オウズリーの新作もよかったけれど、最近の一押しポップ・アルバムは、何といってもビル・ロイドとジェイミー・フーヴァー(スポンジトーンズ)の共作である。メロディアスで風通しのいい収録曲には、両者の個性がうまく溶け合い、ベテランならではのコクと旨みが凝縮されているうえ、ドラムで参加したデニス・ダィケン(スミザリーンズ)のサポートも申し分なし。何とも贅沢で充実感たっぷりのポップ・アルバムを届けてくれた。もともと大好きな二人の顔合わせだからこちらの評価が甘くなるのは勘弁してもらうとして、リリースしたのは44号の本欄でも紹介した注目レーベル、ペイズリー・ポップ。このレーベルとしてはいつになく一般向けの内容だと思う。別の言い方をすれば、それだけわかりやすく、ポップ度が高い。たとえばビートルズが好きで、マーシャル・クレンショウもいいよねなんていう人には間違いなくお薦めのアルバムに仕上がっているのだ。

 ただ残念なことに、この二人、日本でそれほど名前が知られているとは思えず、国内盤もたぶん出ないだろう。だが、せっかくの力作が話題にならないまま消えていくのは惜しいし、彼らの過去を振り返る絶好の機会なのに……というわけで、今回は新作を記念して、ベテラン・ポップ職人の過去に改めてスポットを当ててみたい。

 まずはビル・ロイドの経歴から(参考/www.billlloydmusic.com)。55年にテキサス州で生まれたロイドは、軍隊でクラブを経営する父の関係で、小さい頃から各地を転々とする生活を送り、8才の頃にはケンタッキー州に落ち着いたが、まだ赤ん坊の頃には東京で暮らしたこともあるという。ビートルズを含めたブリティッシュ・インヴェイジョンに影響を受け、15才の頃にはローカル・クラブで演奏を始めていた。ケンタッキーのカレッジに進学してからはデヴィッド・サーフェイスらとサザン・スターを結成し、カヴァーに交えてオリジナル・ソングも披露していたらしい(地元のバンドを集めた77年の編集盤に一曲収録されている)。当時のメンバーには今はソロで活躍するキム・リッチーもいた。

 カレッジをドロップ・アウトしてレコード屋で働きながらバンド活動をしていたロイドは、80年に一時的にNYへと移り住むが、これは実を結ばずにUターン。帰郷後サザン・スターはサージャント・アームズと名前を変えて、いくつか録音を残す(81年の編集盤に二曲収録のほか、当時シングルも発売されている)。しかし、ロイドがナッシュヴィルへと移住したためにバンドは82年に活動停止。移った理由の一つはエミルー・ハリスやロドニー・クロウェル、ロザンヌ・キャッシュなど、尊敬するアーティストが同地を拠点にしていることだったという。とはいっても、彼の頭の中にしっかりと焼き付けられたビートルズの刻印が消えるわけがなく、83年から86年にかけての活動は、どちらかといえばポップ色の濃いものだった。

 たとえば当時ナッシュヴィルのクラブ・シーンで注目を集めていたポスト・パンク/パワー・ポップ・バンド、プラクティカル・スタイリスツに参加したり、逆にそのメンバーが名前をディセンバー・ボーイズと変えて(元ネタはもちろんビッグ・スターのあの曲)ロイドのバック・バンドを務めたり、カントリーのメッカであるナッシュヴィルにおいて、ブラッド・ジョーンズやシャザムらの先駆けともいうべき活動をしていたことは、もっと語られてもいいはずだ。幸いロイドの80年代のポップ・ナンバーはアルバム『FEELING THE ELEPHANT』にまとまっているが、プラクティカル・スタイリスツについては、今後の再評価に期待したいところだ。www.practicalstylists.comにおいて当時の音源が公開されているので、興味のある人は一度のぞいてみてほしい。

 さて、こうした地道な活動を続けていたロイドにメジャー・デビューの機会が訪れた。きっかけは、ナッシュヴィルのとある音楽出版社と契約したところ、たまたま同じ出版社に所属していたラドニー・フォスターと知り合い、一緒に曲を書き始めたこと。そのうちの一つ「Since I Found You」が、当時売り出し中だった女性カントリー・デュオ、スウィートハーツ・オブ・ザ・ロデオによってトップ10ヒットを記録。波に乗った二人はポップ・カントリー・デュオ、フォスター&ロイドをスタートさせ、RCAと契約を結んだのである。デビュー作『FOSTER AND LLOYD』(87年)からは「Crazy Over You」「Sure Thing」等のシングル・ヒットが生まれ、その後も『FASTER AND LLOUDER』(89年)『VERSIONS OF THE TRUTH』(90年)と順調にアルバムを出し続けたのだが、90年に惜しまれつつコンビ解消。活動期間は三年と短かったものの、メディアへの露出度は高く、アメリカではビル・ロイドといえば、インディー・ポップではなくて、カントリー・デュオの人と説明した方が通りは早いかもしれない。

 この後のロイドは、方向性を『FEELING THE ELEPHANT』路線に戻して、二枚のソロ・アルバムをリリース。また、オーソドックスなカントリー・ロック志向を強めたスカイ・キングスでもアルバムを制作し、フットワークの軽さを生かして多数の編集盤に参加する等、多彩な活動により、ファンの注目を集め続けている。キャリアを把握するには、以下の四枚を推薦しておきたい。

『FEELING THE ELEPHANT』(87年)

 ビル・ロイドといえば、まずはこの一枚。80年代のデモを集めたアルバムだが、曲ごとの完成度が高い。中でも最高なのは、パワー・ポップの王道をいく「This Very Second」と、甘く切ない「Lisa Anne」の二曲。これを聴けば、ビートルズやバーズ、あるいはビッグ・スターの名前が引き合いに出されるのも納得できるはず。

『FASTER AND LLOUDER』(89年)

 フォスター&ロイドを一枚選ぶならこれ。dB'sのカヴァーを収録したベストでもいいけれど、このアルバムのゆったりしたムードが好き。

『FROM OUT OF THE BLUE』(00年)

 RCAとワーナーがお蔵入りにしたスカイ・キングスのアルバムをライノ・ハンドメイドがカップリングして限定リリース。ラスティ・ヤング(ポコ)、ジョン・コーワン、ビル・ロイドといったメンバーも内容も文句なしだったのに……。多少値は張りますが、入手可能のうちに是非買っときましょう。

『ALL IN ONE PLACE』(01年)

 今まで各種編集盤に提供した曲を一まとめにしたお買い得盤。全15曲。これから全部そろえるのは大変だという人は、これで楽をするのも悪くない。

 そして、こうしたロイドの歩みは今回の円熟味を感じさせる新作へとつながってくるのである。……今回はビル・ロイドだけで紙数が尽きてしまった。ジェイミー・フーヴァーについては、近くセカンド・ソロが出るようなので、そのとき改めて詳しく触れることにしよう。

・JAMIE HOOVER & BILL LLOYD/Paparazzi (Paisley Pop/POP021156)2004年

・BILL LLOYD/Feeling The Elephant (DB/97)1990年 *1987年のThrobbing Lobster盤をCDで再発。オリジナルとはジャケ違い。

・FOSTER & LLOYD/Faster & Llouder (RCA/9587-2-R)1989年

・THE SKYKINGS/From Out Of The Blue (Rhino/RHM2 7714)2000年