「できることなら、僕がカレッジ・ラジオのDJをしていた83年の秋に戻って、自分自身の放送をこのCDに収録したかったんだ。そうすればレッツ・アクティヴをほめちぎってこんな風に言っている僕の声が聞こえてきただろう。『注目。次は大きなコマーシャル・ラジオ・ステーションでこの曲を聴くことになるぞ!』」(クリス・ゼファス)

 当時そんな風に思っていた若者が実際にどれくらいいたのかはわからない。シングルが大ヒットというわけではなかったし、アメリカでもそれほど多くなかったのではないかと思う。日本ではさらに少なかったはずだ。81年にノース・キャロライナで結成されたレッツ・アクティヴは、83年にEP『AFOOT』によってIRSからデビューを飾る。これは『愛のワンダーランド』というとんでもない邦題をつけて日本でも翌年リリースされたが、次のアルバム『CYPRESS』(84年)の発売は見送られてしまった。バンド名の由来は『アトランティック』誌に掲載された、日本人の使う奇妙な英語に関する記事だったという、日本人としては黙ってうつむくしかないようなエピソードが残されている(確かにレッツ+形容詞っていうのは変だよね)。

 当初のメンバーは、既にR.E.M.のプロデューサーとしてドン・ディクソンと共に名前を知られていたミッチ・イースター(Vo、G)、フェイ・ハンター(B)、サラ・ロンウェバー(Ds)の三人。男性一人に女性二人という編成がちょっとユニークだった。音楽的にはR.E.M.とも共通するジャングリーなギター・ポップを基本にして、60年代のサイケデリックなムードを加え、80年代初期のニュー・ウェイヴ風な味付けを施した感じといえばいいだろうか。ミッチ・イースターの少年っぽいヴォーカルにも独自の味があり、古さと新しさが同居した、奇妙な魅力を持っていた。

 『愛のワンダーランド』に付けられた特製ブックレットを見ると、彼らはゴー・ゴーズ、R.E.M.、アラームらに次ぐIRSの新鋭として位置づけられていたことがよく分かる。同時期に同じポジションで売り出されたのは、ロード・オブ・ニュー・チャーチ、ウォール・オブ・ヴードゥー、リチャード・マツダ、イップ・イップ・コヨーテ、クラウン・オブ・ソーンズ、トーチ・ソングなど。これらを全て懐かしいと思える人がどれくらいいるだろうか? 何と言っても、もう20年も昔の話なのである。

 しかし、その他の多くのバンドが消えていく中、レッツ・アクティヴは結構しぶとく生き残った。86年にはミッチ以外のメンバーをがらりと変更した『BIG PLANS FOR EVERYBODY』、88年にはジョン・レッキーを共同プロデューサーに迎えた『EVERY DOG HAS HIS DAY』(これは久しぶりに日本盤も発売された)と試行錯誤を繰り返しながら二枚のアルバムをリリース。それなりにファン層を広げていったのだが、IRS側がバンドに興味を失ってしまったこともあり、90年には解散してしまう。もっともレッツ・アクティヴと並行して、ミッチ・イースターはプロデュース業を続けており、90年以降も彼の名前がシーンの表面から消えてしまうことはなかった。80年代にはR.E.M.以外にもゲーム・セオリー、ウィンドブレイカーズ、ワシントン・スクエアズ、ヴェルヴェット・エルヴィス、サムラブズ、90年代にはヴェルヴェット・クラッシュ、DM3、最近ではオレンジ・ハンブル・バンド、シャリーニ(現在の夫人)など、手がけたバンドを挙げていけばきりがない。レッツ・アクティヴの存在はこうした活躍の影に隠れてしまい、ここ十年の間大きな再評価の動きはあまり表面に出てこなかったともいえる。否定的な見方をすれば、レッツ・アクティヴはひっそりと消えていった無数のカレッジ・ロック・バンドの一つということになるだろう。

 だが、一部の人間にとって、間違いなく彼らはR.E.M.やリプレイスメンツと同じくらい影響力を持つバンドだったのだ。それを証明するかのように、今年に入ってからレッツ・アクティヴの名前を目にする機会が多くなってきた。例えば初期の二枚をカップリングしたCDは最近までオークションで高値を呼んでいたのだが、今年の春にはとうとう正式なリイシューが実現した。またイタリアのノー・タイム・レーベルでは未発表曲を含んだ、レッツ・アクティヴのボックス・セットを企画中だとか。それに加えて七月にはオーストラリアのインディー・レーベルからトリビュート・アルバムまで発売された。

 このアルバム、内容も面子も素晴らしいの一言。愛情がひしひしと伝わってくる丁寧な作りにまず好感が持てる。とびきりのラブ・レターを演奏してくれた20組の顔ぶれを見てみよう。ドン・ディクソン、ウィル・リグビー(ドラマーとして二曲に参加)、ティム・リー、ボビー・サトリフ、ポール・チャスティン、トロリーヴォックス、ジェリー・チャップマン(元アーバン・エッジ)など、当然のことながら過去にミッチ・イースターと関わりのある人々が目につく(ピーター・ホルサップルはコメントのみ参加。クリス・ステイミーの名前がないのは残念)。これに今回の企画者でもあるマイケル・スロウター率いるセイヴィング・グレイシズ、ガールズ・セイ・イエス、ドロップ・クォーターズ(クリス・ゼファス)など、レッツ・アクティヴの大ファンだったバンドたちが加わり、冒頭に引用したような、思い入れたっぷりのコメントを寄せている。演奏もそれぞれ力が入っており、中ではカラフルかつ荘厳なサウンドを披露したダグ・パウエル、持ち味を生かしてルーツ・ロック風に仕上げたトミー・ウォマックあたりが、ちょっと視点を変えることにより、曲自体の魅力を浮き彫りにするというトリビュート盤の基本を押さえていて文句なし(ウォマックに参加を依頼したスロウターに拍手)。他にはオリジナル・メンバーのフェイ・ハンターをゲストに迎えたビル・ロイド、「Blue Line」をヴェンチャーズ風に料理したティム・リー等も要チェック。個人的には改めてミッチっていい曲書いてたんだなあと思い知らされることも多かった。実はプロデューサーとしてのミッチ・イースターに比べてレッツ・アクティヴをそれほど高く評価していなかったのだが、このトリビュートを聴いて大いに反省させられたことを正直に告白しておこう。

 ミュージシャンとしての自分に注目が集まっている流れを意識したのか、あるいは逆にその自覚がこうした現象を引き起こしているのか、いずれにしても、ミッチは昨年から自らの新バンド、クラックポッツをスタートさせ、積極的にライブを行なっている。その後名前を変更して、現在はフィーンディッシュ・ミンストレルズに落ち着いた模様(オフィシャル・サイトはwww.fiendishminstrels.com)。この夏にはレコーディングも予定され、アルバムが年内には届けられるかもしれないというから、期待して待ちたい。

1)LET'S ACTIVE/Cypress/Afoot (Collector's Choice/WWCCM0376)2003(1983/1984)

2)LET'S ACTIVE/Big Plans For Everybody (IRS/IRSD-5703)1986

3)LET'S ACTIVE/Everydog Has His Day (IRS/IRSD-42151)1988

4)V.A./Every Word: A Tribute To Let's Active (Laughing Outlaw/LORCD-061)2003