このところ昨年の話ばかりしていたら、いつの間にかもう四月。早いものですねえなどとのんきにいっている場合ではない。注目すべき新作は次々に登場している。今回はここ数ヶ月のリリースから、印象に残っているポップ・アルバムをまとめて紹介することにしよう。

 まずはスコット・マッコーイ(ヤング・フレッシュ・フェロウズ)率いるマイナス・ファイブから。前作『LET THE WAR AGAINST MUSIC BEGIN』(01年)の興奮が冷めやらぬうちに登場した新作『DOWN WITH WILCO』があちこちで高い評価を得ている。僕もある程度期待しながら聴いたのだけど、確かにその評判も当然の出来ばえには感心させられた。ポイントは今までにも顔を出していた実験ポップ志向を徹底して追究したところ。そのうえにマッコーイ独特のウィットとポップなメロディー・センスが全体を包み込んでいるため親しみやすく、実験のための実験に終わっていないところがいい。冒頭の荘厳なサウンドに酔いながらタイトルを見ると「Wine and Roses」をもじって「酒と酒の日々(The Days of Wine and Booze)」っていうんだから人を食った楽しさは相変わらず……のようだ(僕の英語力では細部まではわかりませんが)。タイトル通りウィルコとの共同作業抜きに本作を語ることはできないけれど、根底には古今東西のロックやポップスに精通したマッコーイの音楽に対する幅広い敬意とユーモア感覚が横たわっていることを忘れてはならないだろう。いつものようにピーター・バック(R.E.M.)、ケン・ストリングフェロウ(ポウジーズ)も参加し、前作にも顔を出していたショーン・オヘイガン(ハイ・ラマズ)も一部協力とウィルコ以外の話題性も十分なので、ここは一つ国内盤リリースを各社にご検討願います。

 続いてはスポーツメン名義の『SPIRITED』(99年/Lazy Cat)以来、4年ぶりの新作『WILD HORSE』をスペインのレーベルから届けてくれたクリス・ヴォン・スナイダーン(本誌02年6月号にインタビューあり)。もっともこの間には各種CD-R、ベスト盤のリリース、各種編集盤への参加、再来日などいくつも話題があったのだが、正式なアルバムとしては久しぶりのものだけに、まさに待望といっていい。冒頭を飾る「Remember?」では『SPIRITED』や99年の来日公演でもすっかりお馴染みとなったコイ・サンのピアノがたっぷりとフィーチュアされ、独特のグルーヴ感を楽しませてくれるし、「Glory Days Are Gone」や「Our Last Waltz」の美しいメロディー・ラインには初期から続くメランコリックな魅力がこれでもかというくらいぎっしり詰め込まれている。64年に大ヒットしたペトゥラ・クラークの「Downtown」、70年代初期に一枚だけアルバムを残したスリーピー・ホロウ(リッチ・ビレイ)の「Take Me Back」など、メジャー/マイナー双方を取り上げたカヴァーも面白い。

 また、最近の彼の特徴としてアーシーでソウルフルなナンバーが増えてきたことが挙げられる。ヴァン・モリソンを思わせる「Identity」はその代表格だが、さらに今回はフェイセズやストーンズ(アルバム・タイトルも何か関係がありそう?)にも通じるルーズなロックンロール「Ooh Mama Mama」まで収録し、音楽性の幅を広げることに成功している。この二曲でスライドを担当したトム・ヘイマン(元ゴー・トゥー・ブレイジズ)の助力も見逃せない。『SPIRITED』を通してソウルやR&Bなどアメリカン・ミュージックの原点を見つめなおしたことに加えて、プロデュースを担当したヘイマンの『BOARDING HOUSE RULES』(01年)やマップ・オブ・ワイオミング『TROUBLE IS』(01年)などを通じてルーツ・ロック系のミュージシャンとのセッションが増え、もともと持っていたダウン・トゥー・アースな音楽性が後押しされた可能性はあるだろう(本作でバック・コーラスを担当したニコ・ケイス、ケリー・ホーガンは共に今のオルタナ・カントリー・シーンを代表する女性だ)。かといって全体がルーツ・ロック風ではなく、編集盤『WHAT'S UP BUTTERCUP? 』(01年/Lazy Cat)で披露されていた「Neighbor's Dog」のような正統派パワー・ポップも収録され、前述のようにいかにも彼らしい叙情性を感じさせる曲もある。僕の評価は過去のイメージを保ちつつ、新しい方向性をうまく消化した力作といったところ。古くからのファンはもちろん、初めて名前を聞いたという人にも一聴をおすすめしたい。

 後半はノット・レイムものをまとめて。今年初めにリリースされた注目作にJTG&インプロージョンのデビュー作『ALL THE PEOPLE SOME OF THE TIME』がある。これはジョージア州のジェリーフィッシュ風ポップ・バンド、スター・コレクター(本誌5号参照)のメンバーだったジョゼフ・T・ギディングスによる新バンド。スター・コレクター同様に、厚めのハーモニーとブリティッシュ・テイスト溢れたポップ・センスが楽しめる佳作だった。また、これは余談だが、スター・コレクターのもう一方の核であったコード・W(彼らのアルバムで一番のお気に入りだった「Soap Opera Queen」の作者。JTGインプロージョンにもゲスト参加)はNYに移ってフィールド・トリップというバンドを組んでいる。アルバム・リリースはまだのようだが、ライブを中心にして活動を続けている模様。MP3のサイトで音が聴けるので、詳細は彼らのホームページでご確認を(www.fieldtriprocks.com)。

 三月に入ってからは、ボビー・サトリフとマイケル・カーペンターの新作、そして80年代初期のパワー・ポップ・バンド、ホークスの未発表音源を含んだ編集盤がリリースされている。ボビー・サトリフは、80年代にミシシッピ州のギター・バンド、ウィンドブレイカーズをティム・リーと共に支えた大ベテラン。見事な復帰作『BITTER FRUIT』(00年/Not Lame)、ペイズリー・ポップからの編集盤CD-Rを経て今回の『PERFECT DREAM』という流れだが、ルーツ色を強めているティム・リーに対して、サトリフのソングライティングはウィンドブレイカーズの頃から変わらず、ジャングリーなギター・ポップを一貫して追究し続けているのがうれしい。新鮮な驚きはないけれど、安心して聴ける一枚に仕上がっている。

 前作『HOPEFULLNESS』(01年/Not Lame)によりオージー・パワー・ポップを代表する存在としてその名を世間に知らしめたマイケル・カーペンターはキングズRDなる新バンドを率いて新作『KINGSRDWORKS』を発表してくれた。ハーモニーもばっちり決まった「Nothing In The World」、トラッド風味を加味した「King's Road」のような痛快パワー・ポップに加えて、「The One For Me」のようにアーシーなアメリカン・ロック・テイストを持ったナンバーもあり、バンドとしてのまとまりを感じさせる好盤だ。スナイダーンの新作と併せてポップ+ルーツというのが個人的なツボであることを今年も実感してます。

1)MINUS 5/Down with Wilco(Yep Roc/YEP2052)2003

2)CHRIS VON SNEIDERN/The Wild Horse(Criminal Records/CR-CD-021)2003

3)BOBBY SUTLIFF/Perfect Dream(Not Lame/NL-081)2003

4)MICHAEL CARPENTER & KING'S RD/Kingsrdworks(Not Lame/NL0-82)2003