昨年はアンディ・ヴァン・ダイク(レインレイヴンズ)、ビーヴァー・ネルソンといった優良SSWを日本に呼ぶという快挙を成し遂げ、心ある音楽ファンから大きな支持を得ているDove World Headquarters主宰の岩見さんがまたもやってくれた。続いて登場するのはオースティンのベテランSSW、マイケル・フラカッソ(!)。四月九日から十六日まで、東京、鎌倉、広島その他で六公演が予定されている。CDからもその魅力は十分伝わってくるが、この人の場合はヴォーカルそのものに大きな包容力というか温かみがあるので、是非生で聴いてみてほしい。僕自身六年ほど前に彼のライブをオースティンで見て感動した記憶がある。郷愁を誘う曲のよさもさることながら、深みを湛えたその声の素晴らしさは今も忘れられない。弾き語りはちょっと物足りないなどと言ってスルーしてしまうと、後悔することになるかも。詳細はwww.geocities.jp/twangup/dwhq.htmlまで。

 さて、フラカッソにちなんで最近のSSW事情……を期待した人には申し訳ないが、今回は現時点での注目ポップ・アルバムをまとめて紹介することにしよう。まずはヴィニール・キングズのセカンドから。『ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』を模したジャケットからもわかるように、前作同様ビートルズ・テイスト満載の楽しい一枚だ。前号のデヴィッド・グレアムと並べて、以前このコラムで取り上げたことがあるので覚えている人がいるかもしれない(45号参照)。中心となるジョッシュ・レオ、ラリー・リーはサザン・ロック/カントリー・ロック界で活躍してきた大ベテランだが、小さい頃衝撃を受けたビートルズへのオマージュとして、このバンドを始めたという。年季の入ったファンが愛情をたっぷり注いだ前作の仕上がりは申し分なく、しばらく愛聴したものだが、二枚目が出るとは正直思っていなかっただけに、このリリースは嬉しかった。気になる内容はといえば、60年代風のナンバーが矢継ぎ早に繰り出され、まさしくタイトル通り「タイム・マシン」に乗って過去に旅したかのような酩酊感がたっぷりと味わえるのは前作と変わらず。中でもビートルズ風味の強い前半のハイライトは“サマー・オブ・ラブ”をテーマにして、当時の曲名をずらりと並べた「67(Home)」だろうか。日本でも少し前にホット・クマが「七つの夏」という曲で似たような試みをしていたのを思い出してしまった(森下さん、お元気ですか?)。また、今回はオマージュの対象をビートルズ以外のバンドへと広げているのも大きな特徴である。「Sicamore Bay」以下の後半ではビーチ・ボーイズ/ブライアン・ウィルスン風のコーラス・ワークに挑戦して見事に成功しており、最後の三曲ではさらに趣きを変えた曲にも挑戦している。アルバム一枚だけの企画バンドではなく、コンスタントな活動を目指すなら、こうした試みはこれからも当然出てくるだろうし、狙いは悪くないと思う。ただ、ノスタルジーをくすぐるコンセプトはこのまま変えないでほしいものだが、次がもしあるのならどういう方向性を打ち出してくるのか、楽しみになってきた。−−ビートルズと60年代を懐かしむ人にお薦め。

 続いてはおそらく本誌周辺でもとっくに話題になっているだろうカイル・ヴィンセントの新作を。もともとは80年代にキャンディというポップ・バンドで活躍したが、97年に発表した初ソロにより一気に注目を集め、その後も順調にアルバムを発表し続けている。今度のアルバムは03年の『Solitary Road』に続く四枚目のソロ。70年代のエリック・カルメンにも通じるクラシカルでロマンティックな作風に変わりはないし、どちらかといえば地味な印象のあった前作に比べて、ポップ風味が強まっているのも嬉しい。たとえばタイトル曲や「Soul」を聴けばその流麗なメロディーにうっとりとさせられ、切ない歌声に思わず胸が締めつけられるし、「Tomorrow We'll Try Again」や「The Ghost of Rock n' Roll」では改めて彼がビートルズやラズベリーズの正当な後継者だと実感することができる。ポップで泣かせる曲を書かせたら当代随一と思えるソングライティングの冴えと情感たっぷりのヴォーカルとをじっくり楽しむことのできる秀作といっていいだろう。−−70年代を懐かしむ人にお薦め。

 80年代に青春を過ごした僕のような人間にとって、カーズというのはコマーシャルな要素とアート性が入り混じったちょっと不思議な存在だった。MTVの印象から商業主義的な軟弱ポップ・バンドと思われがちだが、実際には硬派な側面もあり、知性派にも肉体派にも支持されていた。音の上では流行の一歩先をいくような先進性を持ち、かといってテクノに走るわけでもなく、ギター・バンドっぽい部分もある。とにかく当時のニュー・ウェイヴ・シーンでは最も気になる存在であり、僕の中ではプリテンダーズと並ぶ重要バンドだったのだ。以前からノット・レイムが予告していた、そんなカーズへのトリビュート盤がようやく出た。レーベルの意図は違うかもしれないけれど、60年代のバーズや70年代のジェフ・リンに続く三部作として80年代のカーズをセレクトしたのだとしたら、なるほど面白い着眼点だといえはしまいか。ポップ・ロックの歴史をたどる壮大な試み(?)が成功したかどうか、ジェイソン・フォークナーやオウズリー等、注目のポップ・アーティストたちが古典をどう料理したかは皆さんで判断してみてほしい。個人的にはクリス・ヴォン・スナイダーンの「Drive」、ジョン・オウアの「Misfit Kid」等、バラード系に収穫が多かったような気がしている。−−これはもちろん80年代を懐かしむ人に。

 最後にこのところ一番の愛聴盤を。ネヴァダ州ラス・ヴェガスのポップSSW、ブライアン・ジェイ・クラインが早くも六枚目となるソロを届けてくれた。クラインは僕も大好きな同郷のロックンローラー、マーク・ハフのバック・バンドを経て01年にソロ・デビュー。実は最初の二枚を聴いて、悪くはないけど少し小粒だなあと思っていたため、近作を買い逃していたのだが、新作を聴いてすっかり見直した。あわてて持っていなかった前作を注文しましたよ。いや、以前に比べて曲も演奏も二回りくらい大きくなった感じで、これはストライク・ゾーンど真ん中ではないか。ホームページではリプレイスメンツからウィルコ、スクィーズあたりを引き合いに出されているが、むしろ初期マーシャル・クレンショウやニック・ロウ、最近ではウォルター・クレヴェンジャーとも共通する、オールディーズ風味を効かせたポップ・ロッカーといった方が近い感じがする。今度のアルバムではそこに骨太のルーツ・ロック風味が強まり、アメリカーナとパワー・ポップ、双方のファンに楽しめる痛快なナンバーがそろっているのだから文句なし。こいつは最高だ。−−ポップなロックンロールを愛するすべての人にお薦めしたい。

VINYL KINGS/Time Machine (Vinyl Kings/VK6402-2)2005

KYLE VINCENT/Don't You Know (Song Tree/STR-7337925504-2)2005

V.A./Substitution Mass Confusion: A Tribute to The Cars (Not Lame/NL-102)2005

BRIAN JAY CLINE/One For The Road (self-release/no number)2005