〔 ふたつの影 〕
「いやーっ!!」
「叫ぶなっ!」
「きゃーっ♪」
「喜ぶなっっ!!」
バケツをひっくり返したような集中豪雨。
すぐ目の前の建物でさえ、雨の中に消えて見えない。
一歩を踏み出せば、たちまちずぶ濡れだ。
今まで室内にいたもイザークも、これほどの雨が降っているなんて気づきもしなかった。
朝のニュースで台風が接近していると言っていたから、待てば止む、というものでもなさそうだ。
「先に帰ったディアッカが傘持ってお迎えに・・・。」
「来るわけがない。」
「雨に気づいた優しいニコルが傘持ってお迎えに・・・。」
「来てみろ。何を要求されるか想像もしたくない。」
「浮かれたラスティが踊りながら傘持ってお迎えに・・・。」
「来たら表彰ものだ。」
「今日は1日マイクロユニット作るって言ってたアスランが、それでも傘持ってお迎えに・・・。」
「来るとしたらマイクロユニットだけだ。」
の発案はイザークにことごとく却下される。
雨足もおさまるどころかひどくなる一方だ。
水滴の粒が、さっきよりも大きくなっている。
足元の水の跳ね返りが大きくなって、は一歩後ろに下がった。
「仕方ない。ここから寮まで5分弱だ、走るぞ。」
「えぇっ!?傘ないのに〜!」
「こんな土砂降りで傘があってもびしょ濡れは同じだ。いくぞ。」
「やーん!」
「ヘンな声を出すな!」
イザークに手を引っぱられて、雨の中に走り出していく。
とたんに雨の洪水がに襲いかかってくる。
「目、開けられない!」
「閉じてろ。連れて帰ってやる。」
雨の轟音で声がかき消されながらも、大声で会話しながら走り抜けていく。
すっかり雨が吹きこんで、屋根のある意味がない寮の入り口に駆けこむ。
その頃には二人ともシャワーを浴びたかのように全身ぐっしょり濡れていた。
「うえぇ〜・・気持ち悪ぃ。」
洋服が完全に絞れる。
はスカートをぎゅっ、ぎゅっ、と絞りながら苦い顔をした。
同じように全身ぐっしょり濡れているイザークだったが、服のことは一切気にしないといったように濡れた髪をかきあげた。
「お風呂直行したいけど、水滴落として廊下歩くわけにい行かないもんね。」
がイザークに話しかけると、イザークがを振り返った。
「おまっ・・!」
「?」
を見るなり絶句するイザーク。
がわけもわからず首をかしげていると、玄関の向こうから歩いてくる人の姿が見えた。
「あ!みんな。」
おーい、と手を振るを見て、イザークがまたそちらを振り返る。
イザークの目には、さっきの会話に出てきた友人達の姿が映った。
「。イザーク。おっかえりー。」
「よく帰ってきたなぁ、この雨の中。」
「いつの間に降ってたんだ?こんなに。」
「傘があったとしても、ずぶ濡れですね、これじゃ。」
「ただいまー。お迎えありが・・・うわっ?!」
「行くなバカ!」
出迎えてくれた面々に手を振っていたを、イザークが突然抱きしめた。
彼らに見えるのは、イザークの背中と、その背中の横から苦しそうにのぞくの顔だけ。
「ナニをしてるのかな?イザークくん。」
ラスティが見下ろすようにイザークに言った。
「・・・・・。」
イザークは答えない。
ラスティの頭に、ぴきっと怒りのマークが浮かぶのをディアッカは見た。
「どうしたの?イザーク。」
抱きしめられているくせに、ちっとも動じないでが聞く。
イザークが呆れたようにボソッと告げた。
「ブラウスから透けてる。」
「へ?」
以外の男性陣が、イザークの行動に合点がいったと、うなずいた。
「俺は大歓迎なのになぁ〜♪」
ディアッカがそう言ってとイザークに近づく。
見事なイザークの足ゲリがディアッカに炸裂した。
ニコルが無表情でイザークに拍手をおくっている。
「ちゃんと持ってきたぞ、バスタオル。」
アスランの手からバスタオルがイザークの手に渡されて、イザークがそれでを包んだ。
ようやくイザークの抱擁から開放されたは、ぷはっと楽しそうに息をついた。
「得しすぎだな、イザーク。」
「ですね。見てますし、抱きしめてますし。」
冷ややかに言うラスティと、うなずくニコル。
「不可抗力だ。それよりよく帰ってくるのがわかったな。」
「ちょうど外を見ていたら、雨の中にふたつの影が動くのが見えたんです。」
「こんな雨の中バッカだねー、とか笑ってたらイザークとだった。」
「そういえばそのふたつの影、手を繋いでいたっけ。」
「なに?!ホントかよ、アスラン!」
復活したディアッカが掴みかかる勢いでアスランに聞く。
「あぁ。俺、目はいいんだ。」
しれっとアスランが答えた。
ディアッカの勢いの理由にはまったく気がついていないらしい。
「手もつないだ、と。」
「どれだけ得してるんですか、イザーク。」
「うるさい。文句があるなら正面から、正々堂々勝負にこい。」
数々の攻撃にも動じずに、イザークが言い放つ。
そうしているうちにも水滴を拭き終えたが、廊下からイザークを呼んだ。
「ねーえ!風邪ひいちゃうよ?」
そして、満面の笑みでこう言った。
「一緒にお風呂入ろうよ、イザーク?」
最強天然娘、・。
ここでは彼女が台風の目であることに間違いない。
END
【あとがき】
イザーク誕生日おめでとう!毎年叫び続けていますが、今年も変わらず愛してます!
夏はどうしても台風の季節なので、雨にまつわる妄想が炸裂します。
雨の妄想といえば、一緒の学ランで雨を避けながら肩を抱かれて帰ったし。
今回豪雨の中、手を繋いで走ったし。
傘を差さないシチュエーションは、やりたいことやったぞ!といったところでしょうか。
王道の相合傘をやってないあたり、ライナはひねくれモノなんでしょうか?
需要があれば来年は相合傘でやってみようかな、なんて。(来年かい!)
どんな設定にしようかなー、と考えたまま書き始めて、結局わからないところに落ち着きました。(笑)
仲良しこよしのザフトレッドが大好きです。