僕がジョン・マクマランの名前を初めて覚えたのは95年のこと。『イエロー・ピルズVol.3』に収録されていた曲がきっかけだった。  この連載でも何度か触れているため、またかと思われるかもしれないが、当時この『イエロー・ピルズ』や『HIT THE HAY』といったコンピレーションから教わった事柄は僕のポップ・ミュージック再認識にかなりの影響を与えており、ある意味でライターとしての自分を支えるルーツのようなものだから、避けて通るわけにはいかないのである。教えられたと僕が勝手に思っていることはいくつかあるけれど、古くは70年代から現在にいたるまで、人知れずポップな音楽を作り続けているミュージシャンがこれほどいたのかという純粋な驚きは、筆頭に挙げなくてはならないだろう。

 『イエロー・ピルズ』のバディ・ラブ、フラッシュキューブス、マーク・ジョンソン(Vol.1)を始めとして、カイル・ヴィンセント、パーセノン・ハクスリー、レイン・スタインバーグ(Vol.2)、マイケル・ガスリー、ブラッド・ジョーンズ(Vol.3)、デヴィッド・グレアム、モッド・ラング(Vol.4)、あるいは『HIT THE HAY』のティム・キャロル、アイディア、レイ・メイソン、クリス・リチャーズ(ヒッポドローム)、ジム・ダイアモンド(ビートソニックス)等、「未知との遭遇」リストはどこまでも続く。メジャーとは別の場所で、明快なポップ性を追い続けた彼らの存在が、流行を追うばかりの音楽シーンに嫌気がさしていた僕をどれほど勇気づけてくれたことか。

 アンダーグラウンドといえばアヴァンギャルドで難解という、一般的なイメージが覆されていく驚きはやがて快感に転じ、さらには彼らの才能にまるで見向きもしない業界への怒りへと発展していった。その頃作っていたファンジンで、「Great American Pop」と題した特集を組んだのも、そうした状況へのいらだちが根底にあったことは間違いない。流通や情報の整備など、解決しなくてはならない問題はまだ多いとはいえ、その後状況は随分よくなってきたように思える。例えば先月号で触れたフラッシュキューブスの来日公演、あるいは前々号の「ビートルズの遺伝子」特集におけるUSポップ・バンドの占める割合等、本誌周辺だけかもしれないが(苦笑)、新旧併せたアメリカン・ポップがようやく市民権を得つつあるという気がしているのだが、どうだろう?

 改めてこんなことを長々と書いている理由の一つは、現在のUSポップ・ミュージックを支える基盤は一朝一夕に出来上がったものではないということを知ってほしいためでもある。70年代から活躍するベテランの重要性はもちろん、90年代の各種編集盤、あるいは「Audities」や「Amplifier」といったファンジンの後押しがなければ、今回紹介するジョン・マクミューランのような才能も埋もれたままで終わってしまい、大輪の花を咲かせることはなかったかもしれないからだ。

 前置きはこのくらいにして、本題に移ろう。ミズーリ州ケネットに拠点を置くジョン・マクミューランは、63年生まれ。フールズ・フェイスやエルヴィス・ブラザーズの前座を務め、地元では結構人気のあったというトレンドの中心人物として活躍し、ミズーリ大学に進学したばかりの82年に『TREND IS IN』というアルバムを発表している。結構長い間探しているにもかかわらず、未だに入手できないため、内容を紹介できないのは残念だが、曲は全てマクミューランが担当しており、ファンにとっては興味深いコレクターズ・アイテムと言えそうだ。

 残念ながらアルバム一枚を残してトレンドは解散。マクミューランは一時音楽活動を休止し、ミシシッピ州の法律学校に通うことになった。そこで小説を書いている友人を得て、メロディー中心だったそれまでのソングライティングに加え、歌詞にも気を配るようになったのだという(確かに「ビデオは嫌い、TVも嫌い。大好きな野球チームのメンバーもみんな嫌い。見てきたことは全部退屈」と語る厭世家?を歌った「That's What Dick Dawson Said」あたりからはかなりユニークな視点がうかがえる)。

 こうして曲作りはしていたものの、もっぱら法律家としての自立に忙しかった十年間を経て、音楽への興味を再燃させたマクミューランは、90年代の初めからデモ・テープ作りにいそしむことになる。主な録音場所はナッシュヴィルやメンフィス。最初はまた随分遠くまで出かけたものだと思っていたが、地図をよく見るとミズーリ州の南東部とテネシー州の北西部は隣接しており、実際はそれほど距離があるわけではない。地元ではミュージシャンの調達やスタジオの手配が難しかったのか、あるいはアーデント伝説に惹かれてのことか、そのあたりははっきりしないが、いずれにしても、その成果はやがていくつかの編集盤に収録され、一部ファンの注目を集めることになった。

 冒頭の『イエロー・ピルズVol.3』を皮切りに、この後彼が参加したコンピレーションを挙げてみると『同Vol.4』(97年)『THE BAM BALAM EXPLOSION Vol.5』(98年)『INTERNATIONAL POP OVERTHROW Vol.1〜Vol.4』(98年〜01年)『UNSOUND Vol.2: GUITARS!』(99年)『POP UNDER THE SURFACE Vol.3』(99年)と主要ポップ・コンピ総なめの人気を誇る。二つ三つならともかく、これら全てに参加しているのは、いくらアメリカにポップ・アーティスト多しといえどもマクミューランくらいのものだ。こうした活躍を見るにつけ、フル・アルバムへの期待は高まるばかりだった。

 そんな中、まさに待望という語がふさわしいソロ・アルバムが登場したのである。「長いことこんなレコードを作りたいと思っていた」と自ら語る自信作だけあって、トレンドのアルバムから数えて実に20年ぶりとなる初ソロ『JOHN MCMULLAN』は期待を裏切らない内容だった。マイルズから届く予定のCDが遅れていることもあって、ここ半月、僕はほとんど毎日一回は本作を聴いていた。そんなに聴いて飽きないのかって? これが不思議と飽きないんですよ。同年生まれだから波長が合うというか、オーソドックスな音作りと抜群なメロディー・センス、じっくりと練り上げたアレンジのバランスのよさ、そのどれもが実にしっくりと耳に馴染むのだ。プロデューサーはジム・ディキンスンの元で修行し、正統派サウンドを代表するドン・スミスだし、音楽的にも20/20やナックなどに影響された正統派パワー・ポップがあれば、トム・ペティを大らかにしたようなアメリカン・ロック・スタイルも、70年代のポール・マッカートニーを思わせるスローなナンバーもあり、ヴァラエティに富んでいて文句なし。

 個人的に今年のポップ・アルバム・ベスト3入りは今のところ確定の傑作です。今なら入手は難しくないと思うので、是非探してみてね。 (参考;www.johnmcmullan.com)

1)JOHN MCMULLAN/John McMullan (Kicktone/823248-1330-2)2002

2)V.A./Yellow Pills vol.3 (ビクター/VICP-60683)1995 *John McMullan「Taking Me Somewhere」収録

3)V.A./The Bam Balam Explosion Vol.5 (Bam Balam/B.B.R.007)1998 *John McMullan「Who Do You Love?」収録

4)V.A./International Pop Overthrow Vol.3 (Not Lame/NL-058)2000 *John McMullan「(She's A)Tasty Freze」収録