今回はまずペズバンドの再発という朗報から。といっても知名度はさほど高くないのでご存知ない方も多いはず。念のために解説しておくと、ペズバンドは70年代後半のパワー・ポップを代表する存在であり、シカゴ周辺ではチープ・トリックやオフ・ブロードウェイUSAらと並んでジャンルを語る際には落とせない重要バンドの一つでもある。にもかかわらず、なぜかリイシューの遅れていた彼らだが、ようやく3枚のアルバムすべてが復刻されることになった。世界初CD化のうえ、ボーナス・トラックにはライブEPを丸ごと収録という内容の充実がうれしい。今回のリイシューを実現させたエアー・メイルの快挙に心から拍手を。

 それにしても日本のレーベルは頑張っている。もう一つ例を挙げるなら、スクラフスやフラッシュキューブスの来日公演を企画し、パワー・ポップへの愛情とこだわりを持つターゲット・アースも見逃せないレーベルの代表格である。最近のリリースで個人的に注目したいのは新生スクラフスの第ニ弾『SWINGIN' SINGLES』だ。力強く若々しい曲があれば、じっくりと聞かせるナンバーもある。メロディーの美しさ、あるいはヴォーカルの存在感などから、中心人物スティーヴン・バーンズの変わらない魅力が改めて伝わってくる力作だと思う。それなのに、日本以外ではどのレーベルとも契約がないというから不思議としか言いようがない。これほどの作品を見過ごしているアメリカ人やイギリス人というのはいったい何をしているのだと文句の一つも言いたくなってくるではないか。え? その前にスクラフスってどんなバンドなのかって? そうか、まずそこからだね。

 スクラフスは70年代にビッグ・スターやトミー・ホーエンらと共に活躍したメンフィスのパワー・ポップ・バンド。当時アルバムもリリースしていたが、大きな話題にならず、シーンの表面から一度姿を消していた。しかし、90年代に入ってから一部のファンの間で注目度が高まり、過去のアルバムや未発表音源が続々と発売されたばかりか、スティーヴン・バーンズはメッセンジャー45名義で新作も発表し、現役ミュージシャンであることを強くアピールする。こうした動きに併せてグラスゴーのミュージシャンたちがアレックス・チルトン経由でバーンズのことを知り、全面的にバック・アップすることになった。フランシス・マクドナルド(BMXバンディッツ)やベル&セバスチャンのメンバーのサポートを得て、生まれ変わったスクラフスは01年に来日公演を果たし、新作『ラブ・ザ・スクラフス』(日本盤はクラウンより)をリリースする等、復活を強く印象付けてくれたのだった。今回のアルバムはその翌年に録音され、03年にーンズのプライヴェートなレーベルから一度リリースされたというが、ほとんど流通はしていなかったようで、この日本盤によって初めて広く紹介されることになった次第。簡単に入手できるのは日本人の特権なので、感謝しながら購入しなくてはなるまい。

 さらにもう一つ、こちらは本誌の広告でもお馴染みのWizzard In Vinyl。このレーベルも最近の動向から目が離せなくなっているのでご注目を。前号のインタビューでも触れておいたように、デヴィッド・グレアムの全作配給は大きな話題の一つだが、ほかにも北欧のポップ・パンクから哀愁ギター・ポップまで、幅広く良質のバンドを発掘、紹介するエネルギーには素直に頭が下がる。それに加えて今年の春から夏にかけてのラインナップがすごい。80年代後半に活躍し、三枚のアルバムを残したアザー・キッズのベスト盤、ザ・ナウやアルター・エゴで活躍したジェフ・ダニエリクの編集盤、トム・コンテ(後にロックフォニックス、現ヒップ・リッパー)が率いていたNYのパンク/パワー・ポップ・バンド、ザ・ゴーの発掘音源集など、かなりのマニアをも唸らせる充実のセレクションには本当に驚かされた。さらに七月にはカーズへのトリビュート盤(68号の本欄参照)、エクスプロウシヴスの二枚組編集盤(69号参照)の配給、そして何と! リチャード・オレンジのプライヴェート盤(54号参照)を正式にプレスして発売するというのだ。以前からそれぞれのアルバムを持ち上げてきた当方としてはうれしい限り。特に70年代のメンフィスでザイダー・ジーというバンドを率いていたオレンジは、同郷のトミー・ホーエンやアレックス・チルトン、スクラフスらとも共通するポップ感覚、ビートルズ・ファンにも強くアピールする音楽センスの持ち主である。この機会にぜひ聴いてみてほしい。

 他にもヴィヴィッドからは関口弘氏監修によるパワー・ポップ発掘シリーズが始まっており、ペズバンドやスクラフスだけでなく、ポッピーズ/ボーイフレンズやヘッドエイクス等の音源を簡単に入手できる日本のポップ・ファンは本当に幸せだ。もっとも、だからといってアメリカのポップ・ファンすべてが不幸だとは限らないし、アメリカにも頑張っているレーベルはある。今年の大きな収穫と個人的に思っている以下の二枚は今のところ日本盤は出ていない。アメリカのインディーからひっそりと発売されているだけだ。しかし内容はどちらも素晴らしい。今回の日米対決は二対二で引き分けとさせていただこう(いつ勝負になったのか?)。

 さて、大きな収穫の一枚はクリス・ヴォン・スナイダーン、二年ぶりの新作だ。前作『WILD HORSES』もかなりよかったが、今回はさらにスケール・アップというか本領発揮というか、はたまたアグレッシヴになったというか、華麗なピアノとパワフルなバンド・サウンドが見事に溶け合った冒頭のナンバーからして気合が入りまくり。哀愁のメロディーを書かせたら当代随一、バッドフィンガーやエリック・カルメンにも肩を並べるという才能を見事に発揮しながら、メリハリの効いた傑作を作り上げてくれた。大推薦。

 もう一枚はマーク・ジョンソンの編集盤である。彼はもともとNYのフォーク・シーンで活躍し、72年にはヴァンガードからアルバムを出している大ベテラン。80年代以降はポップなロックンロール志向を強め、ロバート・ゴードンらに曲を提供している。フィル・スペクターやビーチ・ボーイズにも通じるそのポップ性は『12 IN A ROOM』(91年)や『LAST NIGHT ON THE ROLLERCOASTER』(00年)で十分味わうことができるのだが、ここにもう一枚推薦盤が加わった。おそらく未発表と思われる80年代の音源を収録した本作は、いわゆるデモ集とは異なり、バンド名義でしっかり録音されていて、かなり聴き応えのある内容となっている。彼の持ち味であるドリーミーなポップ感覚があふれているうえに、ロイ・オービソンやバディ・ホリーにも通じるオールディーズ/ロックンロール感覚もたっぷりと楽しめる。これは心あるポップ・ファンすべてに聴かれるべき良作といっていい。これまた大推薦。

・THE SCRUFFS/Swingin' Singles (Target Earth/TE-013CD)2005

・RICHARD ORANGE/Big Orange Sun (Wizzard in Vinyl/WiV-CD056)2005原盤(Oak Media/505-1)2002年

・CHRIS VON SNEIDERN/California Redemption Value (Mastromonia/MCD-004)2005

・MARK JOHNSON AND THE WILD ALLIGATORS/Mark Johnson and The Wild Alligators (Radioghost/MJ0004)2005