今回は特にテーマを決めずに最近購入したものから個人的な収穫をまとめて紹介してみたい。まずはノット・レイムから届いた新譜を。

(1)トミー・フレイク 『THE DOUBLE LIFE OF』(02年)

 インディアナ州インディアナポリスをベースにするポップ・ユニットによるセカンド。最初のアルバム『BLISS』(98年)では「トミー・フレイク」は個人名ということになっていたが、今回からはランディ・シールズという本名(?)を使うことにしたようで、「トミー・フレイク」はシールズの別名でもあり、バンド名でもあるという多少ややこしいことになっている。しかし、音の方はすっきりとポップにまとまっていてなかなかのもの。前作のプロデュースを手がけたアダム・シュミットのように、甘いメロディとドライヴするギターを基本にしているが、アコースティックな肌触りや技巧的なアレンジもうまく生かされ、メリハリの効いた構成がアルバムの完成度を高めている。ゲストにはクリス・ドーン(ビーティフィクス)の名前もあり、中西部ポップ・シーンの交流がうかがえるのも興味深い。

(2)サイツ 『ARE YOU GREEN?』(01年)

 ミシガン州デトロイトのトリオによるデビュー作。地元インディーから出ていたアルバムをカリフォルニアの新興レーベルが再発したもの。60年代のガレージ/サイケを思わせる混沌としたパワーに、ポップなメロディとギラギラしたロックンロールのダイナミズムを混ぜ合わせたユニークな個性が楽しめる。メンバーはまだ20歳前後と若いくせに、オールド・ファンの郷愁をやたらと誘うこの音作りは一体どうしたことか。結成された頃はジャムやスモール・フェイセス(ここでは彼らの「Hey Girl」をカヴァー)に傾倒していたというが、現在では西海岸のサンシャイン・ポップからフリーやシン・リジイのようなストレートなロック、さらにはR&Bまで、メンバーの好みが広がるにつれて、サウンドも変わってきたという。今後どんな方向に進むのかまだわからないが、注目すべき新人の登場だ。

(3)クーラー 『OH HAPPY DAY』(01年)

 ケンタッキー州ルイーズヴィルの注目レーベル(兼ディストリビューター)、イアー・エクスタシーから届いた新バンドによるデビュー作。弾けるようなエネルギーとキャッチーなメロディは、ファウンテインズ・オブ・ウェインやウィーザーのファンにも大推薦。ぐいぐい押しまくる一方で、スウィートなポップ・センス、ストレートなロックへの愛情(「I Love Rock」「Power Rock '73」といった素朴なタイトルが微笑ましい)を感じさせるところにポイントがある。

(4)バズド・メグ 『THE MUSIC FROM JIM BABJAK'S BUZZED MEG』(01年)

 ポップ・ファンには『イエロー・ピルズVol.4』やボビー・フラーへのトリビュート盤でお馴染みの存在だろう。スミザリーンズのギタリスト、ジム・バブジャクがカート・レイル(グリップ・ウィーズ)他と組んでいるサイド・プロジェクトがついにフル・アルバムをリリースしてくれた。派手なところは少しもないけれど、スミザリーンズのソリッドなポップ性とグリップ・ウィーズのソフトなサイケ・ムードが上手く溶け合っており、両者のファンなら聞いて損はない。

(5)パララックス・プロジェクト 『OBIVIOUS』(02年)

 ペンシルヴァニア州の中堅ポップ・バンド、チェリー・トゥイスターのメンバー、マイケル・ギブリンによる新プロジェクト。スティーヴ・ワード(チェリー・トゥイスターのフロントマン)のソロがバンドとはまた違ったアプローチを見せていたのに比べて、こちらはチェリー・トゥイスターをそのまま発展させたかのようなドリーミー・ポップが中心。デヴィッド・マインハン(ネイバーフッズ)、ピート・ケネディ(ケネディーズ)、ダン・キブラー、同郷のジェフリー・ゲインズなど、多彩なゲスト陣も面白い。

 続いてはマイルズ・オブ・ミュージックで購入したものの中から。

(1)スコット・マクラッチー 『REDEMPTION』(01年)

 NYのアーシーなフォーク・ロッカーによる二作目。前作よりも穏やかになった分マイルドなコクみたいなものが出てきて、いい意味で熟成した感じがする。ザ・バンドの「ウェイト」カヴァーには前作のプロデュースを手がけたスコット・ケンプナー(ディクテイターズ/デル・ローズ)、音楽的にも共通項が多く、絡んできて当然でしょうのウィリー・ナイル、さらに大御所ディオンがヴォーカルで参加し、花を添えている。ラストにはデル・ローズの代表曲「Heaven」を取り上げて、偉大な先輩バンドへのリスペクトも忘れていない。もちろんオリジナル曲の出来もよく、躍動感と深みの両方を兼ね備えた才能が十分伝わってくる。

(2)ブルー・チーフタンズ 『...THAT'S ALL』(01年)

ティム・キャロル 『IF I COULD』(01年)

 ブルー・チーフタンズはワールド・フェイマス・ブルー・ジェイズと並んで90年代前半のNYで活躍していたネオ・ルーツ・バンド。活動時はリリースに恵まれず、シングルを数枚残しただけで93年に解散してしまうが、カントリー、ブルース、ロックンロールを巧みに融合し、地元を中心に人気を集めた。『...THAT'S ALL』は当時の貴重なライブを収録しており、音はチープだけれど、バー・バンドとしてのノリのよさを追体験できるのがうれしい。ブルー・チーフタンズのリーダーだったティム・キャロルはNYからナッシュヴィルに移ってソロ活動をスタート。以前このコラムでも取り上げた『NOT FOR SALE』(00年)や『FREE AGAIN』(01年)に続く第三弾は過去のEPやレアな音源をまとめた編集盤ながら、クォリティーは高い。

(3)ジョン・ディー・グレアム 『HOORAY FOR THE MOON』(02年)

 アレハンドロ・エスコヴェードと並んでオースティンを代表するSSWによる三枚目にして最高傑作。トゥルー・ビリーヴァーズ時代から演奏している名曲「One Moment」の再演に始まり、トム・ウェイツのカヴァーやじっくり聞かせるナンバーまで、彼の持ち味がバランスよく配分され、がっしりとした手ごたえを感じさせながら、柔軟性に富んだアルバムを作り上げてくれた。ドン・スミスの手堅いプロデュースと、マイケル・ハードウィック、ジム・ケルトナーらによる熟練のバンド・サウンドも素晴らしい。

 その他、セイ・ズズ、ブラック・アイド・ドッグ、ベルウェザー、ビリーズなどを取り上げるつもりだったが、もう字数がない。コラム刷新にあたって改めて言っておくと、(主に)こうしたアメリカのポップ・バンドやアーシーなロック・バンドを中心に取り上げる連載です。今後もよろしく。

TOMMY FLAKE/The Double Life of Tommy Flake(self release)2002年

THE SIGHTS/Are You Green? (Fall of Rome/FOR1002)2001年

SCOTT MCCLATCHY/Redemption (LIB/0201)2001年

JON DEE GRAHAME/Hooray for The Moon (New West/NW6036)2002年