ようやくノット・レイムから届いた新譜を聴いている。70年代後半のパワー・ポップを思わせるリシーヴァー(プロデュースはロビー・リスト)、ミネアポリスの注目バンド、アルヴァ・スター、それぞれのデビュー作、ノース・キャロライナのベテラン、コネルズの新作、西海岸のギター・ポップ・バンド、スティルの二枚目など、印象的な佳作が相変わらず目白押しだが、中でもうれしかったのは、ついに出たダグ・ロバースン・アンド・ザ・スワレイズのアルバムだった。

 ダグ・ロバースンといっても日本では誰それ? の世界だろう。80年代から活躍するアイオワ州のベテラン・ミュージシャンだが、それほど知名度があるわけではない。デヴィン・ヒル(90年代前半にソロ二枚あり)と組んだ伝説のポップ・バンド、ダングトリッパーズで二枚のアルバムを残し(89年の『DAYS BETWEEN STATIONS』と90年代前半の『TRANSPARENT BLUE ILLUSION』)、その後ヘッド・キャンディを経て90年代後半からはガレージ・パンクのベント・セプターズ、正統派ギター・ポップのスワレイズを率いて活動を続けている。ベント・セプターズでは三枚のアルバムをリリースしており、スワレイズの方は今回が初のフル・アルバム。さらに、本作をリリースしたシカゴのジンジャー・レーベルとの関連も深く、スワレイズ名義のシングルやベント・セプターズのアルバムがここから発表されている他、ラズベリーズへのトリビュート・アルバムを企画しているし(スワレイズとしても参加)、レーベル・オーナーのマイク・マクラフリン率いるスウィンガーのアルバムにも助っ人として毎回顔を出している。

 経歴を簡単にまとめると、こんな感じになるだろうか。一言で言ってしまえば、アイオワのインディー・ポップ・シーンを代表する存在だ。当初スワレイズ名義で出るはずだった『EVANSCENT』は、ロバースンが自らの名前を初めて冠した記念すべきデビュー作であると同時に、さまざまなキャリアを経てようやく帰還したホームタウンのようなアルバムでもある。派手なところは少しもないし、近年のパワー・ポップ・ファンには物足りなく感じるところもあるだろう。しかし、マイルドなポップ・センスに裏打ちされたナンバーの数々は、いつしか深く心に染みこみ、素朴な歌心が聴くものの胸を打つ。ジーン・クラークのカヴァー「So You Say You Lost Your Baby」もアルバムの流れにぴったりはまり、バーズから続くジャングル・ポップの伝統がしっかりと息づいていることは間違いない。地味ではあるけれど、瑞々しいメロディーとシンプルなアプローチは、80年代で言えばスニーチズやR.E.M.、あるいはスミスやウェザー・プロフェッツ等にも通じる。ネオアコ/ギター・ポップのファンにもアピールする音だし、アメリカより日本の方が受けるんじゃないかな。

 ところで『EVANSCENT』にはデヴィン・ヒル、スティーヴ・ステックレインといったダングトリッパーズ時代からの友人、アイオワのポスト・パンクを代表するフル・ファザム・ファイブのデイヴ・スティーヴンスン等を始めとして、現在のアイオワ・シーンを象徴するような顔ぶれが多数参加している。まず筆頭に挙げたいのがプロデュース、ギター他で大活躍のジョン・スヴェックである。自ら運営するミンストレル・スタジオを拠点に、ジャンルを問わず地元のインディー・バンドを数多くプロデュースしており、アイオワ・シーンを語る際にはずせないキー・パースンの一人だ。代表作はデヴィン・ヒル『DEVIN HILL』(=『STARS』93年)、ハイ・アンド・ロンサム『ALACKADAY』(92年)『FOR SALE OR RENT』(96年)、トム・ジェッセン『REDEMPTION』(96年)など。

 ドラム担当のビル・ネフとジム・ヴァイナーにも注目してほしい。両者ともデヴィン・ヒルのアルバムに参加しており、それ以外にもネフはベント・セプターズ、ヴァイナーはヘッド・キャンディを通してロバースンとは深い交流がある。そのビル・ネフがメンバーとして名を連ねるディック・プラル・バンドは、名前の通りディック・プラルを中心とした四人組。ビッグ・スター風と評されたアルバム『SOMEWHERE ABOUT HERE』を98年に発表しており(プロデュースはジョン・スヴェック/後述のデヴィッド・ゾロもゲスト参加)、個性という点ではもう一つかもしれないが、自然体のサウンドはいかにもアイオワらしい大らかなポップ・センスを感じさせた。

 また、ジム・ヴァイナーはポップ・シーンだけでなく、地元のルーツ・シーンにも大きな関わりがある。アイオワのルーツ・ミュージックといえば、70年代から活躍するボー・ラムゼイとグレッグ・ブラウンの二人の名前をはずすわけにはいかないが、彼らのスタンスを受け継ぐ形で90年代に登場してきたハイ・アンド・ロンサムでもヴァイナーはドラムを担当していたのだ。

 ハイ・アンド・ロンサムは、92年から96年までの間にスタジオ・アルバム二枚とライブ・アルバム一枚を発表。70年代前半のローリング・ストーンズやフェイセスを思わせる正統派ロック・サウンドを基本にして人気を集めた。その中心人物だったデヴィッド・ゾロは既に二枚のソロ・アルバムをリリースしており、中でも代表作はセカンドの『UNEASY STREET』(またもやジョン・スヴェックがプロデュースを担当)。ボー・ラムゼイやグレッグ・ブラウンといった先輩たちの協力を得て、彼自身のピアノをさりげなくフィーチャーし、ロックンロール、ブルース、カントリーをうまく融合したネオ・ルーツ・サウンドを楽しませてくれる。ジェイホークスやトッド・スナイダーあたりのファンにも大推薦の好盤だ。今年の春には三枚目のソロが予定されているというから、期待して待ちたい。

 ゾロが運営するトレイラー・レコーズは他にも数多くの優良アーティストを抱え、アイオワのルーツ・ロック・シーンにおける貢献度は高い。その中で個人的にゾロと並んで注目しているのがエリック・ストローマニス。トム・ジェッセンのバック・バンドやディック・プラル・バンドでベースを担当した経歴を持ち、ソロでも印象的なアルバムを二枚発表している。ミンストレル録音の『ALL YOUR PASSING THROUGH』(98年/ジョン・スヴェックはエンジニア他を担当)、ボー・ラムゼイやデヴィッド・ゾロをゲストに迎えた『THUNDER AND THE PLAINS』(01年)−−いずれも持ち前のアーシーなポップ・センスが強く打ち出され、溌剌としたロックンロールから落ち着いたフォーク・ロックまで、懐かしさと親しみやすさを感じさせる曲作りの腕はかなりのものだ。

 ポップとルーツ・ロックが違和感なく共存しているアイオワのインディー・シーンからは、これからも当分目が離せそうにない。

DOUG ROBERSON AND THE SWARAYS/Evanscent (Ginger/GR4011)2002年

DICK PRALL BAND/Somewhere About Here (White Rose/WRR80001-2)98年

DAVID ZOLLO/Uneasy Street (Trailer/12)98年

ERIC STRAUMANIS/Thunder And The Plains (Trailer/22)2001年