前号でも触れたフラッシュキューブスのライブを見てきた。予想以上にエネルギッシュ、かつポップのツボを押さえた演奏、さすがのハーモニー、いずれにも感動させられ、大満足。往年のナンバーはもちろん、いくつか聴けた新曲もなかなかの出来だったし、今年秋に予定されているというニュー・アルバムに期待が高まるのだった。このところ体力的にも精神的にも年をくったなあと思うことが多々あるのだが、自分より上の年代がこうしてがんばっているのを目の当たりにして、弱音を吐くのはまだ早いと思い直した次第。

 そんなわけで、今回もフラッシュキューブス、スクラフス、前回のヒーターズらに並ぶ、マイナー・パワー・ポップ・バンドの話題から。70年代後半に2枚のシングルを残したプリックスというバンドがある。ライノのD.I.Y.コンピレーション『SHAKE IT UP』に代表曲「Love You Tonight」が収録されているので、熱心なファンなら名前はご存知だろう。メンフィス出身のトミー・ホーエンとコネティカット出身のジョン・ティヴェン(ヤンキーズ)が中心ということで、どちらも大好きな僕のような人間からすると「夢の共演」的なバンドなのだが、活動期間は短かった。一般的には当然ながら知名度ゼロ。そんなバンドの編集盤がこの日本でリリースされることになったのだ。これを快挙と言わずして何と言おう。リリースを決めたエアーメイルさんには、よくぞ出してくれました! と感謝あるのみだ。

1)PRIX/Historix

 シングル収録曲にアーデント・スタジオでのデモ録音やコロンビアのオーディション・テープを加えた全11曲を収録。アレックス・チルトンの『BACH'S BOTTOM』セッションをジョン・ティヴェンがプロデュースした関係からか、チルトンの「Free Again」や「Take Me Home & Make Me Like It」のプリックス・ヴァージョンが楽しめるうえ、チルトン本人やクリス・ベル(プロデュースを含めてベルがプリックスに果たした貢献はかなり大きかったという)もゲスト参加。プリックス結成のいきさつ等、秘話満載のライナー(ジョン・ティヴェン直筆)もためになる。トミー・ホーエンの力強いヴォーカルが何と言っても素晴らしく、ビッグ・スターにも通じるポップ・ソングがぎっしり詰まった本作は、当時のメンフィス/NYのポップ・シーンに興味があるファンなら必携の一枚であることに間違いない。あとはヤンキーズのリイシューに期待したいところ。

2)KEITH LUBRANT/Face in The Crowd

 続いては昨年のリリースながら、見逃せないポップ・アルバムを入手したのでご紹介。ニュー・ジャージー(?)の新進ポップSSWによるデビュー作は、パワフルでドライブ感たっぷりのギター・サウンドを軸にした力作だ。各所のレビューではグー・グー・ドールズやバッファロー・トム、レッド・クロスといったあたりと比較されている。もっとも当人はインタビューでジョン・ボン・ジョヴィから大きな影響を受けたと大真面目に語っており、根底にあるメジャー志向がインディー派には珍しい外向的な質感と聞きやすさに結びついているのだろう。フックの効いたメロディー・ラインはトミー・キーンやアダム・シュミット等にも通じ、いかにもアメリカンな軽さはあるけれど、モダン・パワー・ポップのストレート/ライト感覚が好きだという人には文句なくお薦め。

3)WILL RIGBY/Paradoxaholic

 さて、前号で予告したようにウィル・リグビーのソロ第2弾を紹介したい。dB'sのドラマーとして活躍中の85年に発表した『SIDEKICK PHENOMENON』以来、間にシングルやEPを挟んで17年ぶりとなるフル・アルバムは、前作同様ちょっといびつなカントリー感覚と長年の経験を生かしたギター・ポップ系統のビートをミックスした好盤だ。dB's解散後はマシュー・スウィートのツアーやシェリ・ナイト、スティーヴ・アールらのアルバムに参加し、いかにもギター・ポップとオルタナ・カントリーの両方に深く関わってきたリグビーらしい内容は、期待以上の出来ばえ。参加メンバーも旧友ジーン・ホルダー(dB's)の他、デイヴ・シュラム、ジョン・グラボフ(シュラムズやスティーヴ・アルマースのアルバムに参加)、マーク・スペンサー(ブラッド・オレンジズ)など、東海岸のオルタナ・カントリー派がずらりと顔を揃えている。

4)TOMMY WOMACK/Circus Town

 80年代のガヴァメント・チーズ、90年代初期のビス・キッツ(ウィル・キンブロウとの双頭バンド)を経て98年にソロ・デビューを飾ったトミー・ウォマック。以前紹介したティム・キャロル、デュエイン・ジャーヴィス、ウィル・キンブロウらと共に、ナッシュヴィルに拠点を置く新進ルーツ・ロッカーとして個人的に注目している一人である。ソロ3作目となる本作は、前2作を手がけたブラッド・ジョーンズから離れて、デヴィッド・ヘンリーと組んだセルフ・プロデュース。内容的にはいつものようにカントリー風味の強いロックを中心にしながら、リラックスしたムードも楽しめる。中ではリプレイスメンツに関する思い出を綴った、ブルース風の「Replacements」なんていうナンバーが面白かった。ビル・ロイド、ロス・ライス、ウィル・キンブロウ等、ナッシュヴィルの精鋭がゲスト参加しているのはまあ当然として、半数以上のドラムを担当しているのは前述のウィル・リグビーだ。

5)MICHAEL HALL/Lucky Too (Blue Rose/BLUCD0274)2002

 本誌02年2月号で紹介したマイケル・ホールの新作が届いている。前作『DEAD BY DINNER』(00年)同様ジャド・ニューカムがプロデュースを担当し、バックはウッドペッカーズ。決めの1曲がないのは残念ながら各曲の水準は高く、淡々とした中にクールな持ち味と豊かな色彩を感じさせ、味わいと深みがいつも以上に滲み出ている点は見逃せない。

6)DAVID ZOLLO/Big Night (Trailer/TRUB37)2002

 本誌02年4月号で紹介したデヴィッド・ゾロの新作も届いている。が、もう字数がない。70年代のストーンズやフェイセズを思わせる、ルーズなロックンロール主体の佳作、とだけ言っておこう。

7)CAITLIN CARY/While You Weren't Looking(Yep Roc/2029)2002

8)CARY HUDSON/The Phoenix(Black Dog/2201)2002

9)JAY BENNETT & EDWARD BURCH/Palace At 4am(Undertow/0009)2002

 最後は3月から4月の注目作を駆け足で。ウィスキータウン、ブルー・マウンテン、ウィルコ(絶賛はしませんが、一応新作肯定派です)と、90年代のオルタナ・カントリーをリードしてきたバンドのメンバーが、それぞれの道を歩き始めたことを象徴するアルバムが出揃っている。詳しく紹介する余裕がないけれど、いずれも一聴の価値あり。7)のプロデュースはクリス・ステイミー……と無理矢理3)につなげたところで、以下次号。

1)PRIX/Historix (エアー・メイル/AIRCD-045)2002

2)KEITH LUBRANT/Face in The Crowd (self-release)2001

3)WILL RIGBY/Paradoxaholic (Diesel Only/DO7004)2002

4)TOMMY WOMACK/Circus Town (Sideburn/1006)2002