前号では新譜を中心に昨年を振り返ってみたが、リイシューに目を向けると、こちらも収穫がざくざく。僕の守備範囲−−アメリカのオリジナル・パワー・ポップ・バンドと80年代の米インディー派の二つに絞ってみても、前者ではプリックス、ヤンキーズ、ペイリー・ブラザーズ、ミルクン・クッキーズ(これは本誌的にはニッチ・ポップと言うべきでしょうか)等が日本でCD化されている。さらに海外へと目を移せば、リチャード・ロイドの傑作1st、オフ・ブロードウェイの2nd(1stに比べるともう一つ)、もっとマニアックなところではナウのライブやロッカーズのシングル音源(さすがにこの辺になるとCD‐Rでのリリース)などがひっそりと発売され、今年に入ってからはノット・レイムがホークスのお蔵入り音源集を予定するなど、日米同時進行でどんどん掘り起こしが進んでいる状況だ。

 その一方、後者の80年代米インディー派についても、それほど量が多いとは言えないが、昨年はブラスターズのスラッシュ時代全曲集、キャンパー・ヴァン・ベートーヴェンの三枚組編集盤、レイヴァーズのメジャー時代の二枚、ビッグ・タイム版のCDが長らくプレミア付で取引されていたレッド・クロスの『NEUROTICA』(87年)、今年に入ってからはウィンドの1st、グリーン・オン・レッドの唯一未CD化だった『GRAVITY TALKS』(83年)等、見逃せないリイシューが海外では相次いでいる。ただ、前者と違い、こちらは日本盤もゼロで、ほとんど話題になっていないのが残念。

 この連載でも繰り返して述べているように、どうも日本ではこうしたバンドに対する注目度が低い。そもそもこの時代の米インディーズについて知ろうと思っても、まとまった形の紹介は数えるほどしかないため、しかたがないのかもしれないが、それにしてもである。まあ、いつも愚痴ってばかりいたってそれこそしかたがないので、参考までに僕がよく参照する記事をまとめておくと、まずリアル・タイムなレポートとしてはミュージック・マガジンのバックナンバー(中でも84年6月号、85年2月号・12月号、87年3月号、89年9月号等)、吉本栄女史のコラム「ひきわりグラスルーツ」(『クロスビート』88年10月号〜93年5月号)あたりが基本だろう。書籍では86年に出た『ワールド・インディーズ・カタログ』(JICC)のアメリカ編が当時の注目作を200枚ほど紹介しており圧巻。また、93年に出た『アメリカ最強のロック』(洋泉社)のアメリカン・インディーズの項(増渕英紀)も地域別の概況が要領よくまとめられているので一読をおすすめしたい。自分が関わったものでは『jem』というファンジンで随時取り上げてきたし、『ワールド・フェイマス・ギター・ポップ』(音楽之友社)の80年代アメリカ編に主要なアルバムは掲載してもらったつもりだ。しかし、字数の制限もあって、十分な紹介ができていないところもあるので、結局はネット等を通して自分で調べることが一番ということになってしまうのかもしれない。今後の課題として、こうした80年代インディーズを本にまとめてみたいとは思っているのだが(あとはルーツ・ロックも)、ストレンジ・デイズ増刊でいかがでしょう? 日本やイギリスも併せて編集すれば、そこそこ売れるんではないかと……。

 閑話休題。改めて振り返ってみると、80年代カレッジ・ロックの中心でもあったインディー派には、ハードコア、ガレージからレイン・パレードのようなソフト・サイケ派、ロング・ライダーズのようなネオ・ルーツ派、スリー・オクロックのような甘酸っぱい青春ポップ、ドリーム・シンジケートのようなハードボイルド派、ウィンドブレイカーズのようにジャングリーなギター・ポップ派まで、実にさまざまなタイプがあったことは間違いない。しかし、多くのバンドに共通していたのは、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(以下VU)とアレックス・チルトン(ビッグ・スター)の影響だろう。音楽的な影響というより、その表現方法や音楽に対する姿勢への共感とでもいうべきだろうか。

 例えば昨年リリースされたウィンドブレイカーズのライブ盤(86年録音)を見てみよう。オリジナルに混じって収録されているVUの「What Goes On」、アレックス・チルトンの「Hey Little Child」、テレヴィジョンの「Glory」、リチャード・ロイドの「Blue and Gray」、バーズの「Rockn' Roll Star」などが雄弁に彼らのルーツを物語っていると同時に、フィーリーズがVUの、トミー・キーンがチルトンの全く同じ曲を同時期にカヴァーしていることを考え合わせれば、アマチュア感覚を残した退廃とポップのせめぎ合いこそが同期のバンドに共通する志向性であり、アプローチの基盤でもあったことが推測できる。

 さて、この二五〇枚限定ライブをリリースした注目レーベル、ペイズリー・ポップが今回の本題である。ここ数年マニアックなリリースを続けているペイズリー・ポップはオレゴン州ポートランドを拠点にした新興レーベル。おそらく「ペイズリー・アンダーグラウンド」を意識した名前からもわかるように、80年代へのこだわりはかなりのもの。前述のライブ以外にも、限定版CD−Rとしてボビー・サトリフの未発表曲集、トゥルー・ウェストのメンバーによるフール・キラーズの編集盤(過去の二枚から八曲ずつ収録)が出ている。正規のリリースとしては、ラス・トールマンのバック・バンドにいたジム・ヒュウイを中心にしたプロジェクト、ガールズ・セイ・イエスが面白い。ラス・トールマンはもちろん、スティーヴ・アルマース、ミッチ・イースター等、80年代を代表するメンバーがゲスト参加し、サイケ調ありフォーク・ロックありファンキーなナンバーもありと、幅広い味付けを施したポップ・ワールドが楽しめる。今年に入ってからは、ルークスのマイク・マザレラが80年代に在籍していたブロークン・ハーツの再発に加えて、この流れの極めつけともいうべき、ティム・リーの新作をリリースしてくれた。93年の『CRAWDAD』以来、十年ぶりのソロ四作目。予想通り、前作の内容を発展させたルーツ色の濃いアルバムで、バンド時代のポップ性を期待するとはずされてしまうが、しみじみとした佳作といえそう。

 また、このレーベルはベテランばかりではなく、新しいバンドにも力を入れており、地元のクラック・シティ・ロッカーズ、クァグズ等をリリースしている。中でも僕のお気に入りはクァグズ。昨年発表されたデビュー盤には、70年代のアーシーなロックを思わせる音楽性に加え、近年のポップ勢には珍しい、80年代インディーズのフォーキーで硬質なポップ感覚を連想させる部分が確実にあり、僕にはそれがたまらなく魅力的に思えた。

 三月にはノース・キャロライナのパワー・ポップ派、セイヴィング・グレイシズ、四月には新曲を含んだウィンドブレイカーズの編集盤などが予定されているペイズリー・ポップ。今後にも期待していきたい。

1)WINDBREAKERS/Boxing Day(Paisley Pop/CD-R)2002

2)GIRLS SAY YES/To Boys Who Say No(Paisley Pop/112662)2001

3)TIM LEE/Under The House(Paisley Pop/022860)2003

4)QUAGS/Out In The Community(Paisley Pop/081666)2002