『1』や『レット・イット・ビー…ネイキッド』の次は米版再発ですか。ううむ。ビートルズが偉大なバンドであることは否定しないし、今回の再発に意義がないとは思わないけれど、これに結構な宣伝費をかけるくらいなら、他にお金をかけるところはいくらでもあるような気がする。たとえば、このコラムでも紹介済みのデヴィッド・グレアム(45号)やリチャード・オレンジ(54号)など、ビートルズ・ファンに強くアピールしそうなポップ・アーティストのアルバムを日本で正式にリリースするとか、63号で紹介したビートルズへのトリビュート盤を詳しい解説付きで出すとか、あるいは本誌の<ビートルズの遺伝子>特集をもとにして年代別の再発シリーズを企画するとか、ネット通販で有名なCDベイビィのビートルズ・ポップ・コーナーをもとに新作中心のシリーズを販売するとか、展開はいくらでも考えられそうだ。

 ビートルズに始まりビートルズに終わる−−それも音楽に対する一つの接し方、聴き方ではあるけれど、彼らを出発点に置いて新しいポップの大海に乗り出していく−−こちらの方が僕にはずっと面白く感じられるし、そのための紹介を続けてきたので、つい発想が後者にいってしまうのはお許しを。もう一つ、結果として洋楽の活性化に役立てばという思惑もあるしね。また、英国ポップ・ファンの嗜好に合ったバンドがアメリカにそんなにあるのかという問いに対しては、コットン・メイザーやミラクル・ブラー等の例を挙げるまでもなく今のアメリカこそ、その宝庫であると答えておきたい。

 そんなわけで、今回はここ一、二年の間に僕が聞いた米国ポップ・アルバムから特にビートルズ風味の強いものを集めてみた。ただし、ジョン・ホスキンスンのように以前紹介したアルバムは省いていることをお断りしておく。

 まずは東海岸のポップ・シーンではすっかりベテランといっていいマイケル・マザレラ。彼が率いる60年代風ポップ・バンド、ルークスはコットン・メイザーと並んで、ビートルズ・ファンに大推薦のバンドの一つ。アルバムとしては今のところ『THE ROOKS』(93年)『A WISHING WELL』(99年)の二枚しかないけれど、いずれも60年代へのこだわりを感じさせる佳作だった。04年末にソロ名義のDVDがリリースされ(未入手)、そこにはルークスの新曲も含まれているというから、近く(?)出るはずの新作も楽しみに待ちたい。それまでは03年に再発されたブロークン・ハーツを聴きながら渇を癒すことにしようか。

 ブロークン・ハーツはマザレラが80年代に組んでいた四人組ポップ・バンド。この再発は入手困難だった85年のアルバムに未発表音源11曲を加えたもの。初期ビートルズにも通じるメロディは心地よく耳に残るし、はずむビートが心を浮き立たせてくれる。少し軽めだが、全体に漂うノスタルジックなムードがたまらない。南部のスポンジトーンズ、中西部のエルヴィス・ブラザーズらと並び、80年代のポップ・シーンを彩ったバンドの一つとして、語り継いでいかなくてはならないだろう。

 続いては63号で名前だけ挙げたスティーヴ・バートンのセカンド・ソロ。以前書いたようにバートンは、80年代に活躍したシスコのポップ・バンド、トランスレイターの中心人物として知られている。ソロ・デビューは不思議と遅く、00年の『THE BOY WHO RODE HIS BIKE AROUND THE WORLD』が最初のアルバムということになる。かつての名曲「Come With Me」に代表されるようにトランスレイター自体がポップな側面を持っていたことは確かだし、ビートルズの「Cry For A Shadow」をレパートリーに加えていたほどだから、もともとバートンとビートルズの結びつきが浅かったわけではない。ただ原因は不明だが、トランスレイターやファースト・ソロでは、ビートルズの影響をそれほど表に出していなかったように思う。

 それがセカンドでは一転して、いつになくビートルズ風味の強い自作曲が増え(中でも「Hold A Shadow Down」は最高)、「シーズ・リーヴィング・ホーム」の異色カヴァーまで収録。バンド時代も含めて一番ポップ度の高い仕上がりを見せているのだから驚いた。何か心境の変化でもあったのか、今回バックを務めたロビー・リストやデリック・アンダースンといったLAパワー・ポップ・シーンの核となるメンバーに影響を受けたのか、いずれにしても若々しく、躍動感たっぷりのナンバーを楽しまない手はない。これまた初期ビートルズのファンには強く一聴をおすすめしておく。

 次に紹介するのはお馴染みラックラブス。元ブロウ・ポップスのメンバーが組んだ新バンドで、00年のデビュー作、02年の編集盤に続く三枚目だが、期待を裏切らない水準とビートルズ濃度の高さには頭が下がる。中でも哀愁味たっぷりの「Never Gonna Fall」には泣かされた。今後にも期待していきたい。

 さて、ここまではどちらかといえば60年代のムードをうまく取り入れた、いってみれば<再現派>のアルバムを取り上げてきたが、最後に<仮定派>とでもいうべき、もしビートルズが現代のテクノロジーを使ってアルバムを作ったなら、こんな感じになるのではないかという感じの作品を紹介しておこう。アンディ・スターマー(ジェリーフィッシュ)やダニー・ワイルド(レンブランツ)らがゲスト参加もしているといえば、気になる人も多いのではないだろうか。セス・スウォースキイの『INSTANT PLEASURE』はユージン・エドワーズやジョン・ホスキンスンらの作品と並んで、疑いなく04年を代表するポップ・アルバムの一つといえるだろう。

 スウォースキィは60年生まれで、主にソングライター、スポーツ・ライターとして活動してきた過去がある。今までに彼の曲を取り上げてきたアーティストにはエアー・サプライ、セりーヌ・ディオン、アル・グリーン等の大物からルーファス・ウェインライトまで錚々たる面子が並び、エリック・カルメンやマーシャル・クレンショウとも共作経験があるとか。そんな才能を持ちながらなぜ今まで自分のアルバムを作らなかったのかは大きな謎だが、遅すぎたとはいえ、ここに素晴らしいデビュー作を完成させてくれたことを素直に喜びたい。大きな特徴はまるでジョン・ブライオンかジョン・ストロベリー・フィールズ(本人もゲスト参加)がプロデュースを手がけたような、細部に凝りまくったサウンド作り。といっても曲の骨格がしっかりしているから音だけ浮き上がることがない。最終的には滑らかな感触に仕上げていく見事なバランス感覚に注目だ。メロディー・メイカーとしての才能もかなりのもので、マッカートニーの小品を思わせる「Bike Trip」からレノンの未発表曲と言っても通用しそうな「It's Always The Same」に至る流れが個人的なツボにどんぴしゃりとはまってしまった。後期ビートルズの実験精神とポップ性の微妙な混ざり具合が好きな人に是非聴いてみてほしい。

1)THE BROKEN HEARTS/Want One? (Paisley Pop Label/no number)1985/2003

2)STEVE BARTON/Charm Offensive (Sleepless Records/SR002)2004

3)THE LACKLOVES/The Beat and The Time (Rainbow Quartz/RQTZ106)2004

4)SETH SWIRSKY/Instant Pleasure (self release/no number)2004