このところ80年代に活躍したバンドのリユニオンが目につく。昨年充実した復帰作を出したキャンパー・ヴァン・ベートーヴェンやアメリカン・ミュージック・クラブは記憶に新しいところだが、今年は何とあのdB'sがオリジナル・メンバーで再結成を果たし、アルバムを準備中というから驚いた。オフィシャル・サイトで聞くことのできる新曲「World to Cry」はいかにもピーター・ホルサップルらしく、哀愁味を漂わせながらじわじわと盛り上がる、感動のギター・ポップ・ナンバー。いやもう、これは涙なしには聞けません。後期dB'sを思わせる力強さ、メンバーの溌剌とした演奏に接してしまうと、アルバムへの期待はいやがうえにも高まっていく。今年中に聴けると嬉しいのだが……。

 それだけではない。80年代から90年代にかけてのアメリカン・ロック/ルーツ・ロック・シーンに確固とした足跡を残した名バンド、グリーン・オン・レッドも、九月に再結成を果たす予定だとか。気になるメンバーはといえば、ダン・スチュアート、チャック・プロフィット、クリス・カカヴァス、ジャック・ウォータースン……うーん、こちらもすごい。最盛期のラインナップそのままではないか。何でもアリゾナの老舗クラブ、コングレスの20周年を記念したイベントに出演するためのリユニオンで、今のところアルバムの予定はないようだが、これをきっかけに……と勝手な期待をしてしまうのがファンというもの。ちなみにこのイベントは他にもジャイアント・サンド、キャレキシコ等、地元の重鎮に加えてリヴァー・ローゼズ、サイドワインダーズ等、懐かしのバンドがやはりオリジナル・メンバーで勢ぞろいするらしい。

 そんなわけで、懐古モードの気分にふさわしいバンドは他にないかと見回してみたら、ちょうど20年ぶりの復帰作を出したばかりのニッターズがいるではないか。今回はここから始めることにしよう。思い起こせば、ニッターズがスラッシュから最初のアルバム『POOR LITTLE CRITTER ON THE ROAD』を発表したのは85年のことだった。今となっては信じられない話だが、このアルバムは日本でも『ハート・オブ・アメリカ』というタイトルで同時期に発売されている。というのも84年から86年にかけてはアメリカン・インディーズに一番注目が集まっていた頃で、ごく一部ではあるけれど、主要作はこの時期に邦盤化されているのだ。例えばドリーム・シンジケート、グリーン・オン・レッドらが徳間ジャパンを通していち早く紹介されていたし、ビクターは85年に〈アメリカン・ポップ・ルネッサンス〉と題して、ロング・ライダーズやスリー・オクロックらを含む10枚を一気に発売した。当時スラッシュ・レーベルはポリドールが発売権を持っていて、ヴァイオレント・ファムズやロス・ロボス、ランク&ファイルといったあたりが当たり前のような顔をして店頭に並んでいたのである。何ともいい時代だった……。

 それはともかく、ニッターズに話を戻そう。もともとはそれぞれのバンドで活躍していたメンバー−−ジョン・ドゥー、イクシーヌ・セルヴェンカ(共にX)、デイヴ・アルヴィン(ブラスターズ)らが、あるイベントでたまたま一緒にブルーグラスやカントリーを演奏したところ、これが大好評で、アルバム制作に至ったという経緯がある。そもそも一時的なプロジェクトであり、メンバーはその後別々の道を歩んでいくのだが、残された一枚のアルバムは人々の記憶に残り続けた。マール・ハガードやカーター・ファミリーの曲やトラッド・ソングを大真面目にカヴァーし、伝統的なナンバーに混じって違和感のないオリジナル・ソングを披露したこのアルバムは、特に何か変わった試みをしているわけではない。むしろオーソドックスにルーツ・ミュージックへの敬意を表現していたといっていい。ただし、その頃はインディー・ロックのファンがカントリーを聞くなんて、と思われていた時代である。今のようにジャンルの垣根が低くなり、オルタナティヴ・ロックの観点からジョニー・キャッシュが評価される現代からするとわかりにくい面もあるだろうが、ニッターズは明らかに先駆者だった。当時まだ十代から二十代前半だったインディー・ファンの多くは、普段縁遠かったカントリーの世界にパンクと変わらないエモーションが潜んでいることを、おそらくこのアルバムを通して初めて知ったのではないだろうか。

 その密かな衝撃を持ち続けたミュージシャンによって、公にリスペクトが表明されたのは99年のことだった。ブラッドショットからニッターズへのトリビュート盤が発売され、ウィスキータウン、トレイラー・ブライド、ロビー・ファルクスらが思い入れたっぷりのカヴァー(のカヴァー)を提供する中、ニッターズ自身も14年ぶりの復活を果たすことになったのだ。たった一枚しかアルバムを発表していないバンドに対してトリビュート盤が企画されること自体、異例であり、ニッターズの重要性を物語っている。また、こうした六年前の再評価が今回の復帰作を生み出す原動力となったのは、まず間違いのないところだろう。

 さて、ようやくここで新作の感想を。前作と方向性は変わらず、オリジナルやカヴァーを交えてルーツ・ミュージックを掘り下げようという姿勢は一貫しており、そういう点では安心して聴ける一枚に仕上がっている。ただ20年前に比べて、こうしたアプローチが一般的になってきている今、前作以上の衝撃を持ちうるかというと、正直いって疑問が残る面もあるのだが、それは時代がいい方向に進んできた証拠と受け止めておきたい。少なくとも僕はノスタルジックなムードをゆったりと楽しむことができた。中でもレトロにアレンジした「Born to be Wild」は一聴の価値あり。

 これでは物足りないという人にはこちらもお待たせ。七年ぶりに復活を果たしたサン・ヴォルトの新作をお薦めしよう。というのも、しばらくジェイ・ファーラーがソロでやりたいことをやった結果なのか、前衛色は姿を消し、ストレートなロック・テイストで全体が統一されているからだ。どちらがいいかは微妙なところだけれど、個人的にこうした痛快路線は大賛成。これで日本盤出ないのは納得いかないなあ。

 その他にルーツ系で名前を挙げておきたいのは、ダン・ベアード(ジョージア・サテライツ)のプロデュースした三枚目をリリースしたばかりのXレイテッド・カウボーイズ。オハイオ州コロンバスの中堅バンドで、しなやかなサウンドと哀愁味、ジョージア〜にも通じるタフなロックンローラーとしてのエネルギー等を兼ね備えた注目株だ。

 後はリック・シェルのデビュー作とロジャー・クラインのライブがあれば、夏の暑さを吹き飛ばして、快適なドライブを楽しむことができること間違いなし。最近の女性SSWとしては、月並みですが、ローラ・カントレルとシャノン・マクナリーを推薦しておきます。

THE KNITTERS/The Modern Sounds of The Knitters (Zoe/01143-1057-2)2005

SON VOLT/Okemah and The Melody of Riot (Transmit Sound;Legacy/JN94743)2005

X-RATED COWBOYS/X-rated Cowboys (FFN Records/FFN-04)2005

SHANNON MCNALLY/Geronimo (Back Porch/72434-77269-2-7)2005