〔 水と月と少女 〕





「♪〜♪〜」
幻想的な光景に、しばしイザークは心を奪われた。
人ごみが嫌で抜け出したパーティ。
裏庭の噴水のところで、イザークは妖精を見た。


少女が鼻歌を歌いながら、楽しそうに水の中を歩いている。
たっぷりとしたドレープのピンクのドレス。
靴を両手に持ったまま、ドレスの裾を掴み水を蹴りあげる。
しぶきを頭からかぶっても、楽しそうに声をあげて笑っている。
規律あるパーティーでおおよそ似つかわしくないその少女の姿に、イザークは声をかけるのも忘れて見入っていた。


妖精かと思ったのは、ちゃんとした人間の少女だった。
イザークと同じくパーティを抜け出してきたのだろう。
ドレスの裾はすっかり水に濡れている。


「あーっ!イザーク・ジュール!」

突然こちらを指差して少女が笑った。
少し酔っているのか、月明かりの下に少女の赤く火照った顔が浮かんだ。
少女は面白そうにイザークの元へ駆けてきた。
「うわっ・・・!」
少女が水に足をとられてよろめいた。


けれど少女が水にずぶ濡れになることはなかった。
「気をつけろ。危ないぞ。」
ふわ、という感覚と一緒にかけられた言葉。
間一髪のところで、イザークが少女を抱き上げていた。
少女は嬉しそうに、にこおっと笑う。


「ありがとう。イザーク。」
「機嫌がいいな。?」
イザークが名前を呼ぶと、はきょとんとしてイザークを見た。
「あれ?わかってたの?」
「・・・今、な。」
誤魔化すこともしないで馬鹿正直に答えるイザークに、はまた笑った。


これが、写真でしか知らなかった婚約者の出逢いだった。





   END


【あとがき】
ちゃんはイザークに写真で一目ぼれ。
イザークは実物のちゃんに一目ぼれ。
写真のちゃんはかしこまって写っていたため、すぐには気づかなかったようです。