今回は最近リリースされた作品の中からお気に入りルーツ・ポップ・アルバムを集めてみました。ルーツ・ポップと言ってもピンとこない人が多いかもしれません。そもそも私自身漠然としたイメージしか持っていないので申し訳ないのですが、しいて定義するならカントリー、フォークなどのルーツ・ミュージックから影響を受けながら明快で親しみやすいメロディを持った音楽とでも言いましょうか。軽妙で、どことなくノスタルジック。土臭さはあるもののそれほど強くなく、タフなアメリカン・ロックやエネルギッシュなパワー・ポップに比べるとかなりマイルド。とはいっても本来のルーツ・ミュージックほど渋すぎず、適度なスピード感もあり……悪く言えば中途半端ということになるかもしれませんが、よく言えば中道の魅力を持った、アメリカならではのポップ・ミュージックというのが自分なりのイメージです。

 古くは初期のバーズやNRBQから、80年代のマーシャル・クレンショウやマーティ・ジョーンズあたり、最近ではぐっとマイナーになりますが、ウィル・キンブロウやマイク・ローゼンタールまで、アメリカにおけるルーツ・ポップの系譜は絶えることなく続いており、このコラムでも何度となく取り上げてきました。一般的にはオルタナ・カントリー、もしくはアメリカーナの範疇で語られることが多いとはいえ、今回紹介するアルバムに泥臭さやカントリー臭は薄く、むしろポップ・ファン向きではないかと思っています。ルーツ・ロックは苦手という人も偏見を捨てて、一度耳を傾けてみてはいかがでしょう?

 前置きはこのくらいにして紹介に移ります。まずは元ムーヴィー・スターズのジル・オルスンから。

 オクラホマ州出身の彼女はカントリー好きの両親の許で育ち、パッツィ・クラインやハンク・ウィリアムス、グラム・パーソンズなどに影響を受けながら、ボブ・ディラン、ジョーン・バエズら、60年代フォークにも傾倒。フォーク・トリオ"The Southearted"で活動中の85年にトリオごとバークリーへと移り住み、やがてサンフランシスコのアコースティック・ポップ・バンド、ムーヴィー・スターズに参加。紅一点のメンバーとして注目を集めることになる。ムーヴィー・スターズは『HECK-OLA!』(89年)『HEAD ON PLATTER』(90年)の二枚を残して解散してしまうが、96年に初のソロ・アルバム『THE GAL WHO WOULD BE KING』をリリース。97年から現在までオルタナ・カントリー・バンド、レッド・ミートの重要メンバーとして活躍する一方ソロ活動も続けており、今年の六月にファン待望のセカンド『MY BEST YESTERDAY』が届けられた。

 往年のジャッキー・デ・シャノンやバーズを思わせるナンバーを中心に、フォーク・ロックありポップス調あり、郷愁に彩られた内容がオールド・ファンにはたまらない。60年代を現代風に再生しながら、しっかりと自己主張しているあたりは手馴れたもの。おそらくレッド・ミートからの流れでプロデュースを手がけたデイヴ・アルヴィン、随所で味のあるギターを聞かせるマイクル・モンタルト等、サポート陣の充実も見逃せない。キュートで張りのあるヴォーカルは相変わらず魅力的だし、少し毛色は異なるが、シド・ストロウやエイミー・リグビーといったベテラン女性シンガーのファンなら聞いて損はない佳作である。

 続いてはワシントンDCを拠点にするケネディーズ。ピート&モーラのケネディ夫妻を中心にしたユニットで、ケネディーズ名義では『LIFE IS LARGE』(96年)が第一作だが、その前に夫婦連名による『RIVER OF FALLEN STARS』(95年)があり、さらにピートにはソロ名義のインスト・アルバムを発表していた過去がある。『LIFE IS LARGE』はロジャー・マッギン、スティーヴ・アール、ピーター・ホルサップルといった豪華ゲスト陣も話題になったけれど、中心となっているのは爽やかでクリアなモーラのヴォーカルと、ピートの的確なサポートという、ぴったり息のあった二人のコンビネーションであり、フォーク・ロックとギター・ポップの狭間を軽やかに駆け抜けるソングライティングの冴えは、数多い同系等のバンドの中でもトップ・クラスと言っていい見事な出来ばえを誇っていた。

 その後も『ANGEL FIRE』(98年)『EVOLVER』(00年)『POSITIVELY LIVE!』(01年)と順調に作品をリリースし、ケネディーズとしては今度の『GET IT RIGHT』が五作目となる。前々作の『EVOLVER』が作風を広げた結果、どこか焦点の定まらない部分を残してしまったのに比べ、新作では原点に立ち戻り、自然体の持ち味を生かした好盤に仕上がっていると言えそうだ。特に気に入ったのはポップなメロディに磨きのかかった名曲「Angel And You」と初期のマーシャル・クレンショウばりにオールド・スパイスをふりかけた「Why, Winona, Why?」の二つ。二人そろってツアーやレコーディングに参加し、古くから交流のあるナンシー・グリフィスがゲストでヴォーカルを披露している。

 これ以外にも、ゴー・ゴー・マーケット(ステファニー・フィンチ)やマリー・マクラウド等、女性陣の頑張りが目を引く中、男性陣に目を移すと、こちらも力作が目白押し。中でもケンタッキーのベテラン・ロッカー、ティム・クレッケルの近年における快進撃には要注目だろう。ソングライターとしてもドクター・フィールグッド、ジェイソン&ザ・スコーチャーズ、キム・リッチー、パティ・ラブレスなど、多彩なアーティストに曲を提供しているクレッケルだが、活動歴は古く、70年代にはビリー・スワンやジミー・バフェットらのバックを務め、79年に『CRAZY ME』でデビューを飾っている。以後、スラッガーズ名義の『OVER THE FENCE』(86年)およびセカンド・ソロ『OUT OF THE CORNER』(91年)をリリース。ここまでの作品も悪くはないけれど、クレッケルが本領を発揮するのは、私見では90年代後半に入ってから。

 新バンド、グルーヴビリーズを率いて発表した『L&N』(98年)『UNDERGROUND』(99年)の二枚は、一皮向けた武骨な肌触りと軽快なポップ・センスを組み合わせ、ドライブ感たっぷりのロックンロールをメインにした傑作だった。新作『HAPPY TOWN』でも路線は変わらず。50代とは思えない若々しい情熱とベテランらしい渋さがうまくブレンドされていて、いい味を出している。  最後にもう一枚。元ギア・ダディーズのマーティン・ゼラーがスタジオ作としては四年ぶり、五枚目となる新作を発表してくれた。ルーツ・ポップというよりは個性派SSWといった方が正解だろうし、独特のダミ声とクセのある唱法は好悪の別れるところだが、シンプルな中にタメを効かせたソングライティングは健在。地味だけど、好きなんです。

 次回は少し趣を変えて、奇跡の来日を果たしたルビナーズのインタビューを。お楽しみに。

1)JILL OLSON/My Best Yesterday (125;Innerstate/125-004)2002

2)KENNEDYS/Get It Right (Jiffyjam/no number)2002

3)TIM KREKEL/Happy Town (Free Falls Entertainment/FFE7025)2002

4)MARTIN ZELLAR/Scattered (Owen Lee/OLR3941)2002