▼March 22

Javelin Boot (Electric Lounge)

 最終日は例年のようにかなり寂しい。今日のお目当てはまずオースティンのギター・ポップ・バンド、ジャベリン・ブートである。どこかのテレビ局が取材でビデオ撮影に来ていたというのに、昨日は満員だったヴィック・チェスナットと同じ会場というのが信じられないくらい、エレクトリック・ラウンジは閑散としている。ただ一つの救いはビートル・ボブに思う存分踊れる場所を提供できたということだろうか。(写真手前・ちなみにビートル・ボブとは、イベントがあると登場し、いいバンドのライブに決まって現れ踊りまくることで有名な名物男。彼の後をついていけば、はずれはないと言われており、「No Depression」にインタビューが掲載されたこともあるほどだ)あちこちで何度か姿を見かけたが、ここほど気持ちよくステップを踏んで踊っている彼の姿は見たことがなかった。しかし、ステージ上の彼らは全くそんなことは気にせず、異常に高いテンションで飛ばしまくる。ナイーヴかつパワフルな曲の連続に、見終わって十分満足のいくステージだった。


Alejandro Escovedo (La Zona Rosa)

 オースティンに行ったら一度は見ておかなければならないエスコヴェードのライブ。ようやく初体験である。これはとにかく噂以上に素晴らしいものだった。ここ2年ほど、sxswにおけるオーケストラでの演奏はなかったようだが、今回はひさびさに弦楽器4人に、ギター、ベース、パーカッション、ペダル・スティールなどを加えた総勢9人による大所帯。打ち合わせも念入りで、始まる直前にも集合がかかり、ステージ上のメンバー全員が楽屋でミーティングをしている様子が見えた。熱気に包まれた会場は満員で、バンドの登場を今か今かと待ちかまえている。いよいよスタートだ。1曲目の"The End"でまず身体全体に衝撃が走る。弦楽器の優しい調べと、鉄壁のロック・アンサンブルが違和感なく同居できることはアルバムでも先刻承知していたつもりだが、アルバムで聞くのと実際にライブで体験するのとで、こうも分厚さが違うとは知らなかった。音の塊が全身にぶつかり、内側から身体を震わせるのが自分でもわかる。この5日間で随分たくさんのライブを見てきたが、ここまで完成度の高いステージは初めてだ。まさに芸術と言っていいだろう。計算された効果と長い経験に裏打ちされた職人技にはただ脱帽するばかりである。

個人的なクライマックスはファースト収録の名曲"One More Time"。アルバムでのロックンロール仕立てとライブ・アルバムでのソフト仕立ての両方の要素を組み込み、8分にも及ぶ組曲に仕上げた工夫は単純ながら、出来上がったヴァージョンは本来こちらがあるべき姿だったのだろうと唸らされる出来映えだった。

長々と書いてきたが、今思い返しても、とにかく完璧という言葉以外に形容の仕方が思いつかないステージである。何度目かのアンコールに応え、2時間近く続いた演奏の締めくくりがまた心憎い。まずアレハンドロが姿を消し、演奏を続けながら、ギター、ベース、ドラムの順に退場。最後に弦楽器が一人ずつ歓声に応えながら消えていくという、まるで「残像に口紅を」(筒井康隆)みたいなラストだった。アンコールを発表する会場のアナウンスが、あれから1ヶ月近くたった今でも、まだ耳にこびりついて離れない。それを紹介してレポートを終えよう。彼はこの上なく簡潔な言葉で、会場の気持ちを代弁してくれたのだ。

「ヴィヴァ、アレハンドロ。ヴィヴァ!」


photo (C)Mutsuo Watanabe

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