本誌でも特集を組んでいたけれど、このところニュー・ウェイヴがブームだとか。再発もまとめて出ている。日頃流行とはほとんど関係なく音楽を聴いているだけに、どうにもぴんとこない話だが、スウェル・マップスやカメレオンズのような、今まで日本では過小評価されていたバンドのCDが出るのはいいことかもしれないね。しかし、一つ不満があるのは、いつものことながらメインがUKだということ。また、一部を除いて再発されるバンドのラインナップにあまり工夫が感じられないのも残念。いろいろ事情があるのだろうから、そんなに強くは言わないが、あれやこれが出るんなら、アメリカ産ニュー・ウェイヴにだって、もう少しスポットが当たってもいいんじゃないのかなあ、と個人的に思う。

 たとえば、ジュールズ&ポーラー・ベアーズのセカンドのような未CD化アルバムをこの機会に出すとか、dB'sやボンゴス、チープスケイツといったNY周辺のポスト・パンク派をまとめて再発するとか、ニュー・ウェイヴの名前を使ってできることはたくさんあるというのに、アメリカ勢が軽視されているのはどうも納得がいかない。……まあ、出しても売れないのはわかってるんだけどさ。ライコのダンプトラック再発みたいに、採算を二の次にしてもこれをやるんだという強い決意を、日本のメジャー会社に期待しても無理ってことでしょうか。

 名前を出したついでに、今回は久しぶりの新譜を出したジュールズ・シアーの話題から始めよう。振り返ってみればこの人のキャリアも随分長い。70年代中期のファンキー・キングスから数えるともう30年近く、今年で52歳だからすっかりベテランといっていいはずだ。最初は正統的なウェスト・コースト派かと思わせておいて、途中から前述のポーラー・ベアーズをスタートさせ、シンセサイザーを多用したニュー・ウェイヴ派へと転身する。80年代にはトッド・ラングレンのプロデュースによりソロ・デビュー。アプローチは再度変化して、抑制をきかせながらはじけたところもある、通好みのポップSSWとしてその才能を開花させた。バングルスやシンディ・ローパーらがこぞって彼の曲を取り上げ、ヒットを記録したのはこの頃の出来事である。その後もマイ・ペースで活動を続けるうち、旧作がCD化されたり、95年には来日公演があったりして、一時は日本でも盛り上がったのだが、すべての曲を違う相手と共作し、その共作相手とデュエットするという企画も印象的な『BETWEEN US』(98年)、単独のオリジナル曲をメインにした『ALLOW ME』(00年)など、内容的には文句なしの佳作が続いているにも関わらず、近作はいずれも日本未発売。今年の三月にリリースされた『SAYIN' HELLO TO THE FOLKS』は実に四年ぶりの新作ということになる。だが、これも今のところ国内盤の発売予定はないようだ。

 四年ぶりだからさぞかし気合が入っているのでは……と期待した人は残念でした。このアルバム、お気に入りの曲を録音したカヴァー集なのである。しかし、オリジナルは一曲も入っていないからといって馬鹿にはできない。デイヴ・クラーク・ファイブに始まり、ボブ・ディランからロジャー・ミラー、ウディ・ガスリーまで、収録曲はジャンルを横断して幅広く、自らのルーツを物語るかのように雄弁だ。ブライアン・ウィルソンやトッド・ラングレンのカヴァーでポップな側面を強調したかと思えば、トリビュート盤で発表済みのジェイムズ・ブラウン、あるいはジョー・テックスのカヴァーでは血肉化したソウル/R&Bのエッセンスを伝えてくれる。また、ライナーで自ら種明かしをしているように、最後の「Breakfast in Bed」ではダスティ・スプリングフィールド版と、ローナ・ベネットのレゲエ版、両方の要素をミックスさせていて、こうした細かい遊び心も見落とせない。年代もジャンルもばらばらだし、幅の広さは一歩間違えば散漫な印象に結びつく危険性もあるのだが、ここでジュールズはさまざまな傾向の曲をうまくまとめあげ、マニアックなこだわりを持ちながら娯楽性の高いアルバムを作り上げてくれた。さすがというべきだろう。

 さて、カヴァーついでに、今回は他のアルバムもその絡みで紹介していくことにしたい(ん? コラムが違う?)。まずメアリー・ルー・ロードの新作『BABY BLUE』から。もともとこの人は自作にそれほどこだわりがないのか、今までの代表作ともいうべき『GOT NO SHADOW』(98年)では収録曲のほとんどがニック・サロモン(ベヴィス・フロンド)の作品だったし、ライブ盤『LIVE CITY SOUNDS』(01年)でもマグネティック・フィールズからダニエル・ジョンストンまで、興味深いカヴァーが多かった。今回の新作は前者と同じ路線で、やはりサロモンのナンバーが中心になっている。それを別にした、いわゆる有名曲のカヴァーは二曲だが、その選曲センスには思わずにやり。バッドフィンガーの名曲「Baby Blue」、ピンク・フロイドの「Fearless」‐‐中年ロック・ファンの心をがっしり捉えて離さないこの二曲をうまく消化して、前半、後半それぞれのアクセントとしており、その間をメロディアスで聴きやすいサロモンの曲で埋めていく。こうした構成の妙に加えてバスキングで鍛え上げたキュートな歌声も魅力的で、シンプルな演奏にも好感度大。あっさり風味のギター・ポップが好きな人には大推薦しておきたい好盤である。

 カヴァーといえば、トリビュート盤も相変わらず盛んだ。最近のリリースでは『THE Q PEOPLE』にご注目を。今年デビュー35周年を迎えたベテラン・ポップ・バンド、NRBQへのトリビュート・アルバムである。大物から中堅どころまで、本国アメリカのバンド/アーティスト12組が心温まるカヴァーを披露。ノイジー・ポップのヨ・ラ・テンゴ、元祖オルタナ・カントリーのスティーヴ・アール‐‐個人的にはこの二組だけでも買いだけれど、その他ロス・ロボス、ボニー・レイット、ソロ名義の録音は珍しいマイク・ミルズ(R.E.M.)、ロン・セクスミス、J・マスシス、TVで人気があるというアニメ『スポンジ・ボブ』のキャラクター(?)等、なかなか面白い面子が揃っている。

 最後に変り種を一つ。これは厳密にはカヴァーと言えないかもしれないが、ラジオのパーソナリティであるマイクル・フェルドマンの歌詞に、ジョン・シーガーが曲をつけ、スケルトンズをバックに歌ったアルバム『HER COUNTRY』を取り上げておこう。ミルウォーキー出身のシーガーは、かつてR&Bカデッツやセミ・トゥワングに在籍していたルーツ・ロッカー。93年にソロ・デビューし、ソングライターとしても活躍中。ミズーリ州のベテラン・ロックンロール・バンド、スケルトンズとの相性もばっちりで、渋い喉と腰の据わった演奏が楽しめる。いぶし銀のロックンロールを味わうには最適の一枚だ。

JULES SHEAR/ Sayin' Hello to the Folks (Valley/VLT-15182)2004

MARY LOU LORD/ Baby Blue (Rubric/rub56)2004

V.A./ The Q People: A Tribute to NRBQ (Spirit House/SHR07301)2004

JOHN SIEGER WITH THE SKELETONS/ Her Country: The Songs of Michael Feldman (Fishes Circle/FC0101)2004