渋いセレクションでマニアを唸らせているライノのハンドメイド・シリーズについては、以前もここで取り上げたことがある(47号参照)。そのとき紹介したランク&ファイルに続く80年代インディーものは出てないかなと先日サイトをのぞきにいったら、ありましたね。テレヴィジョンのライブやコード・ブルーの再発に混じって何とガダルカナル・ダイアリーの名前が! しかし……という話が前半のメインです。

 まずはバンドのプロフィールから。ガダルカナル・ダイアリーは、80年代にアトランタ周辺から登場した四人組。ドン・ディクソンがプロデュースを手がけた1st『WALKING IN THE SHADOW OF THE BIG MAN』(DB/84年)が話題を呼び、翌年エレクトラがこれを再発売。89年に解散するまでに四枚のアルバムを残した。R.E.M.やスウィミング・プール・Qズと並び、当時のカレッジ・チャートで注目を集めていた米南部インディー・シーンを代表する存在といっていい。90年代に入ってからバンドのリーダー、マレイ・アッタウェイはソロ活動に力を入れていたが、90年代後半にはバンドを再結成し、ライブ・アルバムも発表している。彼らの魅力はR.E.M.風のギター・サウンドにトゥワンギィな要素やエスニックなムードをミックスした独自の世界にあり、今聴き直してもその音楽性は古びていない。今回ライノがリイシューするのは彼らの1stアルバムだという。しかし、この再発にはちょっと待てよと首をかしげる人もいるはずだ。このアルバム再発されたばかりじゃなかったっけ?

 そう、本欄では取り上げるタイミングを逃してしまったけれど、彼らの1stと2ndは今年の五月に2in1でリイシューされたばかりなのである。1stの方は過去にエレクトラ版CDが出回っていたとはいえ、とっくに廃盤。2ndにいたっては今回が初のCD化だったから、この再発の意義は大きかった。リリースしたのはオールディーズで知られるコレクタブルズ。今のところ他に80年代ものの予定はないようだが、今後の動向に注目しておきたい。ついでに触れておくと、今この分野で最も意欲的なレーベルはといえば、コレクターズ・チョイスだろう。つい最近も以前紹介したレッツ・アクティヴ(49号参照)の三枚目、四枚目を続けてリイシューし、80年代米インディーズ・ファンの期待に応えてくれた。他にも昨年から今年にかけてのリリースにはdB's(最初の二枚をカップリング)、リチャード・ロイドの1stソロ、スリー・オクロック(『ARRIVE WITHOUT TRAVELLING』と『EVER AFTER』の2in1)、OH-OK(40号参照)等があり、基本をちゃんと押さえようという姿勢には好感が持てる。

 ガダルカナル・ダイアリーに話を戻すと、今回ライノは半年前に出たアルバムを競合してリイシューする形になったわけだ。その分ボーナス・トラックには工夫の跡がうかがえ、デビューEP全曲に加えてライブ、未発表曲等、計六曲が追加されるというし、音もよくなっているらしい。そこらへんはさすがライノ、ぬかりはない。だが一方のコレクタブルズ版は2ndをまるまる収録しているうえに価格も安い。熱心なファンは当然そちらを購入済みだろうから、もう少しライノ側に配慮があってもよかったような気がする。たとえば同じガダルカナル・ダイアリーにしても、最高傑作といわれる三枚目『2X4』(87年)を出すとか、あるいはマレイ・アッタウェイのお蔵入り2ndアルバムを出すとか、手はいくらでもあったはずではないか。今回の再発が単発であるだけに、そういった疑問も自然にわいてきてしまうのだ。少数限定という性格上、マニアックなこだわりこそがこのシリーズの売りだったはず。その点で今回は少し中途半端というか、タイミングが悪かったというか。続けて全作再発するという計画でもあれば話は別なのだが……。まあ、今後に期待しておきましょう。

 さて、後半はライノと並んでマニアからの信頼が厚いレーベル、ライコの話題を。最近のリリースでは、遅れていたビッグ・スターの編集盤やジョッシュ・ロウズの新作はもちろん、かつて所属していたアレハンドロ・エスコヴェード『WITH THESE HANDS』(96年)とマーティン・ゼラー『BORN UNDER』(94年)の再発がまず見逃せない。両者ともにそれぞれ大幅に曲を追加。特に前者はライブ・ディスクがまるまる一枚増補されたので、持っている人も買い直すだけの価値がある。だが、ここまでは言ってみれば前振り。それに加えて同じ11月には、何とダンプトラックのアルバムを三枚再発するというではないか! これには本当に驚いた。ライコが80年代のカレッジ・ロックものをリリースするのは、僕の記憶ではエスコヴェード絡みでトゥルー・ビリーヴァーズをリリースして以来だから随分久しぶりという感じがする。それにしても、恐るべきはライコのサービス精神。ライノみたいに一枚きりじゃなく、一気に三枚だよ。僕はためらわずに注文出したけど、これ売れるのかね。本国での知名度を考えると一種の冒険といってもいいのでは。それでも出そうというライコの姿勢は大いに評価したいし、できるだけの応援をしたくなるというものだ。取りあえずこちらもプロフィールを。

 ダンプトラックは80年代にボストン周辺から登場したシンプルなギター・バンド。セス・ティヴンとカーク・スワンの二人を中心にして、透明度の高い硬質なギター・サウンドにより、当時のカレッジ・シーンで注目を集めた。初期にはスパイク・プリッジェン(26号参照)、マーク・マルカーイ(ミラクル・リージョン)、途中からカーク・スワンに代わって参加したケヴィン・セイラムらの協力を得て、人脈的にも音楽的にも80年代の東海岸を象徴する重要バンドの一つだ。90年代に入ってからも、セス・ティヴンはオースティンに移ってバンドを継続し、アルバムを作り続けている。今回ボーナス・トラックつきで再発される初期三枚のうち、1stは初CD化。2nd『POSITIVELY』(これもドン・ディクソンがプロデュース)と3rdにはビッグ・タイム版のCDがあったけれど入手困難だったから、探していたファンには朗報となる。1stの素朴な味も気に入っているのだが、最高傑作となると、ヒュー・ジョーンズをプロデューサーに迎え、演奏にも余裕の出てきた3rd『FOR THE COUNTRY』(87年)だろうか。この機会に彼らの繊細でメランコリックな魅力をじっくりと味わってほしい。

 ライノのお株を奪うような、コレクターズ・チョイスやライコの再発ラッシュの裏には、単なるノスタルジーだけでなく、表面的に語られることの多い80年代を見直そうという意図がこめられているように思える。MTVに象徴されるロック産業の肥大化/ヴィジュアル化とは無縁の場所で、真剣に音楽に取り組んでいた若者が大勢いたのである。60年代や70年代に比べれば小粒かもしれないが、こうした再発を通して、80年代のアメリカにも貴重な遺産が数多く眠っていることを改めて知ってもらえたらと強く願う。

1)GUADALCANAL DIARY/Walking In The Shadow Of The Big Man + Jamboree (Collectables/COL-CD-7486)1984+1986/2003

2)GUADALCANAL DIARY/Walking In The Shadow Of The Big Man (Rhino/RHM2 7841)1984/2003

3)DUMPTRUCK/Positively (Ryko/10656)1986/2003

4)DUMPTRUCK/For The Country (Ryko/10657)1987/2003