春先から何ともいやなニュースが聞こえてきた。例の「著作権法の一部を改正する法律案」のことだ。これを書いている四月中旬現在、法案は国会を正式に通過していないが、もしこの案が通った場合、日本盤の出ている洋楽CDの輸入盤が販売規制される可能性があるというから穏やかではない。

 もともとは邦楽CDの逆輸入品を規制する目的の改正だったのが、三月末に洋楽の輸入盤にも規制が適用できるとわかってきて、遅まきながら洋楽ファンの間で不満の声があがり始めた−−大体の流れはこんなところだろうか。詳しくはこの問題を要領よくまとめたサイト「海外盤CD輸入禁止に反対する」(sound.jp/stop-rev-crlaw/index.html)等をご覧いただくとよいだろう。

 消費者の一人として率直な感想を言わせてもらえば、またかという気がする。10年以上前の洋楽レンタル一年間禁止のときも結局CDの売り上げは伸びず、若者の洋楽離れを助長しただけだったように思う。規制したところで状況がよくなるわけではないのだ。この法案を推進している人たちはどこか根本的なところで勘違いしているとしか思えない。

 ずっと昔から洋楽の世界では日本盤と輸入盤とが共存してきた。個人的には解説や歌詞がついている日本盤が好きだから、お金に余裕がある限りそちらを購入してきたし、輸入盤で持っているものでも後から日本盤が出れば買い直してきた。まあ僕の場合、毎月購入する20枚ほどの新譜のうち日本盤の比率はせいぜい一、二枚あればいい方だから、こういう買い方ができるんだろうけれど、だからといって全ての人が日本盤を買うべきだとは思わないし、それを強制するようなことがあってはならないと思う。付加価値をつけた高い日本盤と安い輸入盤、同じ内容の商品があるとして、どちらを選ぶかは個人の問題である。一方を排斥するような動きは明らかにおかしいのではないか?

 そもそも、洋楽の輸入盤はアーティストが本国において認めている合法的な商品であり、違法な海賊盤とはわけが違う。いくらかは知らないが、日本で購入してもちゃんと海外のアーティストへお金が渡る仕組みになっているはず。つまり、輸入盤を購入する行為は著作権の侵害でも何でもないってことだ。だとすれば、日本のレコード会社がオリジナルの正規盤を買っている人に待ったをかける筋合いは全くないと思う。一体何の権利があって輸入盤を規制できるというのだろう? 邦楽CDに関して日本のレコード会社がアーティストの権利を言いたくなる気持ちはわかるが、こと洋楽に関しては、操作しようという方向性自体が間違っていると思うのだが……。

 音楽の魅力は、聴いてみないとわからないものだ。選択肢を自ら狭め、触れる機会を消費者から奪い、ハードルを高くしていけば、ファンはどんどん減り、極端な話、洋楽のマーケットはいつか日本から消えてしまう可能性だってある。そんな自分で自分の首を絞めるような馬鹿なことはしないだろうという意見もあるが、10年前の愚行を考えると、不安は拭えない。

 一番心配なのは、このまま法案が通過した場合、いつの間にかあれも駄目、これも駄目ということになりはしないかという点である。また、駄目といわれなくても、メジャーな盤が規制を受ければ、ただでさえ日本に入ってこないマイナーな盤はますます入りにくくなるだろう。今は大丈夫と言われている個人輸入にしても、この先どうなることやら。

 自分の好きな音楽を少しでも多くの人に知ってほしいと思ってこの連載を続けている。ここで紹介しているような盤がもっとお店で簡単に変えるようになればいいし、入手しやすくなるのなら日本盤も出てほしい。ずっとそう思ってきたが、輸入盤規制をするような日本盤なら、いっそ出ない方がいい。前述のように僕は今まで日本盤びいきだったが、CCCDという個人的に理解不能な規格も出てきたし、このうえレコード会社が輸入盤規制という偏狭な姿勢を取るようなら、日本盤を買うこと自体をもうやめようかと思っている。事態が悪い方に進めば、こうやって離れていく支持者は多いことだろう。蔓延した不信感と共倒れするか、踏みとどまってもう一度考え直すか−−レコード会社および関係者が長い目で洋楽の将来を考慮してくれることを強く願いたい。

 前置きのつもりが、輸入盤を扱うコラム担当として無関係とは思えず、つい長くなってしまった。今回紹介するCDは以下の四枚。こうしたマイナーな盤でも、普通に買える日がずっと続きますように。

1)Bigger Lovers

 フィラデルフィア期待のポップ・バンドによる3枚目。前の2枚も相当よかったけれど、今回も負けず劣らずの力作だ。奥行きのある夢幻性を保ちながら、初期ビッグ・スターに通じるきらびやかな躍動感には一層磨きがかかっている。僕が買ったのは三曲入りのおまけディスク付きの盤だが、未発表のオリジナルも入っているし「Whole Wide World」(レックレス・エリック)〜「Hey! Little Child」(アレックス・チルトン)という必殺メドレーが楽しめるので、これから買うならボーナスEP付きの方をお薦め。

2)Minus 5

 昨年はウィルコとの共演、前々作の未発表セッション集とアルバム二枚を発表して気を吐いたマイナス5から早くも新作が届いた……と思ったら、これは2000年に限定でリリースされていた作品の再発だった。タイトル通りシンプルなロックンロールが中心だが、60年代風のガレージ/サイケ・テイストもいい味を出している。スコット・マッコーイのエネルギッシュでワイルドな側面と、いい意味での音楽マニアぶりが伝わってくる、憎めないアルバムだ。

3)Bill Lloyd

 先日紹介したビル・ロイド、やっと届いた新作は期待通りの傑作だった。前作よりも勢いのあるナンバーが増え、曲は粒ぞろい。ポップ風味でまとめたアルバムとしては過去最高の出来ではないか。ベテランの底力を見せてもらったという感じ。共作者/ゲストにはスティーヴ・アレン(20/20)、ピーター・ケイス、クライブ・グレッグソン、ベス・ニールセン・チャップマン等、演奏だけの参加ではラスティ・ヤング(ポコ)、ドン・ディクスンなど豪華な面子を並べ、じっくり時間をかけただけのことはある。

4)Herb Eimerman

 10年前にセカンドを聴いたときの衝撃は今でも忘れられない。グランジ全盛の時代に人知れずこれほど完成度の高いポップ・ソングを作っているアーティストがいたとは。それ以来この人のことはずっと気にしていて新作が出れば聴いているが、ジェフ・マーフィーと組んだナーク・トゥインズ以降あまりぱっとせず、02年のソロは今ひとつだったし、ファンとして少しやきもきしていたのも確か。だが、この新作はひさびさの大ヒットだ。70年代風のマイルドなポップ・アルバムに目がないという人はお見逃しなく。

・BIGGER LOVERS /This Affair Never Happened... (Yep Roc/YEP2061)2004

・MINUS 5 /In Rock (Yep Roc/YEP2064)2004

・BILL LLOYD /Back To Even (New Boss Sounds/st2047)2004

・HERB EIMERMAN /& i you (Underthedome/UTD091903)2004