2023.01.10

『Hiroshima Happy New Ear』はコロナ禍の間行かなかったので久しぶりである。この間、図書館に行ったときにチラシで知った。今回32回目は、ヴィオラとアコーディオンという珍しい取り合わせで、バッハとピアソラという組み合わせである。ビオラの赤坂智子さんは今井信子の弟子で、アコーディオンの大田智美さんは御喜美江の弟子である。趣旨としては明暗、聖俗といった対立観念の背後にある共通項を音楽として表現したかった、ということで、2019年に『キアロスクーロ:陰影』という CD を出していて、それに細川俊夫が注目し、更に、プログラムとして、彼のチェロとアコーディオンとオーケストラの為の作品『時の深みへ』の編曲版を組み合わせた。この編曲版は今井信子によって要請されて、彼女と御喜美江によって初演された、という因縁もある。

    前半は5曲のオルガンの為のコラールの編曲版。「人よ、汝の罪の大きさを嘆け」「主イエス・キリスト、われ汝を呼ぶ」「おお神よ、汝義なる神よ」「目覚めよ、と我に呼ぶ声あり」「いざ来ませ、異邦人の救い主」。ビオラというのは、バイオリンのような華やかなな音は出せないけれども、随分と音域が広くて表現力がある。一音一音をじっくりと聴かせる。アコーディオンは旋律、和声、リズムと多彩である。二つの楽器がお互いの旋律を絡み合わせる。バッハの創意工夫はやはり特別だなあ、と改めて思った。

    2つ目が細川俊夫の自作編曲版で、これは簡単に言葉で要約できるような音楽ではないのだが、一音を聴かせ、それが更に別の音に繋がる、その連続である。どうしてなのか判らないが、飽きさせない。解説によると、ビオラが人間でアコーディオンが宇宙だそうであるが、確かにそんな感じもある。ビオラはオクターブ音を巧みに操っているのが印象的だった。アコーディオンは笙のような音も出せるし、オルガンのような音も出せる。(なお、バンドネオンとの違いについても解説があった。バンドネオンのキー(ボタン)の配置は悪魔のように不規則であるが、他には、バンドネオンの方が圧倒的に軽くて、両手を使ってフイゴを動かすし、押すときと引くときで音が変わる。アコーディオンは半音階キーで、取っつきやすいけれども、何しろ重い。)

    後半はピアソラで、「ル・グラン・タンゴ」「オブリヴィオン」「チェ・タンゴ・チェ」、それとアンコールは、曲名が判らないが、ピアソラのタンゴ。これはまあ、雰囲気が一気に変わるので、なかなか面白かった。ピアソラは本国のアルゼンチンではあまり人気が無いらしい。確かに情緒的な深みよりも、諧謔や皮肉が前面に出ている。タンゴのリズムすらパロディーとして扱っているのはないか、と思わせる。「チェ」というのはスペイン語ではなくて、アルゼンチンで生まれた単語で、「ねえ」といった呼びかけ語らしい。人生碌なことはないけれども、タンゴだけは好きだ、という趣旨のフランス語の歌詞が付いているということである。

    2人への応援の為に CD を買った。またじっくりと聴いてみよう。

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