日本における洋楽紹介の偏りに常日頃不満を感じている人は多いと思う。かくいう私もその一人だが、新作ばかりでなく再発についても、これがリイシューされるならあれだって……と思ったことは一度や二度ではない。まあ、そうした場合偏っているのは自分の趣味の方だということは十分自覚しているから、言っても仕方がないことだけれど、最近で言えば、キャピトルのレイヴァーズ一挙二枚再発。これはうれしかった。でも日本盤は出ていない。確かにリリースしても元は取れないだろうから、採算を重視するメジャーが二の足を踏むのはわからないでもない。それにしてもである。60年代、70年代のアルバムが本国以上にディープなところまで掘り起こされているのに比べて、あるいは同じ80年代でも英国ネオアコ勢の人気に比べて、80年代の米国勢は相変わらず冷遇されている。以前IRSコレクションと題して、スリー・オクロック、ビート・ロデオ、レッツ・アクティヴに加えて、IRSから再発されたdB's、キャンパー・ヴァン・ベートーヴェン等のリリースを某所に提案したことがあったけれど、あっさり没だったし……。ワイルド・シーズやウォーキング・ウォウンデッドをマスターピースとして再発した独Taximを見習えとまでは言いませんが、スクラフィ・ザ・キャットとかウィンター・アワーズとか、見直されてもいいバンドはたくさんあるんですがね。

 前置きが長くなってしまった。そんな状況の中でも、頑張っているインディー・レーベルがいくつかあるので、今回はそれを中心に。まずは昨年のレーン・スタインバーグ『コレクション』に続く快挙。エム・レコードからついに登場したウィンドのベストを紹介しよう。

 本誌01年8月号でも書いたように、ウィンドは80年代に活躍したNYのポップ・バンド。レーン・スタインバーグとスティーヴン・カッツのソングライティング・チームを軸にフロリダで結成され、後にNYへと拠点を移した。80年代に残したアルバムは全部で三枚。このベストにはその全てから選び抜かれた十一曲に加え、何と九曲もの未発表デモを収録。60年代の英国ビート・ポップとアメリカン・ポップスの伝統を受け継ぎながらモダンな味付けを施したバンドの持ち味がよく伝わってくる。もっとヴァラエティに富んだ感じでまとめることも可能だったと思うけれど、ムーディーなナンバーを重視した選曲によって統一感が出ているし、これも一つの見識だろう。とにかくコンパクトな形でウィンドの音源をまとめてくれたことに感謝!

 続いては五月のプリックスに続いてエアー・メイルがまたもやってくれました。プリックスのメンバーでもあり、アレックス・チルトンの「Bach's Bottom」セッションでも重要な役割を果たしたジョン・ティヴェン率いるヤンキース、唯一のアルバム『ハイ・アンド・インサイド』(78年)が再発されたのだ。

 エアー・メイルはクラウド・イレヴン、ナインズなどの最新ポップ・アルバムを紹介すると同時に、70年代以降の埋もれたメンフィス・ポップに光を当てる作業にも力を入れており、今回のリイシューは一連のヴァン・デューレン再発と並ぶ、貴重なもの。南部のR&Bに根ざしながら、シャープな切れ味とワイルドなエネルギーを加味した、ティヴェン独自の泥臭いポップ・ワールドがじっくりと楽しめる。

 特筆すべきは、アーサー・アレキサンダーやフォー・トップス(「Something about You」)のカヴァーからもわかるR&B/モータウン・テイストだろう。ティヴェンの仕事を丁寧に追いかけていけば、90年代に入ってから、彼がいくつかの重要なトリビュート盤をプロデュースしている事実に気がつく。例えば93年にリリースされたシャナーキーのトリビュート・シリーズ。オーティス・レディング、カーティス・メイフィールド、ドン・コヴェイの三人にスポットを当てたこのシリーズで、ティヴェンは企画監修を担当し、演奏にも参加している。中でもグレアム・パーカーからスミザリーンズ、フランク・ブラック、ジョン・スペンサーまでを起用したレディングへのトリビュート盤は顔ぶれと視点のユニークさが話題になったものだが、過去の遺産と現代的なアプローチをミックスさせ、一つの形にまとめあげる手法への萌芽は既にヤンキース時代にあったことがよくわかる。

 94年に発表された、ずばりアーサー・アレキサンダーへのトリビュート『ADIOS AMIGO』でその総合プロデューサー的な手腕は頂点に達し、96年にはその勢いを買ってグレアム・パーカーへのトリビュート『PISS & VINEGAR』も編集。ニール・キャサル、ヘルス&ハピネス・ショウなどNYの気鋭を中心にした後者は、私が最初にティヴェンの名前を意識した盤だけに思い入れが大きい。トリビュート編集だけでなく、97年にドニー・フリッツの復帰作『EVERYBODY'S GOT A SONG』のプロデュースもティヴェンは担当。オールド・ファンから大きな反響を呼び、国内盤もリリースされた同作だが、それもティヴェンの実績と助力があればこその成功だったのではないかと密かに思っている。今回の再発を機に、音楽的遺産の継承に対するティヴェンの情熱と、豊かな知識に裏付けられたユニークな裏方作業にもっと注目が集まることを願う次第だ。

 後半は駆け足で。現代の良質なアメリカン・ロックからウェスタン・スウィングまでを幅広く紹介し、一部のルーツ・ロック・ファンから注目を集めるバッファロー・レコードからティム・キャロルのアルバムがリリースされている。キャロルについてはこのコラムでも何度か触れているので(00年10月号、02年5月号)、そちらを参照してほしい。今回のアルバムは1st『NOT FOR SALE』(00年)と2nd『FREE AGAIN』(01年)をそのままカップリングしたお買い得盤。タイムラグはほとんどないのだが、これもまた見逃せないリイシューと言っていいだろう。ナッシュヴィルのアナザー・ルーツ・サイドを体験するにはもってこいの本作。ありふれたアメリカン・ロックと切り捨てるのは簡単だけれど、正攻法が好きな人にはたまらないはず。個人的に改めて支持を表明しておきたい。出たばかりの新作『ALWAYS TOMORROW』もお薦め。

 最後に編集盤を一枚。今までにもインディー・ベースのアーティストを集めた三枚の編集盤でお馴染みのレイジー・キャットから新しいコンピレーションが発売された。最新の米ルーツ・ロック・シーンに焦点を当ててはいるものの、括りはゆるやかで、幅広いファンに受け入れられそうな内容に仕上がっている。前述のティム・キャロルをはじめ、トッド・ティーボ、ニール・キャサル、ウェイコ・ブラザーズ等、シーンを代表する存在がずらりと並んでいるので、興味はあるけれど、どこから聴けばいいのかわからないという人には最適の編集盤だ(なお、担当させていただいた解説を補足しておくと、ゴー・ゴー・マーケットとモデル・ロケッツはそれぞれ最近アルバムをリリースしています)。

1)THE WIND/The Best of The Wind 1979-1986 (エム・レコード/EM1016CD)2002

2)THE YANKEES/High 'n' Inside (エアー・メイル/AIRCD-048)2002

3)TIM CARROLL/Good Rock from Bad (バッファロー/BUF-109)2002

4)V.A./Have a Piece of American Pie (レイジー・キャット/MEOW07CD)2002