最近気に入っているアルバムの一つに、サイロズの新作がある。ご存知ない方に説明しておくと、サイロズとは80年代から活躍するアメリカのルーツ・ロック・バンドだ。かつてはメジャーからアルバムを出したこともあったが、その後はインディー・レーベルを渡り歩きながら地道にアルバムを出し続けている。

 先ほど<ルーツ・ロック>という言葉を使ったばかりでこんなことを言うのも何だが、実は彼らの場合、いわゆるルーツ風味はそれほど濃くない。確かにニール・ヤングのようなカントリー・ロックっぽい部分が中心にあるけれど、同時にヴェルヴェット・アンダーグラウンドの影響も強く、そのあたりはフィーリーズにも通じる軽みがあり、いかにも80年代デビュー組らしいというか何というか。まあ、ある意味では、カントリー・ロックとカレッジ・ロックを融合したところに彼らの個性があるといってもいいだろう。途中に少し寄り道(?)があったとはいえ、そのユニークな特徴は85年のデビューから現在まで一貫しており、これは僕が彼らに惹かれ続けている理由の一つともいえる。

 バンドの歩みをもう少し振り返っておくと、フロリダのインディー・シーンで活躍していたウォルター・サラス・ヒューマラ(元ヴァルガー・ボートメン)とボブ・ルーペ(元ボブズ)の二人がNYに移ってサイロズを結成したのは80年代半ばのこと。自分たちのインディーからリリースした二作、『ABOUT HER STEPS』(85年/サラス・ヒューマラのソロと併せて後に『ASK THE DUST』として再発)と『CUBA』(87年)は各所で好評を博し、バンドはRCAと契約を結ぶことに。メジャー・デビュー作『THE SILOS』は決して悪いアルバムではなかったが、残念ながら大きな話題とはならず、契約は一作のみで終わり、ルーペはバンドを離れていく(この後、ガーターボールを経てクラッカーに参加)。サラス・ヒューマラはLAへと拠点を移し、彼のソロ・プロジェクトとしてサイロズは続けられることになった。また、この時期オースティンのミュージシャンとも交流が深まり、アレハンドロ・エスコヴェド、マイクル・ホールの二人とセッターズを組んでアルバムを制作するほか、サイロズとしてもキャリアを代表する力作二枚−−『HASTA LA VICTORIA!』(93年)、『SUSAN ACROSS WATER』(94年)を発表して、新たなファンを獲得していく。だが、サラス・ヒューマラはここで満足せずに次のステージへと向かう。90年代後半にはフィオナ・アップルらの影響を受け、エレクトロニクスを大胆に導入したのだ。成功したかどうかはともかく、その成果は『HEATER』(98年)、そのリミックス版EP『COOLER』(同)で聴くことができる。当時のインタビューでは「次のアルバムはテクノ」という発言もあり、どこまでいくのか心配していたのは僕だけではないはずだ。しかし、この後NYに戻って、信頼できるバンド・メンバーと知り合ったことが大きかったのか、次の『LASER BEAM NEXT DOOR』(01年)は一転して、生音重視のストレートなバンド・サウンドに立ち戻り、昔からのファンをひと安心させてくれた。

 今回の新作をこうした流れの中に位置づけてみると、まず原点回帰という言葉が思い浮かぶ。シンプルすぎた前作の反省からか、一時期サウンドの要だったメアリー・ロウエルのヴァイオリンを久しぶりにたっぷりとフィーチャーしていることもあって、初期の二枚、あるいは90年代前半の快進撃につながるサウンドを聞かせてくれるのだ。さらに、リチャード・ロイド(テレヴィジョン)をゲストに迎え、今までになくエッジのきいたギターが楽しめる点は新しい試みとして大いに評価したいし、お馴染みのエイミー・アリスンにメアリー・リー・コルテスを加えた、強力女性サポート・ヴォーカル陣の活躍も見逃せない。しかし、何と言っても驚かされたのは曲自体の魅力というか、躍動感と落ち着きの両方を強く感じさせるサラス・ヒューマラのソングライティングの妙である。たとえば「愛だけが唯一の愛を生み出す」と歌われる「Only Love」の力強さはどうだろう。このうえなくシンプルなテーマをこれだけの説得力を持って歌いきることができるというのは、さすが20年近いキャリアを持つベテランというしかない。ほかにもNYへの思いがしみじみと伝わってくるタイトル曲など、印象的な曲の数々に、改めて彼の底力を見た思いがした。

 80年代デビュー組によるカントリー・ロックの今日的展開といえば、もう一人忘れてはいけない重要人物がいる。ちょうどサイロズと同じ頃に新作をリリースしてくれたのは、そう、チャック・プロフィットである。サラス・ヒューマラが試行錯誤を経て出発点に戻った感があるのに対して、プロフィットは着実に前進を続けており、持ち前のゆったりとしたR&B感覚とプログレッシヴな音作りが有機的に結合し、独自のスワンプ・ムードを生み出すことに成功している。成功の秘訣は音だけが突出せずに、楽曲の主張を大切にしているところにあるのでは。コクのあるまろみと深い奥行きを伴ったサウンドはまさに円熟の境地。2000年代の最新型ルーツ・ロックを聴きたいという人には文句なくお薦めしておきたい。

 それにしても、サイロズやプロフィットはまだアメリカ盤が出ているだけいいのかもしれない。かつてはプロフィットと共にグリーン・オン・レッドの一員として活躍し、最近はスティーヴ・ウィン&ミラクル3の重要メンバーでもあるクリス・カカヴァスも、春にニュー・アルバムを出している。ただしこちらはドイツのブルー・ローズからなので、本国でもあまり話題になっていないのが残念。落ち着いた曲調のナンバーをシンプルなバンド編成で聴かせるという内容も以前と変わっていないし、地味ではあるけれど、個人的には気に入っている一枚だ。

 さて、ブルー・ローズといえば、本国で冷遇されている優良SSW/アメリカン・ロッカーの宝庫としてつとに知られており、カカヴァス以外にもゴーストハウス、マーカス・リル、レセントメンツのライブなど、相変わらず充実したリリースが続いている。この秋一番の話題といえば、スーザン・カウシルのソロ・アルバムだろうか。実は今回紹介する中で一番のベテランは彼女なのである。何と言っても60年代にカウシルズの末っ子として芸能活動を始めてから30年以上のキャリアを持つのだ。近年はサイコ・シスターズやコンチネンタル・ドリフターズの主要メンバーとして知られていたが、いつの間にか夫のピーター・ホルサップルと別れて、バンドのドラマーと再婚。ドリフターズを脱退して作り上げたのが今回のソロということらしい。バンドの女性ツイン・ヴォーカルが結構気に入っていたこちらとしては脱退とドリフターズの活動休止はものすごく残念だけれど、ノスタルジックでメランコリック、ときに軽快なポップ・ソングの数々を聴く限りでは、ソロ活動もありかなと取りあえず満足しています。

1)THE SILOS『When The Telephone Rings』 (Dualtone/80302-01161-2)2004

2)CHUCK PROPHET『Age of Miracles』 (New West/NW6062)2004

3)CHRIS CACAVAS『Self Taut』 (Blue Rose/BLUCD0324)2004

4)SUSAN COWSILL『Just Believe It』 (Blue Rose/BLUCD0338)2004