まずは前号の訂正から。アトランタの新人といって紹介したパット・ウォルシュですが、実際はサウス・キャロライナ出身でした。ウェッブ・サイトを確認したら、89年にペニーズというバンドで一枚アルバムも出していたようなので、新人という記述も当たりません。もう一つ、ショーン・マリンズのプロデュースはラス・ファウラーの方で、ロブ・ギャルはゲスト参加のみでした。確認を怠った当方のミスです。以上お詫びして訂正させていただきます。

 さて、本誌前号で特集されていたジョージ・ハリスンだが、一足遅れて遺作を聴いた。一言でいえば、しみじみとした佳作である。改めて偉大な才能が失われてしまった事実を痛感する。全作揃えているわけではないし、本誌執筆者諸氏に比べるとそれほど熱心なファンというわけでもないけれど、『ブレインウォッシュド』は素直にいいなと思えるアルバムだった。再度注目が集まる中、タイミングよくハリスンへのトリビュート盤がリリースされているので、紹介しておきたい。

 メジャーでも同種の企画が進行中と伝え聞くが、この『HE WAS FAB』は完全なインディー盤。インターネットではノット・レイムを通して購入できる。ポップ・ファンにはお馴染みのジャム・レコーズとジェラシー・レコーズが共同でリリースしており、前者はミュージシャンでもあるジェレミー・モリスが主宰、後者は同じくミュージシャンであり、ブランブルズ名義でアルバムをリリースしているティム・アンソニーが主宰するインディー・レーベルだ。企画の中心はティム・アンソニーのようで、ライナーにも愛情溢れる一文を寄せている。

 ジーン・クラーク(00年7月号本コラム参照)、ポール・マッカートニー(02年1月号)、ジェフ・リン(同)、と、今までにこのコラムで取り上げてきた大物トリビュート盤と同じように、最近の米国ポップ・バンド(一部スウェーデン)をメインにした参加バンドの顔ぶれがうれしい。例えば以前紹介したことのあるクリス・リチャーズ(01年12月号参照)、先頃来日したばかりのロラス(00年9月号)、パブ・ロック・ファンにお推めしたいアイタン・マースキー(00年8月号)、今年出た三枚目も好評のブルー・カートゥーン、ビートルズ関連ならやっぱりこの人でしょうのジェイミー・フーヴァー(スポンジトーンズ)、久しぶりに名前を見ましたトウェンティ・セント・クラッシュ等、さっき名前を挙げた三枚のトリビュート盤に比べると面子的にはやや地味かもしれないけれど、インディー・ポップ界ではそれなりに名前の知られたバンドが並んでいて、このシーンにちょっと興味を持ち始めた人にとっては、ちょうどいい足がかりにもなりそうだ。

 内容的には、よくいえばストレートな愛情を示したナンバーが多い。逆に、悪くいえば真っ直ぐすぎてもの足りないということにもなるだろう。もっともこの辺りの評価は個人の嗜好によって大きく変わるので、実際には聴いて判断してほしいところ。個人的には、あの「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」をラモーンズ風に料理したドロウナーズ(スウェーデンのパワー・ポップ・バンド。初期作は日本でも発売され、三枚目にはケン・ストリングフェロウがゲスト参加。今年新作が出たばかり)の頑張りと、「ユー」を取り上げたリサ・マイコルズ(LAのポップ・バンド、マスティケイターズのメンバー。ソロも一枚あり)のさりげない渋さが印象的だった。

 ただ一つ、選曲については不満がある。というのは半数以上がビートルズ・ナンバーなのだ(詳しくはリスト参照)。確かに「タックスマン」や「サムシング」はビートルズというよりハリスンの代表作だという見方もわかる。だが、本作のようなインディー盤を探してまで買おうという人たちの中には、インディー・ポップ・ファンと同時に、熱心なハリスン・マニアがかなりの比率を占めるはず。僕ですらかなりの違和感を感じているくらいだから、彼らがこのセレクションを見たら、正直がっかりしてしまうことだろう。ここで僕が言いたいのは何もマニアに媚を売れということではない。ハリスンの名前によりある程度売れることは間違いないのだから、企画側もバンド側ももっと冒険してもよかったのではないか、ということなのだ。彼のソロ・キャリアに注目が集まっている今しかできないことはたくさんあると思う。例えば、ソロ時代のナンバーに限定して、埋もれた名曲にスポットを当てるとかね。それなのに、全十九曲中、ソロのナンバーはわずかに七曲(『オール・シングス・マスト・パス』から四曲、『ジョージ・ハリスン帝国』から一曲、『クラウド・ナイン』から二曲)。さすがにこれはちょっと偏りすぎというか、収録曲の半数がビートルズのナンバーだった、アップル時代のハリスンのベスト盤を初めて見たときと同じような居心地の悪さを感じてしまう。

 もう少し具体的に説明すれば、『慈愛の輝き』や『ゴーン・トロッポ』にだっていい曲はたくさんあるのに(「ブロウ・アップ」とか「ザッツ・ザ・ウェイ・イット・ゴーズ」とか)ということである。本作の選曲はあまりに真っ当すぎて、世間一般のハリスン像から逸脱する部分がほとんどない。内容的にひねったカヴァーがあればそれでも面白くなるのだが、ドロウナーズ以外はほとんど直球勝負なわけだから、マニアでなくとも食い足りない気分になるのはしかたがないではないか。これだけ目利きのポップ・バンドが集まったのだったら、せめてもう一工夫ほしかった。「ウェイク・アップ・マイ・ラブ」なんて、アレンジを少しいじれば痛快なパワー・ポップ・ナンバーになりそうなのに……。また、ポップ系でまとめるというコンセプトからはずれてしまうが、ハリスンのアーシーな側面を強調する一つの方法として、最近のルーツ・ロック界から数組参加を募ると幅が広がって面白くなったかもしれない(個人的には新作でハリスンっぽい佳曲「Let Down」を披露していたウィル・キンブロウ、もしくは渋いところで、今年のセカンドも最高だったボブ・イーガンあたりを大推薦)。

 いろいろ勝手なことを書いたが、おそらくバンドに一任した結果の選曲だろうから、あまり企画者に文句を言っても仕方がないし、そういう不満が出るは承知のうえ、ビートルズを知らない若者向けにあえてビートルズ時代重視の方針をとったという考え方もできる。もっとうがった見方をすれば、こういった認知のされ方がいかにもハリスンらしいと言えなくもない。ここは素直に各参加バンドのトリビュート魂(?)を楽しむのが正解だろう。  今回は他にビーティフィクスの新作、アロガンスの未発表曲集、P・J・オコネルのセカンド・ソロなどを紹介するつもりだったが、もう字数がない。次号では今年の個人的注目作総まとめをする予定なので、またそのときにでも。

曲目・演奏者リスト

1. While My Guitar Gently Weeps(The Drowners)

2. You Like Me Too Much(Chris Richards)

3. You(Lisa Mychols)

4. If I Needed Someone(Ed James)

5. Only A Northern Song(Jamie Hoover)

6. I Need You(The Lolas)

7. What Is Life(The Brambles)

8. My Sweet Lord(Glowfriends)

9. Here Comes the Sun(Phil Angotti & The Idea)

10. Don't Bother Me(Eytan Mirsky)

11. When We Was Fab(Wendy IP)

12. I'd Have You Anytime(Champale)

13. It's All Too Much(Jeremy)

14. Something(Jason Byrd/Jamie Hoover)

15. I Want To Tell You(Blue Cartoon)

16. Old Brown Shoe(The Marlowes)

17. Art of Dying(John Brodeur)

18. Devil's Radio(Sparkle*Jets UK)

19. Taxman(Twenty Cent Crush)

1)V.A./HE WAS FAB: A LOVING TRIBUTE TO GEORGE HARRISON (Jam Records/Jealousy Records/JRCD4001)2002