2023.09.20

波多野睦のCD 『アルフォンシーナと海』を最近また聴き始めた。表題曲はつくづく魅力的な曲だと思う。ネット(YouTube)にある「アルフォンシーナと海」を集めた。日本語が二つ。鈴木希彩(のあ)と冴木杏奈。歌詞は異なる。訳詞者は判らない。波多野睦美のスペイン語歌唱(これは CD)。オリジナルの Mercedes Sosa の歌と、かなり凝った Rosalia の歌(これは秀逸)。器楽としては、代表的なギターソロとして Leonardo Bravo の演奏、作曲者 Ariel Ramirez のピアノ独奏波戸崎操のフルート演奏。これらを CD-R にコピーして聴いている。音楽としての特徴は何といっても最後の半音階的上昇による何とも言えない浮遊感だろう。

    詩人 アルフォンシーナ・ストルニについての日本での研究を探すと駒井睦子という著者しか出てこない。ストルニはアルゼンチンでは有名な詩人で、女性詩人のパイオニアである。既婚者と恋に落ちて妊娠して別れたという過去を持つ。内容についてはしばしば「世間」から糾弾されているが、徐々に認められるようになった。晩年の詩には「海」がしばしば登場し、その象徴内容も変化しているらしい。下記で調べた。経緯から判断すれば、乳癌が再発して絶望して自殺したのかもしれない。投身とも言われるし入水とも言われる。そこに想像を巡らせて「男を見限って自殺して海の中に安住の地を得た」という風に詩を作ったのが、フェリックス・ルナである。彼は歴史家でもあり、ジャーナリストでもあり、作家でもあった。

    駒井睦子の論文『アルフォンシーナ・ストルニの詩における海ー再生の象徴として一』の最後を引用する。

    これまでストルニの海での自殺により、詩中の海は死のトポスとする見解が多数であったが、ストルニの詩における海は決して死では終わらず、新たな生を生み出したり、語り手の精神の傷を癒したりする「再生の象徴」でもあることがわかった。海が持つこのような象徴性をストルニがどのように詩中に表現してきたかについて、読者は内容の解釈からだけではなく、詩人がほどこした形式面からの工夫を理解することによって、より深く知ることができるのだ。

  <目次へ>       <一つ前へ>     <次へ>