迎えにきてね、ハリー。(笑)