前回のビル・ロイドについて補足を一つ。随分前からリリース予定と言われながら延期が続いていた新作ソロ『BACK TO EVEN』がとうとう三月に発売される模様。共作に続いていよいよソロが出るとは、今年はずばり当たり年? 編集盤を除くと五年ぶりとなるアルバムだけに、今から発売が楽しみです。

 さて、このニュースとはまったく関係なく、今回のテーマは「ロックンロール」。古くはレッド・ツェッペリンから最近ではライアン・アダムスやくるりまで、「ロックンロール」というタイトルを冠した曲やアルバムを挙げていけばかなりの数になるはずだ。そして、その概念や解釈もおそらくアーティストの数だけ存在する。まあ、言葉なんてもともとそういうものだけれど、考えてみれば不思議な話だ。ずれがあるのを承知で皆が同じ言葉を使う。誰一人としてその概念が同じではないのに、なぜかその言葉が意味する重要な部分はちゃんと通じていく。

「今度のアルバムはロックンロールだ」「次の曲はロックンロールでいこう」−−人によってはその「ロックンロール」はチャック・ベリーのようなスタイルかもしれない。また、ある人はザ・フーを、ある人はキッスを思い浮かべているかもしれない。あるときは微妙な違い、あるときは大きな違いがそこにある。それなのに、僕らはたいていその食い違いを修正し、歩み寄り、共通したイメージを作る。そうして「ロックンロール」は生き続けてきたし、これからも生き続けていくだろう。その形は変わっていくとしても。

 いきなりなんでこんな話をしているのかというと、ライアン・アダムスの『ロックンロール』を聴いて、僕の考える「ロックンロール」と一致する部分がほとんどなかったという、ちょっとショックな出来事に理由がある。もともと好きなアーティストだから余計にずれた部分が気になってしまったのだ。本人がどれくらい本気で「ロックンロール」と言っているかは正直わからないけれど、こういうタイトルだし、前評判からして少なくとも半分くらいは「ロックンロール」度が一致するだろうと思ったら、ほとんど合わない(例外は「シャロウ」くらい)。評価とは別のところで、なぜだ? というわけ。誤解のないように言っておくと、だから駄目だと言っているわけではないよ。僕はこのアルバム気に入っているし、03年を代表する一枚であることに間違いはないと思っている。ただ、それはやはり「ロックンロール」ではなく、よくできた「ロック」アルバムとしての評価になってしまうのだ。そこにどんな違いがあるのかというと、たぶんライアンのアルバムは僕にとって少しお行儀がよすぎたということだろう(やはり、彼の場合はライヴを体験してみないと駄目かな?)。あるいは、グランジやハードコアをロックンロールに含めて解釈するつもりが僕の側にないという幅の狭さに起因するのかもしれない。

 たとえば、僕が思う「ロックンロール」は以下のような人たちに関係がある。まずメジャーではローリング・ストーンズ、フェイセズ、スプリングスティーン等。ビッグ・マイナーでは当然NRBQ。ニック・ロウやデイヴ・エドマンズなど、パブ・ロックほとんど。ロカビリーの要素はさほど重視していない。80年代組ではチャーリー・チェスターマン(スクラフィ・ザ・キャット)とテリー・アンダースン(ウッズ)が双璧か。最近の一押し、アイタン・マースキー、あるいはフラッシュキューブス、ルビナーズ等パワー・ポップ(の一部)など……。ここら辺は割と軽いイメージだけれど、他には一時期のアレックス・チルトンのようなヨレヨレの味、それを受け継いだリプレイスメンツのようにラフな感覚も重要だし、スティーヴ・アールやジョン・ラングフォードのようなアウトロー感覚も僕にとってはある意味「ロックンロール」と言えなくもない。要するにパワー・ポップ、80年代米インディー、オルタナ・カントリー、それぞれに惹かれる共通項として「ロックンロール」が存在しているような気がする。

 そして、そんな僕が昨年一番「ロックンロール」してるなあと思ったのは、何を隠そうポール・ウェスターバーグの新作である。このところソロ名義ではメロウな感じのアルバムが続いていて、今後もそういう路線でいくのかと思っていたら、昨年はDVD一枚、CD三枚同時制作を発表し、それぞれ異なる趣向を打ち出してきた。そのうちの一枚『COME FEEL ME TREMBLE』(同題DVDのサントラ)がリプレイスメンツ時代を思わせるロックンロール・アルバムに仕上がっていたのだ。これはうれしかった。同時に発売された別プロジェクト、グランパボーイ『デッド・マン・シェイク』は今回ちょっとブルース色が強い。僕の好みは前者だが、こちらもいいアルバムだ。日本ではまずこのグランパボーイが三月に発売される。ただし現時点では未発売の残る一枚、フォーク・ナンバーを集めた『FOLKER』のリリースに併せて(六月頃?)『COME FEEL ME TREMBLE』(DVDとCDの両方)も発売予定ということだから、国内盤を待つもよし、今すぐ輸入盤を買うもよし。いずれにしてもファン必聴であることに違いはない。

 さらに最近マイルズで購入したアルバムの中から「ロックンロール」を感じたアルバムを挙げてみる。まずはダン・ベアード。そう、さっきは挙げ忘れていたが、彼を中心にしたジョージア・サテライツは80年代のメジャー・シーンでは最も「ロックンロール」していたバンドだった。昨年イギリスのインディーから発売された『OUT OF MOTHBALLS』は90年から93年に録音された未発表曲集だが、テリー・アンダースンとの共作をはじめ、佳作が揃っており結構まとまりがいいのだ。編集盤と侮らず、一聴をおすすめしたい。

 続いてはアリゾナの中堅ロックンローラー、ロジャー・クラインの三枚目『AMERICANO』。今回からスコット・ジョンスン(ジン・ブロッサムズ)は抜けてしまったが、内容は相変わらず。さりげなく国境の匂いを漂わせた、生きのいい「ロックンロール」が楽しめる。

 最後にカナダの正統派SSW、ジェイソン・コレットのセカンド『MOTOR MOTEL LOVE SONGS』。同郷のブルー・ロデオを思わせ、全体的にはのびやかなカントリー・ロックという趣だが、「Lucky Star」のような曲ではプロデュースを手がけたアンドリュー・キャッシュ(キャッシュ・ブラザーズ)とも共通する、ラフでゆったりとした「ロックンロール」感覚が顔をのぞかせている。

 こうして見てくると、ほとんどがメジャー落ちというかマイナーだねえ。あんまりメジャーものを聴いてないからしかたないけど、ここでいう「ロックンロール」にはどこか「主流からはずれた」という意味を付け足してもいいかもしれない。ところで、ライアン・アダムスのアルバムを「ロックンロール」と感じた人たちはこれらのアルバムをどう思うだろうか? 是非一度尋ねてみたいと思いつつ以下次号。

PAUL WESTERBERG/Come Feel Me Tremble (Vagrant/VR-0387)2003

DAN BAIRD/Out of Mothballs (Jerkin' Crocus/jerk2)2003

ROGER CLYNE & THE PEACEMAKERS/Americano (Emmajava/EJRD6007)2004

JASON COLLETT/Motor Motel Love Songs (Arts & Crafts/A&C002)2003