まずニュースを一つ。本誌発売直後なので、遅れて買う人には申し訳ないのですが、乃年代後半から活躍するパワー・ポップ・バンド、フラッシュキューブスが来日します。キャッチーなメロディとロックンロールのパワーを今に甦らせた、元祖パワー・ポップの魅力を思う存分楽しめるはず。昨年のスクラフスに続く快挙というべき今回の来日をお見逃しなく。

@Heaters『Live & Live Again』(Epilogue)2002

 さて、フラッシュキューブスの話題が出たついでにというわけではないけれど、今回まず紹介したいのは、ヒーターズのライヴ・アルバム。20/20シューズ、それにフラッシュキュ−ブス同様、70年代後期にデビューした数多いパワー・ポップ・バンドの一つで、78年の結成以来地元シアトルを中心に人気を集めた。アルバムとしては、ヒーツと改名してリリースした『Have An Idea』(80年)が代表作(98年のCD『SMOKE』にほとんどが収められている)。日本では(アメリカでも?)かなりのマニアにしか名前を知られていなかったが、99年にもともとのヒーターズという名前で復活し、ライヴを中心にマイペースの活動を続けている。ディスク・ガイド『パワー・ポップ』にも書いたよう に、90年代後半はオリジナル・パワー・ポップ・バンドが次々に復活を果たしており、ヒーターズもその流れの中に位置づけられるだろう。今回のライヴは78年から81年の録音と2001年10月の最新ライヴ、それぞれを一枚ずつ収録した二枚組となっている。古いライヴに熱気があるのはもちろん、20年以上のブランクを感じさせない最新ライヴの充実が素晴らしい。「Some Other Guy」「Night Shift」といった往年の名曲からバーズのカヴァーや新曲まで含んだ、本家パワー・ポップ・バンドの底力を実感できるエネルギーに加えて、ドリーミーなバラードにも味がある。この勢いでオリジナル・アルバムを一枚作ってほしいものですね。

ACandy Butches『Play with Your Head』(RPM)2002

続いては、前作『フォーリング・イントゥ・プレイス』(90年)が日本でも発売され、着実にファンを増やしつつあるマイク・ヴァイオラ率いるキャンディ・ブッチャーズ。あの名曲「すべてをあなたに」(作曲はアダム・シュレシンジャー)の演奏、ヴォーカルを担当していたという経歴にはそそられたし、エルヴィス・コステロやグレアム・パーカーを思わせるヴォーカルは好みだった のだが、デビューEPの印象はもう一つ。前作も曲はいいのに、サウンド・プロダクションにおける80年代的なメジャー臭さが少し鼻について、正直言うとそれほどのめり込めなかったのだけれど、どこか気になる存在であり、新作が出ればつい買ってしまう。で、本作だが、これは気に入った。こちらが慣れたせいかサウンドもそれほど気にならず、特に頭三曲の完成度の高さには素直に脱帽です。

BMike Rosenthal『Movin' In』(Red Truck)2002

 今月の一番お気に入りアルバム。『Hit The Hay Vol.5』にも収録されたルーツ・ポップ界期待の星、マイク・ローゼンタールが『MIKE ROSENTHAL』(99年)に続くセカンドを発表してくれた。オーソドックスなアプローチによるアーシーなポップ・ソングを満載した傑作だ。各誌のレヴューを見ると、トム・ペティ、ステイーヴ・アール、エルヴィス・コステロ等の名前を引き合いに出されており、マイルズ・オブ・ミュージックの惹き旬にはコステロ、マーシャル・クレンショウ、ジョン・ハイアットの名前が並んでいる。ここまでの名前にピンと来たあなたなら、ためらわずに購入して損はない。小粒だという批判も卦るだろうけど、泥臭くなりすぎないポップ・センスと適度に乾いたロック・センスの寵分が絶妙で、オースティンから登場した最近の新人の中では、ビーヴァー・ネルソンと並ぶ注目の存在である。

CRoger Clyne & The Peacemakers『Sonorah Hope And Madness』(Emmajava)2002

 以前このコラムでも取り上げたアリゾナのルーツ・ロック派、ロジャー・クライン(元リフレッシュメンツ)が地元を象徴するソノラ砂漠をタイトルに冠したセカンドをリリース。スコット・ジョンソン(元ジン・プロッサムズ)も相変わらず元気にギターを弾いている。ロック風味の強かったデビュー作に比べて、今回はリフレッシュメンツ時代を思わせるラテン趣味が随所に顔をのぞかせ、リラックスした雰囲気の中に充実したバンドの姿を伝えてくれる好盤と言えそう。気負いのなさがプラスに作用し、地元を中心にマイペースで活動する、のんびりした様子が伝わってくる。

DBottle Rockets『SONGS OF SAHM』(Bloodshot)2002

 二年ぶりの新作は何とすべてダグ・サームの曲で固めたカヴァー集。99年の11月に亡くなったサームへの追悼の意味もあるのだろう。「She's About A Mover」「Mendocino」などの代表曲を取り上げ、こなれた演奏でルーツ・ミュージック界の巨人への愛を表現しており、今さらながらダグ・サームが現在のオルタナ・カントリー・シーンに与えた影響の大きさを思い知らされる。

ELonesome Bob『THINGS CHANGE』(Leaps)2002

 元ベン・ヴオーン・コンボにして、現在はナッシュヴィルをペースに活動を続けるロンサム・ボブ。遅すぎたデビュー作(97年)に続くセカンドは、タフな男臭さを前面に押し出しながら、マイルドな味つけも効いており、徒歩でアメリカ大陸を横断しているようなゆったりとした曲調は、雄大なスケールと懐の深さを感じさせる。前号で紹介したティム・キャロル、アリソン・ムーアらがゲスト参加し、スティーヴ・アレン(20/20。昨年ルーツ・ロック色の濃いソロも発表)がプロデュースを担当。

 今回は好評(?)につき前回のスタイルを踏襲してみましたが、いかがだったでしょうか? ちなみに@Aはノット・レイム、B〜Eはマイルズ・オブ・ミュージックで購入しました。最後にdB'sファンに朗報。ウィル・リグビーが17年ぶりにセカンド・ソロを発売!(次号で紹介する予定)。クリス・ステイミーも夏には久々の新作をリリースするらしいし、うれしい年になりそうです。