長雨が続く六月某日。まさにこういう日にぴったりだと思いながら、ジェイホークスの新作『RAINY DAY MUSIC』を聴いて、雨の休日を過ごす。久しぶりにかつてのジェイホークスらしさを取り戻した好盤だと思う。ゲイリー・ルーリスの書くメロディーの美しさと、それをくっきり浮かび上がらせるシンプルなアレンジがまずいいし、コーラス・ワークにも相変わらずそつがない。意欲は十分伝わってきたけれど、前二作(特に一昨年の『スマイル』)の方向性に僕はあまり馴染めなかったので、今回のようにナチュラルな音作りは待ってました、という感じ。カントリー・ロック色が戻ってきているのも個人的にうれしいところ。効果的に使われたバンジョーやスティール・ギターの音色に心が和む。

 誰が弾いているのかとクレジットを見ると、バンジョーについていえば、一曲目は何とスティーヴン・マッカーシー(元ロング・ライダーズ、ソロ数枚あり)、二曲目はバーニー・レドン(元フライング・ブリトゥ・ブラザーズ/イーグルス、そういえば以前グリーン・オン・レッドのアルバムにも参加していた)なんですねえ。マシュー・スウィート参加よりも、個人的にはこちらの方がポイント高し。マッカーシーにいたっては、他の曲でもヴォーカルやペダル・スティールに大活躍。今回のルーツ・ロック度を高めるのにかなり貢献している。イーサン・ジョンズ(グリン・ジョンズの息子)の父親譲りのオーソドックスなプロデュース・ワークも見逃せないし、バーズやCSN&Yが好きというオールド・ファンにも自信を持っておすすめできる一枚だ。

 ライアン・アダムス、キム・リッチー、ティフト・メリットらに加えて、アセンズのワイルドなルーツ・ロック・バンド、ドライヴ・バイ・トラッカーまで移籍して、このところ注目を集めているロスト・ハイウェイは、四月にルシンダ・ウィリアムスの新作も届けてくれた。前作『ESSENCE』(01年)にはちょっと中休みといった趣もあったけれど、今回はプロデューサーのマーク・ハワード(ダニエル・ラノワのもとでボブ・ディラン、エミルー・ハリス、ウィリー・ネルソンのエンジニアを務めた経験あり。ヴィック・チェスナットの最新作でもいい仕事をしている)が臨場感あふれるバンド・サウンドとマイルドな奥行きをうまくミックスしており、聴き応えは十分。中でもストーンズ風の「Real Live Bleeding Fingers...」やブルージーな「Atonement」が印象に残る。ちょっとハスキーな歌声の中に人生の機微すら感じさせる、貫禄たっぷりのヴォーカルはますますその魅力を強め、当代の女性SSWの中でもベストという僕の評価は当分揺るぎそうにない。

 それにしてもである。ジェイホークスにしてもルシンダ・ウィリアムスにしても、これだけ優れた内容にもかかわらず、未だに国内盤の出る気配がないのはなぜなのか。まあ、いろいろな事情があるのだろうけれど、ユニヴァーサルにはソニー(アンクル・テュペロの再発)やPヴァイン(ニーコ・ケイス)を見習ってほしいものである。メジャーのロスト・ハイウェイでさえこの始末だから、インディーから出ているルーツ・ロックの秀作は、日本では埋もれていくばかり……。

 なんて愚痴はさておいて、次にいってみよう。僕が最近気になるインディー・レーベルといえば、テキサスのニュー・ウェスト、ノース・キャロライナのイェップ・ロックが筆頭に挙げられる。中でも後者はルーツ(トゥー・ダラー・ピストルズ、ジェイソン・リンゲンバーグ等)とポップ(メイフライズUSA、スワッグ、マイナス5等)の両方に目配りをきかせ、選択眼の確かさにうならされることが多い。元ウィスキータウンのケイトリン・キャリーもデビューEP以来、ずっとこのレーベルからリリースを続けている一人だ。昨年の『WHILE YOU WEREN'T LOOKING』に続いてクリス・ステイミー(元dB's)がプロデュースを担当した新作は、前作と同じようにフォーク、ソウル、カントリーなどをうまく融合して、彼女独自のゆったりとした世界を生み出しているが、全体的に曲がシャープになり、ポップ度も高め。今までの中ではベストの仕上がりをみせている。

 ジェン・ガンダーマン(一時期ダグやジェイホークスに参加)、ブライアン・デニス(ダグ)、デイヴ・バーソロミュー(ニッケル・スロッツ)、ジョン・ウースター(スーパーチャンク/パイントップス)らをメインにして、ステイミーの旧友(ミッチ・イースター、ウェス・ラショー等)がゲスト参加した演奏形態も前作同様。新作ではここにドン・ディクスン、ロッド・アバーナシー(アロガンス)など大御所も加わり、何とも贅沢なノース・キャロライナ・コネクションの一端がうかがえるのも楽しい。最後にピーター・ホルサップル(dB's/コンチネンタル・ドリフターズ)のカヴァーを披露しているのはステイミーのアイディアなのだろうか。今ではすっかりプロデューサーが板についた格好だけれど、やはりイェップ・ロックから予定されているステイミー自身の新作にも期待してます。

 最後に紹介するのは、NYに拠点を置くメアリー・リーズ・コルヴェット。エリック・アンベル夫人でもあるメアリー・リー・コルテスを中心にしたルーツ・ロック・ユニットで、これが四枚目になる。順番に見ていくと、八曲入り傑作デビューEP『MARY LEE'S CORVETTE』(96年)、初のフル・アルバム『TRUE LOVERS OF ADVENTURE』(99年)、バー・ナン移籍第1弾の『BLOOD ON THE TRACKS: LIVE 』(02年)、そして『700 MILES』という流れだ。ボブ・ディランのカヴァーでまとめた異色ライブ集だった前作に対して、新作はタウンズ・ヴァン・ザントのカヴァーを除く全曲がオリジナル。いつになくトラッド色の濃いタイトル・トラックに新境地を感じさせる以外は、穏やかなフォーク・ロックを基本にして、リズミカルなナンバーでアクセントをつける従来の作風に大きな変化はない。エリック・アンベルの名前からタフなロックンロールを連想するとはずされるのでご注意を。ワイルドな持ち味をあえて抑え、彼女のイメージを損なわないよう、またクールな中にエモーションを湛えた彼女の歌声を生かすよう、シンプルに徹したアンベルのサポートは的確で、安心して聴ける一枚といえるだろう。

 ちなみにバー・ナンは古くからのファンにはゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツでお馴染みの老舗インディーだが、ヘルス&ハピネス・ショウのようにオーソドックスなバンドにも強い。最近では自然体の女性シンガー、ジェニファー・ジャクスンに加えて、国内発売もされたエヴァン・ダンドゥの復帰作、ついに出たスウィミング・プールQズ14年ぶりの新作などが話題に。なぜかパフィーもアメリカではここから発売されていて、昨年出したベスト盤に続き、まもなく『NICE』の米国盤もリリース予定。ユニークな方針が健在なのはうれしい限りだ。

1)JAYHAWKS/Rainy Day Music (Losy Highway/American/B0000080-02)2003

2)LUCINDA WILLIAMS/World Without Tears (Lost Highway/088 170 355-2)2003

3)CAITLIN CARY/I'm Staying Out (Yep Roc/YEP2049)2003

4)MARY LEE'S CORVETTE/700 Miles (Bar/None/BRN-CD-136)2003