わざわざここで取り上げるまでもなく、巷で話題になっているのは間違いないマシュー・スウィートの初期作品集。ソロ初期のデモばかりかバズ・オブ・ディライト時代の曲が五曲も入っているのがうれしい。しかも何と三曲は未発表ナンバーではないか(うち一曲はチュー・チュー・トレインでお馴染みの名曲「Briar Rose」)。どうせならEP全六曲にこの三曲を加えて完全収録にすればよかったのに……(ついでにクリス・ステイミーと組んだジャックスの音源も。これはステイミーに権利があるのかな?)。そういえばこの人その後NYやLAに移ってどんどんメジャーになっていったけれど、最初はアセンズの注目株だったんだよね。DBから出ていたバズ・オブ・ディライトのEPを買ったのはいつのことだっただろう。うーん、懐かしい……と回顧モードに入ってはたと気がついた。最近の若い人はDBなんて知らないのではないか。これは是非一度取り上げておかなくてはなるまい。というわけで、今回はDBのお話から。

 もともとダニー・ベアード(ジョージア・サテライツのダン・ベアードとは別人)がB−52'sのシングルをリリースするために自らの頭文字を取って始めたというDBは、ジョージア州アトランタをベースにしたインディー・レーベル。80年代における米南部インディー・シーンの拠点であり、ガダルカナル・ダイアリー、スウィミング・プール・Qズ、フェッチン・ボーンズ、アンクル・グリーン、今年の春にキャピトル時代のアルバムが再発されたレイヴァーズなど、ここから巣立ってメジャーに移っていったバンドも多い。B−52'sやR.E.M.によって注目を集めていた南部シーンの広がりを伝えてくれる貴重なレーベルだった。他の所属バンドにはパイロン、ラブ・トラクター、ウィンドブレイカーズ等、ジョージア州からミシシッピ州まで南部全体を広くカヴァーしているのが特徴の一つ。音楽的には、サイモン&ガーファンクルのナンバーをパンク風に料理した『DIG?』で知られるクーリーズのように個性的なバンドからレイヴァーズのようにシンプルなギター・バンドまで、結構さまざまなタイプが混在していた。全盛期は82年から87年あたりか。90年代に入ってからもビル・ロイドの再発やジョディ・グラインド(今やブラッドショットの看板でもあるケリー・ホーガンが在籍していた)のデビューなど、いくつかの話題はあったものの、所属バンドの失速と共に勢いがなくなり、94年頃から名前を聞かなくなってしまった。たぶんほとんどの作品は廃盤だが、前述のバズ・オブ・ディライトを含めて、このところDB関係の見逃せないリイシューが相次いでいる。

 リンダ・スタイプ(マイケル・スタイプの妹、後にヘッチ・ヘッチイ)とリンダ・ホッパー(後にマグナポップ)、二人の女性を中心にしたOH−OKもアセンズ発DB所属バンドの一つだった。出たばかりの『THE COMPLETE RECORDINGS』は、二枚のEP全曲にライブや未発表曲を加え、バンドの全貌を明らかにしてくれた価値ある一枚だ。マシュー・スウィートも一時期参加していたため、ファンは要チェック。とはいっても、音楽的には脱力したB-52'sといった趣の淡々としたナンバーがメインなので、そのあたりは苦手という人はご注意を。

 冒頭で触れたマシュー・スウィートの初期作品集は詳細な解説も売りの一つだが、そのライナーを担当しているのがジェフ・カルダー。と言ってもピンと来る人は少ないだろうね。アトランタに拠点を置くオーソドックスなポップ・バンド、スウィミング・プール・Qズのフロントマンを二十年以上務める大ベテランである。78年に結成されたスウィミング〜はDBからデビューした後A&Mに移り『SWIMMING POOL Q'S』(84年)『BLUE TOMORROW』(86年)といった佳作を発表している。紅一点のアン・リッチモンド・ボストン(90年にソロ一枚あり)が担当するヴォーカルも印象的だった。しばらく活動休止状態だったようだが、実は数年前からライブを中心に復活しており、来年早々には新作も予定されているという。昨年リイシューされた『DEEP END』はDBからのデビュー作。初期の瑞々しさを楽しめるのはうれしいけれど、次はA&M時代の再発にも期待したいところ。

 スウィミング〜以外にも、ガダルカナル・ダイアリーやラブ・トラクターまで復活し、さらに各種リイシューと、全盛期のDBファンには驚きの日々が続くここ数年だが、90年代から現在にかけて一番熱心に活動を続けているDB残党、ロブ・ギャル(元クーリーズ/オットマン・エンパイア他に参加)の名前も忘れてはいけない。ライト・アズ・レイン、ビッグ・フィッシュ・アンサンブル、ロッカ・ティーンズような地元バンドのプロデュースを数多く手がける他、新しいところでは6Xのメンバーとしてギターを担当。ブレンダン・オブライエンほどではないとしても、アトランタの顔役とでも言えそうな存在に成長してきている。

 最近の南部勢では個人的に注目している二人−−パット・ウォルシュとポール・メランコンのどちらにもロブ・ギャルが絡んでいるのは、こうした流れを考えるとそれほど不思議ではないはずだ。

 では最後にこの二人を紹介して締めくくろう。まずサウス・カロライナ出身のパット・ウォルシュ(元ペニーズ)はマシュー・スウィートやマイケル・ペンにも通じる卓越したポップ・センスの持ち主。ユマジェッツのメンバーも参加した97年のEPはブライアン・ホルムズ(アトランタの古株ポップ・バンド、プロデューサーズのドラマー)、昨年の秀作『EGGHEAD』はラス・ファウラー(エンジニアとしてダン・ベアード、ピート・ドロッジ、ユマジェッツ、ストーン・テンプル・パイロッツ等を手がける)がそれぞれプロデュースを担当しており、後者にはロブ・ギャルもゲスト参加。80年代後半から活躍するベテランだけに、南部シーンの人脈をうまく生かしたアルバム作りは手馴れたもの。

 もう一人、アトランタのポール・メランコン(元ラディアント・シティ)にも要注目。好評だったデビューEP『Slumberland』(00年/ポール・マッカートニーの「アナザー・デイ」カヴァーあり)に引き続いて発表した最新作『CAMERA OBSCURA』は前作同様ロブ・ギャルのプロデュース。何とELO調のナンバー(題名はずばり「Jeff Lynne」!)まで披露して、70年代直系のメロディ・センスを生かした、軽やかなポップ・ワールドに一層磨きをかけている。新作はエイミー・レイ(インディゴ・ガールズ)の主宰するレーベルからのリリースだ。

 いずれにしても、彼らがこうして佳作を発表し、ローカル・ベースで音楽活動を続けている背景には、有形無形の支援があるはず。そのうちの一つにDBの開拓してきたインディーの土壌があるとしたら、アルバムという目に見える部分だけでなく、目に見えない部分にこそ、DBの残した最大の遺産があるのかもしれない。

1)MATHEW SWEET/To Understand;The Early Recordings Of Mathew Sweet (Hip-O;A&M/314 556 222-2)2002

2)OH-OK/The Complete Recordings (Collectors' Choice Music/CCM293-2)2002

3)SWIMMING POOL Q'S/Deep End (DB/55)1981/2001

4)PAUL MELANCON/Camera Obscura (Deamon/DAM19036)2002