みなさんご存知のライノが、インターネットを通してオリジナルの限定盤CDを販売するサイトを始めてからもう随分たつ。インターネットとはいってもダウンロードするわけではなく、製品としてのCDが手に入るのだから、普通の通販と変わらない感覚で購入できるのが利用者にとっては嬉しいところ。ドアーズやモンキーズのライブなんてマニアにはたまらない宝物だろうし、本誌読者には既にチェック済の方が多いとは思うのだが、その他にもラスカルズ、ジョン・セバスチャン、ティム・バックリイ、キャプテン・ビーフハート、ファグズ、タイニー・ティム、ジミー・スコット、リンダ・トンプソンといったあたりの珍しい音源からマニアックな映画のサントラまで、ずらり並んだカタログは一見の価値あり。基本的に一枚約20ドル(プラス送料)と少々値が張るのはしかたないだろう。それでもこの内容を考えれば高くはないと僕は思う。詳細はwww.rhinohandmade.comへどうぞ。

 ところで、こうやって紹介しておきながら、僕がこのハンドメイド・シリーズを購入したのは過去に一度しかない。その作品とは、ビル・ロイド、ラスティ・ヤング(ポコ)、ジョン・コーワンの三人が組んでいた幻のルーツ・ポップ・バンド、スカイ・キングズのお蔵入りアルバム二枚をカップリングした『FROM OUT OF THE BLUE』(00年)である。いわゆるビッグ・ネームの未発表音源にはそれほど食指が動かない僕も、このニュースを聞きつけたときはさすがライノ、よくぞ出してくれましたと溜飲の下がる思いをしたものだ。上質なカントリー・ロック満載のこのアルバム、五千枚限定ながらまだ在庫はあるようなので、興味のある方はお早めに。

 その後も前述のように貴重な音源を続々とリリースしていたこのシリーズから、ランク・アンド・ファイルが再発されているという話を聞いたのはつい最近のこと。おおランク・アンド・ファイル! と感激しながら早速二度目の注文を出してみた。二千五百枚限定という『SLASH YEARS』は、題名通りスラッシュ時代の未CD化アルバム二枚にボーナス・トラックを加えた23曲入(一枚ずつ遠し番号がついていて、僕の盤はまだ63番だった)。数曲カットした編集盤ではなくて、完全収録というのがまず嬉しい。いつも書いていることだけれど、80年代のインディー派にはなぜかCD化されていない佳作がたくさんあって、ランク・アンド・ファイルなどはその筆頭だと思っていたからだ。

 では、ランク・アンド・ファイルとはどんなバンドだったのか? メンバーのキャリアは70年代後半、西海岸を中心に活動していたディルズというパンク・バンドにまで遡る。数枚のシングルを残して解散してしまったディルズは、X、ジャームズ、ゼロズらと並び、LAパンク・シーンを支えた重要バンドの一つ。代表曲「I Hate The Rich」「Mr.Big」はライノのD.I.Y.編集盤『WE'RE DESPERATE:THE LA SCENE』に収録されているし、編集盤『DILS DILS DILS』も最近リリースされている。そのメンバーだったキンマン兄弟のうちチップ・キンマンはディルズ解散後、アレハンドロ・エスコヴェド(シスコのパンク・バンド、ナンズで活躍)と新バンドを始めるためにニュー・ヨークに移ったが、ほどなくしてトニー・キンマンも合流。バンドは改めて81年にオースティンへと拠点を移し、ランク・アンド・ファイルとして本格的な活動をスタートさせた。しかし、ニュー・ウェイブ全盛の当時、どちらかといえばオーソドックスな彼らの音楽性はオースティンといえどもなかなか理解されず、バンドは馴染みのある西海岸へと戻ることになる。

 やがてブラスターズの前座を務めたことをきっかけにしてスラッシュと契約がまとまり、82年には1stアルバム『SUNDOWN』を発売。ちなみにこの頃のスラッシュはX(80年)、ブラスターズ(81年)を既にデビューさせており、ここにランク・アンド・ファイルやドリーム・シンジケート(82年)、さらにヴァイオレント・ファムズ、グリーン・オン・レッド、ロス・ロボス(83年)らが加わっていく。まさにLAインディーズを代表するレーベルへと成長しつつあるところだった。

 ランク・アンド・ファイルは、ブラスターズやロス・ロボスらと同時期に登場したルーツ・ロック・バンドというのが一番わかりやすい説明だろう。その出自からカウパンクの一派と言われることもあるけれど、実際に聴いてみるとパンク色はあまり感じられない(むしろこの呼称はジェイソン&スコーチャーズやブラッド・オン・ザ・サドル等にふさわしい)。トニーの豊かなバリトン、チップのキュートな高音と対照的なヴォーカルの魅力もさることながら、何よりトラディショナル・カントリーに根ざしつつ、スリムな現代性やポップな躍動感を獲得しているところに大きな特徴がある。彼らの最高傑作と個人的に思っている『SUNDOWN』でも、ゆったりとしたルーツ・テイストを基調にしながら、随所にポップな味付けが施されており、軽快なルーツ・ポップ・アルバムという印象が先にたつ。そうした意味ではニック・ロウやマーシャル・クレンショウのファンにも是非一聴をおすすめしたいところだ。

 バンドはその後エスコヴェドの脱退(弟のジャヴィア・エスコヴェドと共にトゥルー・ビリーヴァーズを結成)を経て、1stと同傾向の『LONG GONE DEAD』(84年)を発表。完成度こそ1stに一歩譲るが、名曲「Tell Her I Love Her」を含み、こちらも力作だった(当時日本盤も発売されている)。さらにライノへと移籍してロック色を強めた、最も力強い三枚目『RANK AND FILE』(87年)を発売したところで残念ながら活動停止。キンマン兄弟は新たにブラックバードというユニットでアルバムを二枚残している。一部エレクトロニクスを導入した点に新味があり、以前はちょっと違和感があったのだが、聴き返してみると結構ロックしていて悪くない。ルーツ色が薄い分、今のリスナーにはこちらの方が馴染みやすいかも。ただし、89年のアルバム二枚(1stのみCDあり)、アルバム未収録曲を含んだScotti Bros.の編集盤(これが一番入手しやすいかな)、アルバム収録曲で構成されたFundamentalの編集盤、全部タイトルが同じ『BLACKBIRD』なので購入の際にはご注意を。

 現在キンマン兄弟は、ランク・アンド・ファイル以上に伝統的なカントリーへと回帰したカウボーイ・ネイションを率いて活動中。アルバムも『COWBOY NATION』(97年)『A JOURNEY OUT OF TIME』(00年)『WE DO AS WE PLEASE』(01年)『COWGIRL A-GO-GO』(02年)と順調にリリースされており、創作意欲はますます盛んな様子。今回の再発を機に彼らの業績が正しく評価されることはもちろん、他の80年代インディー・ルーツ・ポップ派にも注目が集まることを願っている。続けてビート・ロデオやスクラフィ・ザ・キャットあたりのリイシューもどこかで実現しないものだろうか。

1)RANK AND FILE/The Slash Years (Rhino/RHM2 7816)2003

2)RANK AND FILE/Rank and File (Rhino/RNCD70830)1987

3)BLACKBIRD/Blackbird (Scotti Bros./75250-2)1992

4)COWBOY NATION/We Do As We Please (Paras Recording/6004)2001