〔 再会 〕





コロニーメンデル。
フラガさんが、「ザフトがいる」とか言うものだから、私はディアッカと後を追った。

その姿を確認したわけでもなく、レーダーに反応が出ているわけでもない。
彼が何をもって「ザフトがいる」と判断したのかは見当がつかないけど、本当だったら大変なことになる。


戦力をほとんど持たない私たちクライン派。
すでに地球軍が反乱艦アークエンジェルを討伐にきている。
戦いの火ぶたは、かつての友軍同士で切られていた。

戦艦3隻。
それに搭載されているモビルスーツなんて、高が知れてる。
そのうえザフトだなんて・・・!
それが本当なら、ラクスさまのエターナル討伐が目的だろう。
いったいどうやって戦えばいいのよ?!


だからって、事態は待ってくれない。
メンデルの中に飛び込むと、案の定戦闘が始まった。
相手はたった2機だけだったけど、乗っていると思われる人は厄介だった。

機体はデュエルと隊長機。
おそらく、イザークとクルーゼ隊長。
2機だけ、といっても二人はザフトのエリートパイロットで、戦力にしたらとんでもない数字になりそうだ。

クルーゼ隊長とフラガさんがメンデルの中心部に移動して、後から来たキラが二人を追っていってしまうと、
ディアッカはイザークに機体を降りて話をしようと持ちかけた。
だから私も、ラダーにつかまり機体を降りた。


「なぜまでそこにいる?!」
銃を向けずに話をしようとディアッカが呼びかけたのにもかかわらず、イザークはディアッカに銃を向けた。
遅れてディアッカの隣にならんだ私を見つけて、イザークはまた銃を突き出す。

やめてよね。イザークってば、射撃トップでしょ。
撃ったら間違いなく当たるじゃない。

「銃を向けずにって、ディアッカが言ったのに。」
私がつぶやくと、イザークがカッとなり怒鳴ってきた。
「俺は、敵の言葉を簡単に信じるほど甘くない!」
「俺たちはお前の敵かよ?」
あきれたようにディアッカがイザークに返した。
答えきれない問いに、イザークがぐっと言葉に詰まる。

「ディアッカが生きていてくれたのは嬉しい。だが、なぜストライクと共にいる?!」
イザークは苦々しく言い放つ。
「それに!お前は自分からエターナル強奪に加担していたのか?!」
イザークの言葉に厳しさが増すごとに、手元で銃がカチャリと鳴る。
いつ発砲されてもおかしくない状況で、私は不思議と落ち着いていた。
彼が、私たちを撃つはずがないと漠然と信じていた。

「私は、イザークの敵になったつもりはないよ。」
「俺も、軍を裏切ったわけじゃない。」
その信用があったから、私たちはイザークに本音をうちあけた。
「ただ、ザフトにいても違うなって思ったの。」
私の言葉にイザークは理解できないと怪訝そうな顔をした。

実際に見て聞いて感じてきたことを伝えることは難しい。
だから、イザークに話すだけで理解してもらえるとは思ってない。
私たちの言葉を聞いてその後の行動を見てもらって、そうしたら、イザークも何かを感じてくれると思った。

「私は、ラクス様の信念についていきたいの。」
「・・・ラクス嬢もも、だまされているだけだ!」
「俺も?」
「貴様もだ!どうせ地球軍の女にでもたぶらかされたんだろう?!」
ディアッカが茶々を入れると、イザークがムキになり言い返す。

「あながち間違ってないかも。」
「なにィ?!」
、それ今冗談にならない。」

本当に困った様子で言うディアッカに、私は思わず吹き出して笑った。
突然態度を緩めて笑い出した私を見て、ディアッカも笑みをこぼした。
あっけにとられたように見ていたイザークは、やがてあきれたように銃をおろした。

「まったく。事の重大さを理解していないな、お前たち。」
イザークの言葉に、顔を見合わせる私とディアッカ。
確かにその通りだ。

軍法会議にかけられれば、処刑ものだろう。
けど、自分たちの行動が、軍法に反していることをわかっていても止められない。
世界は、変わるべきだと思うから。


「あぁ、わからないね。わからないけど、俺はいく。」
そう言ってディアッカは、イザークに背を向けた。

さっきから通信機がうるさく音をあげ続けている。
そろそろ戻らなければ、状況は悪くなる一方だろう。
ディアッカはハッチを閉めるなり、私を待つこともしないで飛び去った。
まるで、親友のイザークへの未練を断ち切るかのように。

「じゃあ、私もそろそろ行こうかな。」
独り言のようにつぶやいて、私もイザークに背を向けた。

戻ってこい、とは言えないイザーク。
一緒にいこうと、言えない私。


背を向けて、私はあることに気づいて振り返った。
驚いた顔のイザークに向かって、ほほ笑む。

「イザーク。お誕生日おめでとう。」

数日遅れはしたものの、伝えられて良かったと思った。
言われたイザークのほうは、その顔にさらに驚きの色を加えて私を見た。

「今言うことか?!」
「だって、誕生日だったでしょ?」
確かにその日は、連合軍の八・八作戦が開始されたし、それどころじゃなかっただろうけど。

「そういうことを言ってるんじゃない!」
「あ、プレゼント?そこまでは用意してないナー・・・。・・・そうだ。」
「だから・・・・っ?!」

驚いた顔のままのイザークと目を合わせ、私は意地悪く笑う。
「これってベタだった?」

やられた、という顔でうつむいたイザークだったが、やがて開き直って私を見た。
「よくわからなかったから、もう一度よこせ。」

イザークの掌が私の頭を後ろから引き寄せて、ふたたび重ねられたくちびる。
もう一度見つめ合ってから、余韻に浸る間もなく、私たちは離れた。

「じゃあね、イザーク。」
「死ぬんじゃないぞ、。」
「敵にそんなこと言っていいの?」
「敵じゃないんだろ?も、ディアッカも。」

イザークの言葉に、胸が震えた。
イザークが、私たちのことをわかろうとしてくれていることに、嬉しくて涙が出そうになった。
初めてのキスにも、そこまでの感動はなかったのに。
・・・って言ったら、怒るよね。


ラダーにつかまりコックピットに乗り込む前、私はもう一度イザークの姿を探した。
彼は銃を握った手を下におろしたままで、私を見ていた。
いつものように少し顔をけわしくして、愛想笑いのひとつもない。
私はまた少し笑って見せると、コックピットのハッチを閉めた。



     これから先、この戦争がどうなるのかわからないけど。
     今日、イザークに会えてよかったと思うよ。





   END


【あとがき】
 年表見てたら、メンデルでイザークとディアッカが会った日って、
 イザークの誕生日前後だったんだーと思ってできた作品です。
 とりあえず誕生日の5日後くらいの設定で書いてみました。

 ちゃんがあげたプレゼントはベタに「ファーストキス」です。
 「もう一度よこせ」は本当はムリなのですよ、イザーク君。

 ともあれ、今年もまたイザークの誕生日をお祝いできたことを、嬉しく思います。
 「誕生日おめでとう!イザーク。」