前回予告した02年のまとめは準備不足のため先送りに。代わりに、以前にも近況をお伝えしたジン・ブロッサムズの周辺がこのところ賑やかになってきているので、そちらをまとめておくことにしたい。

 昨年の関連ニュースで真っ先にお伝えしなくてはならないことは、ジン・ブロッサムズが正式に再結成されて、夏から現在にかけてツアーを行っているということだろう。メンバーは解散時と変わらず、ロビン・ウィルスン、ジェシ・ヴァレンズエラ、スコット・ジョンソン、ビル・リー、フィリップ・ローズの五人。公式ホームページにはロビンのこんなコメントが掲載されている。 「僕らはいつも解散は永遠に続くものではないって言ってたんだ。みんながもう一度ジン・ブロッサムズでありたいって気持ちになったのが、ちょうど今なんだよ」

 ニュー・イヤーズ・ライブで一時的に再結成されたことは今までにもあったが、今回は本物だ。嬉しいことに、今年は新作の録音まで予定されているという。ツアーも好評だし、バンドが完全に復調した今、果たしてどんな音を届けてくれるのか、待ちきれない思いである。

 さて、昨年はその再結成に併せて、注目すべきリイシューが相次いだ。まず、インディーからリリースされたきり、長く入手困難が続いていたデビュー作『DUSTED』が再発されている。全12曲のうち、7曲が再録音され、メジャー・デビューEP『UP AND CRUMBLING』や『NEW MISERABLE EXPERIENCE』に収録されているので、僕もそれほど真剣に探すことなく今日に至り、今回初めて聴くことになった。一曲目は「Lost Horizons」か、『NEW〜』と一緒だねえなどとのん気な気持ちで聴き始めたら、これがもう全然別の曲。というのは大げさにしても、聴き慣れた『NEW〜』版に比べると、ものすごく軽いのだ。後の肉厚、骨太ヴァージョンにすっかり条件付けされていたので、余計にそう感じたのかもしれない。これがああなるのか、ジョン・ハンプトンってやっぱりプロだなあと逆に感心してしまった。では、印象が良くなかったのかというと、実際は全くその逆で、何と言うか、後のヴァージョンはそれでずばり好みなんだけど、こちらにはアマチュアっぽい情熱というか、清々しさというか、爽やかな匂いが充満していて、ああ、こちらもいいなあと思った次第。個人的には初期クリエイションやチュー・チュー・トレインとの共通点が強く感じられて、妙に新鮮だった。考えてみれば彼らはもともと80年代後半のバンドだったわけで、それも当然なのかもしれない。それにしても、アルバム最後の「Fireworks」も名曲だし、「Lost Horizons」「Hey Jelousy」「Found Out About You」など、初期代表作のほとんどを書いていたダグ・ホプキンス(93年に自殺)ってほんと才能ある人だったのに、惜しい人を亡くしたよね。そのショックから立ち直って、バンドを続けている今のメンバーもすごいけれど。

 続いては、『NEW〜』のデラックス・エディション。二枚組のうちディスク2はまるまるレア・トラックを収録している。前述の『DUSTED』からは「Fireworks」をはじめ、ヴァレンズエラの書いた「Something Wrong」など三曲を収録。プロモ・オンリーだったEP『SHUT UP AND SMOKE』全曲収録もうれしい。アレックス・チルトン関係のカヴァーでは既発表のボックス・トップス「Soul Deep」ばかりか、幻に終わったビッグ・スター・トリビュートから「Back of A Car」まで聴けるとはありがたや……。さらに未発表の「Number One」にも驚いた。何とラットルズのカヴァーではないか。他にもライブやテイク違いがぎっしり詰まっているので、もう持っている人もこれは当然買いでしょう。

 また、解散後のメンバーがそれぞれ活躍を続けていることは、00年4月号でも触れた通り。中でも「Allison Road」「Highwire」など僕が大好きなジン・ブロッサムズ・ナンバーを書いているロビン・ウィルスンは、ガス・ジャアインツ名義の『FROM BEYOND THE BACK BURNER』(99年)、ポッピン・ウィリーズ名義の『THE POPPIN' WHEELIES』(01年/本誌01年8月号本コラム参照)と、常に話題を提供してくれていたし、スコット・ジョンソンはロジャー・クライン&ザ・ピースメイカーズに参加し、健在をアピールしていたのだが、ロビンと並んで、バンドのもう一方の核であったジェシ・ヴァレンズエラについては、せっかく結成したロー・ワットもアルバムを残さずに空中分解し、あまり情報が伝わってこなかった。今回よく調べてみると、裏方の仕事は随分こなしていたようで、97年から00年にかけて、ジュディ・コリンズ、スティーヴィー・ニックスらのような大物から、同傾向のトミー・キーン、レンブランツまで、さまざまなバンド/アーティストに協力してきている。

 この流れは以降もしばらく続き、01年にはミネアポリスのSSW、スーザン・サンドバーグのセカンド『DOWN COMES THE NIGHT』をプロデュース。02年には、日本でも二枚のアルバムがPヴァインから発売されているアストロパピーズの三枚目『LITTLE CHICK TSUNAMI』に参加し、ケリー・ライアンと二曲を共作。続いてアリゾナの友人バンド、ピストレロスの新作にも協力。さらに11月にはカナダに赴き、オッズのメンバーとレコーディング……と、交友関係の幅広さには驚かされるばかり。しかし、これだけではやはり納得できないのがファン心理というものだ。というのも、僕にとってヴァレンズエラは何より「Mrs. Rita」「Cajun Song」「I Can't Figure You Out」など、やはり大好きなジン・ブロッサムズ・ナンバーを書いた人物であり、アルバム一枚くらいはすぐにリリースできる才能と技量と人脈を持っているはずなのだから。それなのに何故GB解散以降リーダー・アルバムの一枚も出ていないのか。人のアルバムもいいけど、一つ自分のも頼みますよ……。

 という願いが届いたのかどうか、ヴァレンズエラは、昨年九月に待望の初ソロ『TUNES YOUNG PEOPLE WILL ENJOY』をリリースしてくれた。早速入手したところ、これがまた期待通りの素晴らしさ! ゲストにはトミー・キーン、共作者にはスーザン・サンドバーグ、ケリー・ライアン、ビル・ロイド(!)、プロデューサーにはジョン・ハンプトンを迎え、過去の交流を集大成して作り上げられた内容は、ジン・ブロッサムズ直系の、力強くアーシーでちょっと物悲しい王道ポップ・ソング満載なのだから、文句のつけようがない。待っただけのことはありました。これもファンは必聴です。

 最後に、これはまだ現物を確認していないのだが、昨年の11月にジン・ブロッサムズは初のDVD『JUST SOUTH OF NOWHERE』を発表している。今のところ日本発売の予定はないようだけれど、これは惜しい。日本のファンは来日予定が一度流れてしまった悔しさを未だに覚えているのです。関係者の皆さんは発売と、来日の可能性を是非検討してみて下さいね。

1)GIN BLOSSOMS/Dusted (Bakman Records/BAKMAN0191)1989/2002

2)GIN BLOSSOMS/New Miserable Experience(Deluxe Edition) (A&M/069 493 406-2)1992/2002

3)JESSE VALENZUELA/Tunes Young People Will Enjoy (Gabriel Records/no number)2002 *www.jessevalenzuela.comで入手可能

4)GIN BLOSSOMS/Just South of Nowhere /DVD/2002