今回は路線を戻して、最近のポップ・アルバムから愛聴盤をまとめて紹介することにしよう。

 90年代の米西海岸インディー・ポップといえば、日本ではワンダーミンツ、ベイビー・レモネード、チュウイ・マーブルといったあたりを思い浮かべる人が多いかもしれない。ビーチ・ボーイズやラブの伝統を考えるとそれもまあ当然という気がしなくもないのだが、個人的にはメランコリックな叙情性と力強さを併せ持つ、シスコのクリス・ヴォン・スナイダーン、オレンジ・カウンティのニック・ロウことウォルター・クレヴェンジャー、以上二人の名前はやはり落とせないと思っている。

 その二人のうち、スナイダーンが今年の初めに新作を発表し、健在を印象付けてくれたことは記憶に新しい。それに続いてウォルター・クレヴェンジャーも待望の三枚目を届けてくれた。フル・アルバムとしては99年の『LOVE SONGS TO MYSELF』以来四年ぶり。ただし、昨年このアルバムの予告編ともいうべきEPをリリースしているので、それほど待たされたという感じはしない。

 前作同様デイリー・キング名義の新作は、いかにもクレヴェンジャーらしいポップ感覚を保ちつつ、幾分ルーツ・ロック色を強めているように思える。バンドの新メンバー、ワイマン・リーズがもともとLAのコアなルーツ・ロッカー、クリス・ギャフニイと共に活躍していた過去があったり、やはりLAのルーツ・ロック・シーンを代表するデイヴ・アルヴィンとの活動で知られ、ソロも出しているリック・シアがゲストでペダル・スティールを弾いていたり、そうした人脈的なつながりも見落とせないが、もともとビートルズやニック・ロウだけでなく、カントリーも大好きだというクレヴェンジャーの嗜好が部分的に反映されているとみるべきだろう。

 もっともアルバム全体としては、あくまでポップなロックンロールを基本に、カントリー趣味についてはところどころレイド・バックしたルーツ・テイストを漂わせるといった程度にとどめられており、最後を締めくくるのは、昨年のEPにも収録されていたチープ・トリック風パワー・ポップ・ナンバー「Radio Sea」だから、今までのファンも期待を裏切られることはないはず。本格的なカントリー・ソングは今後発売予定の、タイトルもずばり『THE COUNTRY ALBUM』でたっぷり聴けることになっているので、それも今から楽しみにしておきたい(昨年のEPでこちらに収録予定のナンバーも三曲聴ける)。

 さて、相変わらずルーツとポップの融合に目のない僕が、クレヴェンジャーの新作と一緒によく聴いているのはバリーズのアルバムだ。リリースは昨年だが、僕は最近ノット・レイムで購入した。購入のきっかけは、サイトで視聴した曲が素晴らしかったことと「ロイ・オービスン、ジーン・ピットニー、エヴァリー・ブラザーズらに比すべきソングライティングとヴォーカル」「ウィングス、バッファロー・スプリングフィールド、ホリーズ、ママス&パパスを思わせる」等のコメントに惹かれたこと。実はこの時点で、さほど期待はしていなかった。こう言っては悪いけれど、ノット・レイムのコメントには過去に何度も騙されているし、一曲だけよくてもアルバムを通して聴いてみると大したことなかったという経験も数多いため、最近は悲しいかな、自分で期待のし過ぎに予防線を張っておくようになってしまっているのである。ところが蓋を開けてみたら、これはひさびさの大当たりだった。

 まず冒頭の「Because She's A Woman」からぐっと引き込まれる。初期のマーシャル・クレンショウが得意としていたような、オールディーズ風味を現代に甦らせた、極上のポップ・ナンバーだ。声量やトーンは違うけれども、ためを効かせながらよく伸びるヴォーカルと曲調は確かにロイ・オービスンっぽい。このままオールディーズ・テイストで押していくのかと思っていると、70年代のカントリー・ロック風あり、ポール・マッカートニーのシンプルな小品を思わせるナンバーもあり、CSNの「青い眼のジュディ」に影響を受けたのではないかと考えたくなる長尺ナンバーもあり(中心メンバーのバリー・スコットはスティーヴン・スティルスとニール・ヤングのファンだという)と、かなりヴァラエティに富んでいる。個人的ベスト・トラックはロイ・オービスン風味が最も強い「My Marie」だが、他にもいい曲満載だから、興味を持った人はノット・レイムのサイトか彼ら自身のサイトで是非チェックを(www.barriedtreasuremusic.com)。

 初めて聞く名前だったので、一体どんなバンドなのか調べてみると、バリー・スコットを中心として、ヴァージニア州で97年に結成されていることが判明。バリーズとしてのアルバムはこれが初めてのようだが、スコット自身はかなり長いキャリアをもつベテランであり、70年代末から80年代初めにかけて活躍し、メジャーからアルバムを二枚出しているステイツのメンバーだった過去がある。新人らしからぬ風格に、きっとキャリアのある人たちだろうとは思っていたけれど、そんなに古くから活動していたとは。ステイツというバンドも初耳だ。また捜索盤が増えてしまった。

 それにしても、クレヴェンジャーにしろ、バリーズにしろ、別に新しいことは何もしていない。そこにあるのは過去の遺産をしっかりと見つめ、素晴らしいメロディーを生み出し、確かな演奏を提供しようという、実にシンプルな方法論である。それが多数の支持を集められない今の状況は、僕にとって不思議以外の何者でもないのだが、最近はそういうものかとあきらめに近い心境……。

 音楽的にクレヴェンジャーやバリーズに近いことを20年以上に渡って続けているマーシャル・クレンショウもまた例外ではない。新作を出したというのにアメリカでもあまり話題になっていないのは、一体どういうことなのか。最新作『WHAT'S IN THE BAG?』は確かに地味なアルバムではあるけれど、今年で50歳を迎える大ベテランならではの渋みと温もりが心地よい佳作といっていい。録音にジーン・ホルダー、ゲストにエリック・アンベルの名前があるのも嬉しい。意外やプリンスのカヴァーも結構はまっている。

 最後に紹介したいのは、以前大きく取り上げたことのあるキャッシュ・ブラザーズ。アンドリュー・キャッシュ、ピーター・キャッシュ(元スカイディッガーズ)による、カナダの兄弟デュオだ。アメリカでの第二弾となる『A BRAND NEW NIGHT』は、今までのシンプルな味わいを残しつつ、アレンジの幅を広げ(キーボードで全面参加したクリス・ブラウンの功績は見逃せない)、同時にロック色の濃いアプローチも増えた。その結果スケールも一回り大きくなり、貫禄を漂わせた充実の一枚といえそう。中でも「Sweet」のじわじわと盛り上げていくテクニックは心憎いばかり。王道アメリカン・ロック・ファンにも大推薦です。

1)WALTER CLEVENGER & THE DAIRY KINGS/Full Tilt & Swing (Brewery Records/BR0782)2003

2)THE BARRYS/Who Else (Barried Treasure Music/BTM9290)2002

3)MARSHALL CRENSHAW/What's In The Bag? (Razor & Tie/7930182869-2)2003

4)THE CASH BROTHERS/A Brand New Night (Zoe/011 431 034-2)2003