80年代にボストンを拠点にして活躍したスクラフィ・ザ・キャットというバンドがある。ポップで軽快なロックンロールを中心にして、ルーツ風味をまぶしながらモダンな感覚を併せ持ち、再評価が待たれるバンドの一つだ。彼らは『TINY DAYS』(87年)『MOONS OF JUPITER』(89年)という二枚のアルバム、それに12インチEP二枚を今までに残しているが、いずれも廃盤となって久しい。まあ、中古屋を回れば、あるいはネットで検索すれば割合簡単に見つかるとはいうものの、一枚目のCDは結構珍しく、購入するまでかなり探し回った覚えがある。再発されていないのは権利関係の事情があるのかもしれないが、ランク&ファイルやダンプトラックなどがきちんとCD化された最近のカレッジ・ロック見直しの動きからすると、彼らやビート・ロデオあたりが再発の網からこぼれ落ちてしまっているのは不思議としかいいようがない。もっとスポットが当たってもいいバンドなのに、と強く思う。

 そんなわけで、今回まず最初に紹介したいのは、そのスクラフィ・ザ・キャットのリーダーだったチャーリー・チェスターマンの新作だ。幸いなことにバンド解散後もチェスターマンは音楽活動を続けており、アルバムもソロ名義で四枚(うち一枚は編集盤)、チャズ&ザ・モーターバイクス名義で一枚発表している。名義は違っても音楽性はスクラフィ〜時代から一貫しており、いずれもノリのよいロックンロールが楽しめるので、ぜひ聞いてみてほしい。前作『HAM RADIO』から五年ぶりとなる今度の新作『SKUNK ON THE LOOSE』でも路線に大きな変更はない。いくつかのナンバーではスライド・ギターの比重が高まっていたり、ロカビリーやオールディーズの要素が強まっていたりと、細かい点を挙げることはできるけれど、理屈抜きに楽しめるチェスターマンの持ち味は20年前から変わっていないどころか、ますますフレッシュに、ますますヴィヴィッドになっているのだから頼もしい(同時発売のライブ・アルバムも大推薦)。たとえばNRBQ、ニック・ロウやデイヴ・エドマンズ、マイナーなところでスケルトンズなど、ルーツ・ミュージックのエッセンスとポップな要素を上手く組み合わせたベテランたちの後継者として、あるいは昨年の新作も最高だったアイタン・マースキーあたりの先輩格として、日本でも注目が集まることを願っている。

 続いては同じく80年代からペンシルヴァニア州で活躍するフランク・ブラウンを紹介しておきたい。ただし相当のインディー通でも、この名前ではピンと来ないだろう。ソロ名義では初となるアルバムを発表したばかりだが、彼は今までにフライト・オブ・メイヴィス、およびバズ・ジーマーというバンドのリーダーとして活動してきた過去があり、むしろそちらのバンド名で記憶している人の方が多いはずだからである。ブラウンの軌跡を簡単にまとめておこう。まずフライト〜は80年代末に活躍したストレートなギター・ポップ・バンド。アルバム『FLIGHT OF MAVIS』(89年/最近CD化)とCDEP『SPOOLS』(91年)の二枚を残している。どちらも素朴でポップなメロディが楽しめる好盤だ。特に後者は僕がブラウンの名前を知るきっかけになったEPだけに思い入れが深い一枚。元dB'sのジーン・ホルダーがプロデュースを手がけ、かっちりとまとまったサウンドに加え、続く新バンドへの布石となる力強さも顔をのぞかせており、探す価値は大いにある。しかし、発表当時はほとんど話題にならず、バンドは一度解散。その後メンバーの出入りを繰り返しつつブラウンは新バンド、バズ・ジーマーを軌道に乗せていく。途中で地元の痛快ロックンローラー、トミー・コンウェルの参加もあり、フライト〜のメロディのよさを受け継ぎながら、もっとパワフルにロックするのがバズ・ジーマーの大きな魅力になっていった。そしてリリースされたのが『PLAY THING』(96年)である。発表後しばらくして手に入れたこのアルバムが僕は大いに気に入って、当時編集していたファンジンでも強くプッシュした記憶がある。要するにポップで威勢のいい、正当派ロック・バンドの登場と少し持ち上げてみたわけだ。褒めすぎかもしれないが、僕の気持ちは今も変わっていない。

 その後ブラウンは自分たちのレーベルであるレコード・セラーからフロッグ・ホラー、ローリング・ヘイシーズなどのバンドをリリースし、地元インディー・シーンの発展に大きく寄与しながら、バズ・ジーマーとしても活動を続け、99年に二枚目を出した。一枚目ほどではないけれど、こちらもいいアルバムだ。しかし、それから六年がたち、ブラウンのソロがこうして出たということは、バンドは解散と解釈していいのかどうか。詳しいことはわからないが、ブラウンはまた新たなステージに進んだようだ。バズ・ジーマー時代の勢いそのままの一曲目からミディアム・テンポのバラードや後期ビートルズ風のナンバーまで、作風も多彩になり、幅広い才能を感じさせるアルバムに仕上がっている。チャーリー・チェスターマンが50年代をたぶん意識しているのに対して、こちらは70年代を意識しているような違いはあるにせよ、どちらもノスタルジックな味わいを基調にしたサウンド作りという点では共通したところがあるように思う。

 さて、この春はひいきにしているミュージシャンのアルバムが次々に出て、うれしい悲鳴を上げているところだが、最後にテキサスのSSWを二名紹介して終わりにしよう。一人はトリシュ・マーフィー。デビューしてもう八年という中堅どころで、今回のアルバムが四枚目になる。ファーストを聞いてファンになったのだが、正直ちょっと実験的な方向に進んだセカンドはそれほどいいとは思わず、しばらく追いかけていなかったので、ライブ作や本作をリリースしていたのは不覚にも知らなかった。本作は二年前に自主制作で発売されたアルバムの新装流通版。ジャケットが一部違っているだけで、内容は同じようだ。熱心なファンは何を今頃と思っているだろうが、広く流通するようになったことをまずは喜びたい。で、聴いてみるとこれがファーストの路線を更に押し進めた傑作なのだった。ナチュラルでルーツ・テイストたっぷりの女性ヴォーカルものが好きな人−−たとえばルシンダ・ウィリアムス、最近ではキャスリーン・エドワーズやケイシー・チェンバーズあたりのファンに強く推薦しておきたい。

 もう一人はこれが二枚目になるヘイズ・カール。この人はもっと話題になっていい存在だろう。ガイ・クラークやレイ・ウィリー・ハバードとの共作を含むというだけでも、古いSSWファンの興味をひくことは間違いないが、このアルバムはもっと幅広い層にアピールするはずだ。粘り気のある音楽性の中に瑞々しさと力強さがあり、チャック・プロフィットやスティーヴ・アールあたりのファンなら文句なく楽しめる内容だと思う。

CHAZ & THE MOTORBIKES/Skunk on the Loose (Tin Whistle/TW-001)2005

FRANK BROWN/Out of the Blue (Record Cellar/RCP075)2005

TRISH MURPHY/Girls Get In Free (Valley Entertainment/VLT-15197)2005(2003)

HAYES CARLL/Little Rock (Highway 87 Music/HWY8701)2005