[ マフラー ]
学校帰り。
ディアッカは前方に奇妙なモノを発見した。
地に足がついていない、とはまさにアレを言うのだろう。
あえて表現するなら、「ふわふわのぽわわん」。
そんな様子の・が前方を歩いていた。
「よ、。ずいぶん浮かれてる?」
後ろから追いついて、頭をぽーんと軽くたたく。
「ディアッカ!今帰り?」
いつもなら「痛いよ」くらいの文句がくるのに、今日は満面の笑みで振り向かれた。
やっぱり「ふわふわのぽわわん」だ。
「どーしたよ、えらく機嫌いいな。」
「わかる?わかる?わかっちゃうー?!」
はぴょんぴょん飛び跳ねながら、ディアッカの腕に抱きついてきた。
ディアッカが「ラッキー」と思ったのもつかの間、はすぐにその手を離すと両手で首に巻かれたマフラーを口元まで持ちあげた。
鼻のすぐ下までマフラーをたくしあげて、その中ではまた「んふふー」と笑った。
そろそろディアッカには気味が悪くなってきた。
「あのね、さっきばったり、イザークに会ったの。」
隣に並んで歩きながら、が言った。
「イザークはまだ生徒会があるからって、一緒には帰れなかったんだけどー・・・。」
一瞬声が暗くなったが、すぐにまた明るい声に戻る。
「私がずっと『寒いね、寒いね』って言ってたら、イザークがマフラー貸してくれたんだよ!」
「へー、それはそれは。」
恋するオンナノコは大変だ。
ディアッカは心の中でため息をはき出した。
つき合わされてる俺も大変。
とか思ったことはには内緒で。
「『そんなに寒いならちゃんと準備をしてこい、ばかもの!』って怒られた!イザークに心配されちゃったよー。」
「心配・・・。」
ディアッカはイザークを思い浮かべた。
の言った通りの言葉を言って、いつもの顔で怒っているイザークが容易に想像できた。
「心配、ねぇ・・・。」
ま、とらえ方は人それぞれだし。
ディアッカは納得することにした。
の首に巻かれたマフラーに、ディアッカは目を向けた。
見覚えのある白いマフラー。
確かにイザークの物だ。
「うふふー。イザークの香りがする。」
はそう言ってイザークのマフラーに口元をうずめている。
ふと、疑問が浮かんだ。
あの他人に無関心なイザークが、自分の物を貸し出すだろうか。
しかも頼まれもしないのに、自分から進んで差し出すことなどあるだろうか。
答えが浮かぶのは早かった。
「絶対ない。」
思わず口にしてしまったディアッカを、は不思議そうに見あげている。
けれど恋するオンナノコのは、そんなディアッカの態度も気にならない。
むしろ、自分の話を聞いてほしくてたまらない。
「マフラーね、イザークが直接巻いてくれたんだ!もぅ、ドキドキして変になりそうだった!」
マフラーがあったかいせいか、イザークにされた行為を思い出したせいか、の顔がぽうっと赤くなってきた。
ディアッカはますます顔をしかめた。
イザークがにマフラーを巻いてやったって?
どうやっても想像できない。
他人に優しくするイザークがいたら、俺の処遇はもっといいはずだ!
幼なじみのディアッカはそう思った。
つまり。
おおごとなのは、がイザークにマフラーを借りたことでなく。
イザークがにマフラーを貸した。ということ。
しかもイザークの手で、にそのマフラーが巻かれたということ。
ディアッカの記憶のイザークは、そんなことを絶対にしない。
けれど、にはした。ということ。
それはつまり。
はまた「ふわふわのぽわわん」に戻って、ディアッカの少し前を飛ぶように歩いている。
恋するオンナノコは、一番大事なことに気がつかないようだ。
「あーあ、俺も誰かに恋してぇなぁ。」
ディアッカはの後姿につぶやいた。
両想い。
気がつかないのは二人だけ。
END
【あとがき】
寒くなりましたねー。
ライナは暑がりなので、寒いのは結構平気なんですが、今年はずっと暑かった分、なんだか余計に寒さを感じる気がします。
毎年マフラーなんてしませんが、今年はしてみようかなぁ、と思って書いてみました。
それだけで書けるって、恐ろしい妄想ですね。(笑)