前回dB'sやグリーン・オン・レッド再結成のニュースをお伝えし、ニッターズの新作について触れた後、いつも利用しているマイルズ・オブ・ミュージックの通販サイトをのぞいてみたら、あれれ。ブラスターズの新作『4-11-44』が発売されているではないか。少し前からフィル・アルヴィンを中心にライブで復活を果たしているのは知っていたけれど、スタジオ録音盤が作られていたとは知らなかった。早速購入してみる。オーティス・ブラックウェルやチャーリー・リッチ等のカヴァーも交えて、いぶし銀のロックンロールがぎっしり。フィルのヴォーカルに衰えは感じられず、デイヴ・アルヴィンの不在はそれほど気にならない。かつてのファンもこれなら期待を裏切られることはないだろう。安心して聴ける一枚だ。

 ニッターズ、ブラスターズと懐かしい名前が続いたところで、さらにもう一つ80年代の西海岸を代表するロックンロール・バンドと言われて思い出すのは、ビート・ファーマーズである。85年にデビューを飾り、95年に名物ドラマー、カントリー・ディック・モンタナの死亡から解散を余儀なくされるまでに、七枚のアルバムを残した。あれからもう十年−−しばらくはメンバーの動向も伝わってこなかったのが、03年には80年代のライブ音源がリリースされたり、昨年はファースト・アルバムがボーナス・トラック10曲を加えてライノ・ハンドメイドから再発されたり、ここ数年バンドの周辺は密かに盛り上がっており、いよいよ再結成かと個人的にも期待していたところへ、ちょうどタイミングよく新作『LOADED』が届けられた。ただし、バンド名はビート・ファーマーズではなく、ザ・ファーマーズとなっている。なぜこういうことになったのか、詳しい事情を僕は知らないが、少し不思議な感じがする。というのも、ザ・ファーマーズの構成メンバーはモンタナに代わる新ドラマーを除くと、初期ビート・ファーマーズそのまま−−すなわち、ジェリー・ラニー、バディ・ブルー、ロール・ラブの三人であり、ビート・ファーマーズを名乗ったところで何の問題もないと思われるからだ。モンタナの死と共に過去の名前は封印してしまったということだろうか。それにしてはロゴもほとんど一緒だし、そもそも元のバンド名を半分にしただけだから、あまり潔いとは思えない。まあ、内容は相変わらずノリのよいR&Rが楽しめるので、あまり詮索はしないでおこう。

 さて、二十年ぶり、十年ぶりといった話題が続くと、少しくらいのブランクには驚かなくなってしまうものだが、彼らの復活はうれしい驚きだった。続いては八年ぶりにセカンドをリリースしてくれたポップ・バンドを紹介したい。97年にゲフィンからデビューしたビッグ・ブルー・ハーツである。聞いたことがないって? はい、それもいたしかたありません。日本では……まあ、無名の部類でしょうな。古くはロイ・オービソンやエヴァリー・ブラザーズ、新しいところでクリス・アイザックやマーヴェリックスを思わせるノスタルジックな音楽性と堂々とした風格によって、当時一部で高く評価され、僕も気に入ってよく聴いた覚えがあるけれど、残念ながら日本盤は出なかったと記憶するし、その後の話題には乏しかったからね。もっとも、これは彼らに限った話ではなく、オーソドックスなルーツ・ポップというのは、あちらでも何故か人気のないジャンルのようだ。個人的にはどんぴしゃりとツボにはまる分野なのだが、スパニック・ボーイズやデレヴァンテスが大ブレイクしたという話はついぞ聞いたためしがない(例がマイナーですみません)。あるいは同じような方向性を持つマーシャル・クレンショウやマーク・ジョンソンなどの苦境を見るにつけても、スタート時点からビッグ・ブルー・ハーツが難しいポジションに立っていたことは何となく想像がつく。だからこそ、デビュー作と変わらず、瑞々しいメロディと郷愁の漂うサウンドが楽しめる新作を、僕は前作以上に評価したいと思うのだ。特に目新しいところはないけれど、切なくも美しい「Lovin' You」、力強さと哀愁味をミックスしたタイトル・トラックなど、多くの名曲をこの機会に体験してみてほしい。

 なお、『HERE COME THOSE DREAMS AGAIN』にはこんなステッカーが貼り付けられている。

「傷心とオービソン風のトゥワング、この二つにはかつて若者向きの関連性があったのに、今は失われてしまった。ちょうどそんなことを考えていたとき、ビッグ・ブルー・ハーツが現れたのだ……」(大意)

 なるほど、うまいことを言うものだと感心させられた。この一文を寄せているのは、同じく八月に新作を発表したロドニー・クロウェル。本国ではビッグ〜と比較にならないくらい知名度のあるクロウェルだが、日本での状況を考えると悲しくなってしまう。以前ソニーから発売された『LIFE IS MESSY』(92年)を最後に日本での紹介は途切れているものの、その後もスチュアート・スミス、マイケル・ローズらと組んだシカーダスではビートルズ風のポップ・ソングに挑戦し、ソロ名義では『THE HOUSTON KID』(01年)、『FATE'S RIGHT HAND』(03年)など、注目作を次々とリリース。中でもウィル・キンブロウやパット・ブキャナン等、ナッシュヴィルの中堅ポップ派のバッキングによって、カントリー、フォーク、ロックを自在に横断しながら、メリハリを効かせた後者は新たな代表作と呼ぶべき力作だった。出たばかりの新作も、前作の路線を受け継いだ佳作といっていい。オーソドックスなアメリカン・ロックからトラッド風のアレンジが効果的な曲まで、クロウェルの多彩な才能を感じさせるナンバーが目白押し。古くから交流のあるエミルー・ハリスとのデュエット・ナンバーも印象的だし、大ベテランの貫禄を感じさせる一方で、若々しさも失っていない。クロウェルの現在の方向性はもはや商業的なカントリーのジャンルにとどまるものではなく、ある意味でアメリカン・ロックの王道でもあり、スティーヴ・アールやジョン・ハイアットと並んでもっと注目を集めるべきだと思うのだが……。

 もっとポップなアルバムが聴きたいという人にはこちらを。最近では奥さんのエイミー・マンに話題をさらわれがちで、日本盤がご無沙汰となっているマイケル・ペンで締めくくることにしよう。『MP4』以来五年ぶりとなる新作は47年、終戦直後のLAを舞台にしたコンセプト・アルバムとのこと。ゲイリー・ローリスやバディ・ジャッジ等も参加。サウンドには相変わらず手が込んでいる。当時を思わせる仕掛けがほどこされる他、鍵盤楽器を筆頭にして、一つ一つの音色に艶と工夫があり、よくできた工芸品を思わせる徹底ぶりには頭が下がる。その一方、ジョン・レノンを思わせる硬派なポップ・センスも健在で、ダイナミックに聞かせる部分もあるのだから文句なし。奥さんだけでなく、ペン単独の来日もぜひ考えてほしいものだ。

THE FARMERS/Loaded (Clarence Records/CCD TF106)2005

BIG BLUE HEARTS/Here Come Those Dreams Again (Eagle Eye;Adrenaline/no number)2005

RODNEY CROWELL/The Outsider (Columbia/CK94470)2005

MICHAEL PENN/Mr.Hollywood Jr.,1947 (spinART;Mimeograph/SPART163)2005