ノット・レイムに頼んだものがやっと届いたので、今回はここ数ヶ月のポップ・アルバムを中心に。

1)EUGENE EDWARDS『My Favorite Revolution』

 今年耳にしたインディー・ポップ勢の中でも小気味よさでは群を抜いており、個人的にかなり気に入っているのが本作−−ユージン・エドワーズのデビュー・アルバムである。アリゾナ州ユマで育ち、大学時代をボストンで過ごした後、96年にLAへと移る。現在は西海岸を中心にして精力的にライブを行なっているようだ。ざらりとしたロックンロール・テイストを漂わせながら、人なつっこいメロディーをのせていく、オーソドックスな姿勢にまず好感が持てる。クリス・ヴォン・スナイダーンにエルヴィス・コステロをかけあわせたような作風もいいし、歌も演奏もはじけていて、音楽を演奏する喜びに満ち溢れているところも気に入った。ホームページ(*)を見ると、好きなアルバムを紹介しているコーナーがあり、そこにはオールマン・ブラザーズ・バンドやフェイセズに混じって、オールド97ズのアルバムも掲載されている。基本はあくまでポップだが、大らかなロックンロール風味もありというのは、そういう背景があったのかと思わず納得。いずれにしても、注目アーティストの登場であることは間違いない。

2)JOHN HOSKINSON『Miscellaneous Heathen』

 そのユージン・エドワーズが兄弟のように思っているという仲間がジョン・ホスキンスン。それぞれがお互いのアルバムに参加しているうえ、前述のホームページでは本作−−ホスキンスンのデビュー作も取り上げられており、敬愛の気持ちがよく伝わってくる。ただ作風には少し違いがあり、はじけたナンバーもある一方で、ホスキンスンの方は全体的にマイルドな味わいが強い。エドワーズが初期コステロだとしたら、ホスキンスンはクラウデッド・ハウスやジェリーフィッシュを思わせるとでも言っておこうか。声量が豊かでよく伸びるヴォーカルは魅力的だし、ピアノやトランペット、あるいはチェロを効果的に配したシンプルなアレンジもうまくまとまっている。まるでビートルズが現代に甦ったかのような曲もあり、英国ポップ・ファンにはエドワーズよりもこちらがお薦めかもしれない。

 一言でまとめてしまうと、勢いではエドワーズ、完成度の高さではホスキンスンといったところ。ただし、どちらもデビュー作としては水準以上であり、西海岸ポップ・シーンの新たな牽引役として、今後の活躍にも大いに期待する次第だ。

3)JAMIE HOOVER『Jamie Hoo-Ever』

 続いてはスポンジトーンズの中心人物にして、今年初めのビル・ロイドとの共作が話題を呼んだ大ベテラン待望の新作ソロ……と思ったら、これは今までさまざまなコンピレーションに提供してきたカヴァー曲を集めた編集盤だった。もっとも、過去の集大成というだけでなく未発表ナンバーも多数含まれているから、手に入れる価値は大いにあり。トラヴェリング・ウィルベリーズ、クラトゥ、坂本九(「上を向いて歩こう」=「スキヤキ」をカヴァー。ただしヴォーカルは日本人女性が担当)からビートルズ(「グッドナイト」)まで、選曲と切り口の面白さは十分楽しめるし、録音の経緯を本人が詳しく解説しているライナーもファンなら必読だろう。

SHALINI『Metal Corner』(Dalloway)

 ジェイミー・フーヴァー、ドン・ディクソンに続くノース・キャロライナの顔といえばミッチ・イースター。49号でお伝えしたフィーンディッシュ・ミンストレルズのアルバムよりも先に届いたのは、イースター夫人でもあるシャリーニ(元ヴィニール・デヴォーション)の二枚目だった。ギターにプロデュースにイースターが大活躍しているのは言うまでもない。タイトル通りハード・エッジなギターを前面に押し出してはいるものの、特にメタルというわけではなく、ポップ・アルバムとして楽しめる範囲に仕上げられているのでご安心を。チープ・トリック「ダウンド」のカヴァーもそうした方向性をうまく後押ししている。

THE SAVING GRACES『Outisde Guiding Lights』(Paisley Pop)

 ノース・キャロライナ・ポップ・シリーズ第三弾は、ジェイミー・フーヴァーがプロデュースを担当したセイヴィング・グレイシズの新作を。リーダーのマイクル・スロウターは以前ここでも紹介したレッツ・アクティヴへのトリビュート盤(49号参照)を企画した人物である。これだけでも当然買いのところへ、エド・ジェイムズがゲスト参加。地元のポップ・シーンを代表する新旧のミュージシャン二人が絡んでいるのだから期待も高まる。実際に聴いてみてもその期待は裏切られなかった。昨年のEPに続く初のフル・アルバムは80年代のジャングル・ポップと90年代のパワー・ポップ、両方の長所を併せ持つ力作といっていい。

4)CHRIS RICHARDS『Mystery Spot』

 層の厚さを感じさせるノース・キャロライナだが、アメリカは広い。それ以外の場所でも80年代からこつこつとポップ・ミュージックを作り続けているミュージシャンがいることはこのコラムでも再三に渡ってコメントしている通り。以前28号で取り上げたミシガン州のポップSSW、クリス・リチャーズもその一人だ。2000年の編集盤に続く今回のソロはキャッチーなメロディにパワフルな演奏、甘い歌声という彼の魅力が思う存分発揮されている。キャリアからいっても既にかなりの年のはずだが、この瑞々しさとエネルギーはどこから来るのだろう。前作で一度過去にけりをつけ、気分一新の再スタートという意味合いもあるのか、今までの作品と比べても気合の入り方が違う感じがする。リチャーズの名前を初めて聞いた人にも自信を持ってお薦めしたい充実の一枚。

CLIFF HILLIS『Better Living Through Compression』(Tall Boy)

 元スターベリー。今はアイクというバンドのメンバーとしてジョン・フェイ(元コールフィールズ)と活動を共にしているクリフ・ヒリスによるセカンド・ソロ。やや小ぶりではあるけれど、マシュー・スウィートにも通じるポップなメロディ・センスが大きな特徴だ。昨年のアイクのデビュー作がフェイの成長を見せつけるような力強さに満ち溢れていたのに対して、ヒリスの方はよくも悪くもマイ・ペースといった感じで、気負いのなさがさりげない魅力を生み出している。ちなみに本作はユージン・エドワーズと同じくトール・ボーイからのリリース。数は少ないながらも良質のアルバムが揃っており、ポップ・ファンなら見逃せないレーベルの一つだ。

 他にもヒース・ヘイネスやスティーヴン・ローレンスンなど、紹介しきれなかった秀作は数多く、アメリカのポップ・シーンが相変わらず充実しているのみならず、新しい世代がどんどん育っていることを改めて実感した。もっと日本でも話題にしなくてはと思いつつ、以下次号。

1)EUGENE EDWARDS『My Favorite Revolution』 (Tall Boy/TBO104)2004 (*)www.eugeneedwards.com

2)JOHN HOSKINSON『Miscellaneous Heathen』 (Kaopeoths/JFH2004)2004

3)JAMIE HOOVER『Jamie Hoo-Ever』 (Loaded Goat/LG2004)2004

4)CHRIS RICHARDS『Mystery Spot』 (Dogbunny/Jam/DB94)2004